脳と腸の情報交換システム「脳腸相関」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

緊張しすぎて、おなかがキリキリと痛む。便秘が続いて気分が晴れない。精神的なストレスが腸の不調を招いたり、その逆に、腸の不調が精神的なストレスに結びついたり。多くの人が経験する、こうした体験・症状は、脳と腸が相互依存関係にあることを示しています。この脳と腸が互いに影響を及ぼし合う関係を「脳腸相関」と言います。ストレス社会と言われる今、メンタルヘルスを考えるうえで脳腸相関は注目すべき健康テーマといえます。そこで今回は、脳と腸の情報交換システムについてのお話です。

脳腸相関-脳と腸の情報交換

1980年代にマイケル・D・ガーション博士が「腸はセカンドブレイン(第2の脳)である」という学説を発表して以降、脳と腸管の関係に研究者達の興味が移り、徐々に脳と腸の関係が解明されてきました。

脳から腸への影響だけでなく、腸の状態のさまざまな変化が脳に伝わり、気分や感情という心の状態にも影響を及ぼすことが分かってきたのです。

以前から、脳は全身の機能を支配していると考えられ、腸との関係においても脳で感じた不安が腸に伝えられるという研究が行われていました。ところが、近年、腸には腸管神経系という独自の神経ネットワークが発達しており、感知したさまざまな情報を処理して脳へ伝達していることが分かってきました。つまり、脳と腸は情報を交換しあっているのです。

この脳と腸の情報交換は、免疫系、内分泌系、神経系という腸に備わる機能を介して行われています。

ストレスと腸内細菌の関わり

さらに近年、脳腸相関に腸にすみつく腸内細菌が関与していることが分かってきました。そして現在では、脳腸相関という概念は「脳-腸-微生物相関」という新しい概念に進化してきています。

脳腸相関における腸内細菌の関わりが世界で注目されるきっかけになったのは、腸内細菌を持たない無菌マウスを使った基礎研究の報告でした。この研究で、無菌マウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べ、ストレスに対して過敏であること、脳の神経系を成長させるための因子が少ないことなどが分かりました。その後、無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると多動や不安行動が正常化するという報告もされています。

つまり、腸内細菌はストレスの感じ方や脳の神経系の発達・成長、そして行動に関わる存在であることが示されたのです。

ストレスが強くなると症状が悪化するという特徴から、ストレス関連疾患として知られているのが「過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)」です。

過敏性腸症候群(IBS)は、腸に問題となる異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感が続き、習慣的に便秘や下痢などの便通異常を繰り返す機能的な消化管疾患で、日本の人口の約1~2割に見られるなど、決して珍しい病気ではありません。

なぜストレスによってこの病気が悪化するのか、長い間原因が分かっていませんでしたが、過敏性腸症候群(IBS)患者では、脳が不安やストレスを感じると、その信号が伝わりやすく、腸が過剰に反応し、痛みを敏感に感じ取りやすい(知覚過敏)こと、そして、その刺激が脳に伝わり、苦痛や不安感が増すことが確認され、過敏性腸症候群(IBS)は脳腸相関の悪循環によって起こっていることが分かってきたのです。さらに、この脳腸相関の悪循環を生み出す要因として、感染性の腸炎をきっかけに過敏性腸症候群(IBS)の発症が見られるように、腸内細菌が大きく関与している可能性も示されるようになってきました。

脳腸相関に関わる腸内細菌は、一体どのように脳に情報を送っているのでしょうか。

腸内細菌の脳への影響のメカニズムについて、最近の研究で、腸内細菌が「迷走神経」を刺激し、脳に影響を及ぼしていることが解明されました。「迷走神経」は、脳と腸を結ぶ神経で脳と腸が情報を交換するルートの一つです。腸内細菌から脳への情報伝達も、この「迷走神経」を介していると考えられています。

また、慶應義塾大学を中心とするグループは、腸内細菌の情報を肝臓が統合し脳へ伝え、迷走神経反射を通じて腸管制御性T細胞の産生が制御されていることを明らかにしました。

研究グループは、マウスの実験を重ねた結果、

腸管環境の情報を肝臓が集積・統合し、自律神経系を介して脳へ伝えた上、腸管免疫が過剰に活性化しないよう適切な指令が脳から腸へフィードバックされる機構が存在することを明らかにしました。

つまり、「腸→肝臓→脳→腸」相関が腸の恒常性を維持していることがわかったのです。

この発見は、腸内環境の乱れに起因するとされる炎症性腸疾患、メタボリックシンドローム、うつ病、がん、COVID-19を含む消化管感染症といったさまざまな病気の新規治療法の開発に繋がると期待されています。

腸内環境を良くする

一般的にストレスがかかると、脳の中の視床下部、下垂体という箇所からホルモンを介してシグナルが伝達され、副腎という内臓からコルチゾールと呼ばれるホルモンの分泌を促し、これがストレスに対してさまざまな生体反応を引き起こします。

一方、ストレスを受けた腸管は腸内細菌叢(別名、腸内フローラ)にも変化を起こし、病原性が高まるとされています。逆に腸内フローラによっても生体のストレス応答は変化していることが明らかになっています。

これは腸内フローラが良くなれば、ストレスに強くなるとも言い換えることができます。

そこで注目されているのが「腸活」です。腸活は、「腸内環境を整えて腸が持つ本来の力を取り戻す」、腸内環境を整えるということです。先にご紹介した以下のコラムも参照してください。

今さら聞けないキホンの「腸活」 | 神楽坂女子倶楽部|「遊び」×「学び」×「自分磨き」 (kagujyo.info)

以上、エゴレジ研究所から、注目すべき健康テーマである、脳と腸の情報交換システム「脳腸相関」についてご紹介しました。まだまだよく解明されていない脳と腸のメカニズムも多くあるようです。脳と腸は複雑に関係していて、「ストレスが原因ですから、ライフスタイルを見直すことが重要です」といった簡単な一言では片づけられないようですが、「内臓に一般的な病気を認めなくてもストレスによって辛い症状が生じることもある」ということは理解しておいた方が病気の不安がやわらぎ、気持ちは楽になると思います。そして「腸活」を試みることで、腸内環境を良くし、ストレスに強くなる効果を期待しましょう。

 

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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