鈴木留美 スペインワイン専門輸入販売の株式会社エスタリコ・ジャパン(https://www.estarico-japan.com/)のセールスマネージャー。 都内ホテル勤務中の出会いに導かれ、スペインワイン輸入販売の世界へ関わることとなる。「笑顔は幸せを呼ぶ」と「明日は明日の風が吹く」がモットーです。 好きが原動力で、いつかスペインで暮らすことを目標に現在日本語教師の資格取得に向け奮闘中。 |
パエリアの発祥
パエリアってご存じですか?知らない方の方が少ないくらい今ではスペイン料理の代表格ではないでしょうか?今回はワインを離れてスペインの食のお話をします。
一口にスペイン料理と言っても和食と同じで地方によって多種多様です。食べることって本当に興味深い(笑)ですよね。
私は食べることが大好きです。今回は吞兵衛さん向けではなく食いしん坊さん向けの内容です。
さて、まずはパエリアっていったいどこの地方のお料理で元々はどんなお料理だったのかご存じでしょうか?それくらい知っています!有名な話でしょ!という方もいるかもしれませんが、中にはアンダルシア地方へ旅行した時にムール貝や海老といった豪華な魚介類のパエリアをレストランでよく見かけたので、スペイン南部の郷土料理と思ってらっしゃる方もいるかもしれません。
でも正解は、地中海に面するバレンシア地方、ここが発祥の地です。しかも古くはムーア人から伝わったとされています。バレンシアは米どころでもあり水田が広がっている風景も見ることができます。
パエリアってどんなお料理?
第一回目でお話しましたが、初めてのスペインがバレンシアだったのもあり、毎週末お米料理やいわゆる麺パエ(パエリアのパスタバージョン)を食べておりましたが、地中海地方発祥であるものの元々パエリアは山のお料理です。
えっ?海老とかムール貝の入ったご飯だよね?と思われた方多そうですね。
意外に感じるかもしれませんが、山で働く男たちが山の物を入れて薪で炊き食べていたものです。それもあってなのか、週末に奥さまの手を休ませるためのオトコの料理とも言われています。個人的にはどこかのレストランでパエリア・バレンシアーナとメニューにあるととても頼みたくなる1品ですが、がっかりすることもしばしば・・・魚介とお肉のミックスで出てくるお店があるからです。これについても、えっ?普通じゃない?と思われる方結構な確率でいらっしゃるかもしれません。
パエリア・バレンシアーナといったら山の物だけの具です!ここはポイントです(笑)
鶏や兎肉とガロフォという白いんげんやモロッコいんげん、トマト、カタツムリを入れるところもありますね。お肉の出汁とお魚の出汁は混ぜません。ちなみにサフランは高価なのでサフランを入れるご家庭も見たことがありませんでした。パエリア用の色粉その名もコロランテなるものがスーパーで売っております。これは必須ですよ。
だからといって魚介のパエリアが偽物というわけではありません。あくまでも“バレンシアーナ”についてでした。海沿いの地域では魚介類のパエリアももちろんみなさんに食べられていますし、私がお世話になっていたご家庭は何故か魚介類の時は麺パエでした。この麺パエ、本名はフィデウアといいましてカタールーニャのお料理ともいわれています。極細タイプからマカロニのようなタイプまでバラエティに富んでいます。ご興味のある方はぜひ1度お試しください。
さて、それではパエリアを作るお鍋についても少しお話しようと思います。バレンシアの中央市場メルカド・セントラルに行くと市場の周りにたくさんの屋台があり、パエリア鍋専門店もあります。このお鍋の名前はパエジェラといいますが、サイズが豊富で小さいお土産用の物、二人前~何十人分ですか?というようなサイズの物も売っています。見ているだけでも楽しめますよ。今は海外旅行もままなりませんが行かれるようになった際にはぜひバレンシアへも本場のパエリアを食べにお立ち寄りください。
私がお世話になっていたご家族はお子さんが4人とご夫婦に、留学生が多い時で4人いましたので結構な大家族でした。ですから大きなパエジェラがキッチンの横のストッカーに入っていました。
土曜日か日曜日にその出番はやってきて、もちろんガス台には収まりませんので床に新聞紙を敷き、専用のガス台(お鍋と同サイズの円形のもの)で炊き上げます。
日本では床でご飯を炊くというのは考えにくいですが一軒家ではありませんでしたし、結果床でした(笑)
または近所の公園に予約しておくと、到着時間に合わせて人数分を炊き上げてくれるというのもありました。時間になったらみんなで行って屋外で食べるというのもとても楽しかったです。何にしてもみんなが集まればパエリアを囲んでいたように記憶しています。とはいえ20数年前の話ですから今はスタイルも少し変わったかもしれませんね。
主食×主食?
パエリアの本場がバレンシアといえども、スペイン全土に米料理もありますし、アンダルシア地方や美味しいお米が収穫されるアリカンテ地方でもよく食べられている料理です。これらの地域は海沿いなので魚介のパエリアが有名です。
スペインでは日本と同じようなまる米も食べられていてパエリアに使うお米も地域差があります。バレンシアでは丸いお米でした。でもこれはご家庭によっても違うかもしれません。スーパーにはどちらも売っています。
ただ米料理は主食ではありません。パエリアをパンですくっている姿を初めて見た時は正直カルチャーショックを受けました。主食に主食なの????ですよね(笑)
でも、それって私の先入観に外ならなくて、彼らにとってパンは主食ですが米は穀物なので完全に“おかず”な訳です。
食文化も色々で楽しいですね。パンのお話をしたのでひとつオマケですが、多くのスペイン人は耳派で白い中身を残す方が圧倒的に多い印象ですよ。
お米料理天国
では、パエリア以外のスペインのお米料理ってどれくらいご存じですか?
何となく全部パエリアの種類だと思っていたりしませんか?最初にお話したお肉や山の幸で作るパエリア・バレンシアーナに対して、魚介の出汁で炊き上げるアロス・アバンダ。見た目はかなり地味ですが、美味しい魚介の味がお米にしみこんでいる絶品お米料理です。他にはイカの墨で炊き上げるその名も“黒い米”アロス・ネグロ。濃厚なイカの墨で真っ黒に炊きあがったお米、このお料理にはよくアリオリソースが別添でテーブルに並びます。ここまではパエジェラで炊くのでパエリアの仲間、親戚ですね。
せっかくの機会なので地方ごとのお米料理を少しずつ紹介していこうと思います。まずはここ数年美食ブームで訪れる方が増えたバスク地方。有名なのはピンチョスだけではありませんが、アロス・コン・アルメハス(またはチルラス)もまた名物の一つです。
アロス:arroz:お米
アルメハス:almejas:あさり
コン:con:~と一緒に
あさりご飯です。とってもシンプルで、材料は玉ねぎ、あさり、米、水、イタリアンパセリ以上です。
もう一つ特徴的なお米料理をご紹介します。
入れ物はバレンシアにほど近いムルシアというところのもので、小エビを使ったカルデロ。こちらは雑炊に近いお料理でパエリアよりも胃にやさしい仕上がりです。カルデロというのが鉄でできた壺状の鍋?でその中でスープ多めで炊き上げるお米料理です。
カルデロのような雑炊やリゾットに近いお料理にメロソ、カルドソというお米料理があります。実はこの二つにはスープの量が違うとかという違いがあるそうなのですが、ネットなどでも調べて読んでみたのですが、正直なところはっきりとした違いが判りません(笑)
それでも最近はお米料理に力を入れているスペイン料理店もいくつかあり、とても日本人好みではないかと勝手に思っていますし、私自身も大好きです。
今回ご紹介した以外にもタコの土鍋ご飯だとか、オーブンで仕上げるアロス・アル・オルノといった様々なお米料理がスペインには存在します。イカやタコを食べたりお米もたくさん食べたりするスペインと日本にはたくさんの共通点が存在すると感じて疑いません。歴史的にも関係がありスペインから入ってきて日本語として定着したものもたくさんあります。これからも色々な角度で楽しいスペインをお伝え出来たら嬉しいです。
〈プロフィール〉
都立高校卒業/東神開発株式会社へ入社、玉川高島屋S.Cにて受付業務/その後株式会社ミキインターナショナルにてイタリアンレストラン勤務をしながら、2回のスペインへ留学、スペインバル草分けの恵比寿Tio Danjo勤務/生花店勤/病院勤務(医療事務資格取得)/某メガバンクコールセンターSSV/製パン/日本初出店マヨルカ勤務を経て現在はホテル勤務とワインの仕事の二足の草鞋を履いております。てんぷら(スペイン語豆知識)
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