「背筋ピン!」でストレス減退

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

「姿勢」と「心」には密接な関係があることはご存じでしょうか。『心と身体の繋がり』を研究するのは身体心理学。身体心理学とは、早稲田大学名誉教授であった故・春木豊先生によって体系立てられた「体と心のありよう」です。そこで今回は、身体心理学の観点から姿勢と心の関係についてご紹介します。

姿勢が心理に与える影響

姿勢が心理に与える影響に関して、これまでに多くの研究が行われています。わかりやすいものに身体心理学の第一人者である春木先生らが行った研究があります。まず被験者に下図に示すように顔の方向を、
①上向き②正面③下向き、背骨が①直立②曲げるの計6種類の姿勢をとってもらいます。

次にそれぞれの姿勢をとっている時に、どのような気分を感じるのかを「生き生きした―生気がない」「自信がある―自信がない」「明るい―暗い」などの17つの形容詞対について評価してもらいました。
その結果は

●首を下向きにすると他の向きよりもネガティブな気分になる傾向
●背筋を曲げると背筋を伸ばした時よりもネガティブな気分になる傾向
●首をうなだれ、かつ背筋を曲げる姿勢(姿勢6)が最もネガティブな気分になる傾向

引用:春木豊『動きが身体を作る』(講談社,2011年)

総じて、うつむいて背中を丸めている姿勢をとり続けることでネガティブな気分になる傾向がみられたという結果です。

もちろん、この研究はあくまで被験者の主観的な評価によるものなので、科学的な根拠が示されているわけではありませんが、それでも姿勢の違いが心理に異なる影響を及ぼす可能性があるということを示すものでしょう。

コロナ疲れを軽くする「調身」

「調身」とは「身をととのえる」こと。仏教では坐禅のときの姿勢を指すことが多いのですが、身体心理学ではもう少し広く捉え、姿勢だけでなく、表情、手足の動き、歩行なども含まれるようです。

身体心理学が専門の菅村玄二・関西大学教授の提唱された「コロナ疲れを軽くする姿勢・歩行・呼吸のコツ」から、ここでは調身:姿勢、歩行、表情からのアプローチ(出典:プレジデントオンライン 2020.06)について以下にご紹介します。

◆背筋を伸ばす

テレワークになり、通勤がなくなって楽になったという声も聞くが、その分、増えたのが座っている時間だ。子どもの頃なら「姿勢を正しなさい」と叱ってくれる人もいたかもしれないが、他人の目がない自宅で長時間よい姿勢を保つのは難しい。
だが、「姿勢を正す」ことは、背筋を伸ばすというフィジカル面だけでなく、気を引き締めるというメンタル面も同時に言い表している。気分が落ち込むと頭をうなだれ背中を丸めやすいが、実際に猫背をすることでうつ気分が生じることは筆者らの研究でも繰り返し実験で確認されている。逆に、軽いうつ気分のときには、背筋をまっすぐ伸ばすと、猫背になるよりも、気分の回復が早いこともわかっている。

猫背になると、直接的に肺活量が少なくなり、呼気流量も低下するし、感情もネガティブになる。姿勢を正すことで、呼吸も深くなり、気分もいくぶんスッキリするかもしれない。禅が教えるように、身を整えることで、息が整い、心も整うということだ。

◆歩くペースを変える

座ってばかりいるのも健康には良くない。この10年ほどで、長時間の着座が心臓血管系の疾患などの罹患リスクを高めることも指摘されている。逆に、定期的な運動(例:週3回各30分の有酸素運動)は、身体面だけでなく、不安やうつといった心理面にもポジティブな効果が認められている。新しい生活様式では、スポーツジムの代わりに自宅での運動やジョギングも少人数が推奨されるなどの制約もあるが、歩くだけでも座る時間を減らすことができ、気分を変えることもできる。

歩行姿勢の観点からは、やはり背筋を伸ばした姿勢がよいということになるが、歩くペースを変えるによっても気分をコントロールすることが可能だ。不安を感じたり、浮き足立ったりしいるときは意識して普段よりもゆっくりと歩くことで気分が沈静化し、逆に気が滅入っていたりネガティブになっているときは早足にすることで気分は活性化する。

なお、この実験では、一定のテンポを刻むことが気分に影響するのではなく、歩行という動作が重要なことを示す結果となっている。

◆余計な力を抜く

ストレス状況下では、筋緊張が生じやすい。これまでは職場と自宅が明確に分かれることで、気持ちの切り替えが自然となされやすかったが、テレワークになると、自宅が「会議室」になったり、教員や学生にとっては自室が「教室」になったりする。こうなると、これまでのプライベートな空間が職場や学校となり、ずっとスイッチオンとなったままで心身の緊張状態が続きやすい。

とくに、肩こりの訴えを耳にすることが増えた。いまこの記事を読みながら、肩に力が入っていないだろうか。慢性的な緊張状態が続くと、力が入っているかどうかも気づきにくくなるが、いまの肩の位置よりももう少し下げることで力が抜けるとしたら、肩に余計な緊張が入っていたということだ。緊張しているかどうかわかりにくい場合は、肩をぎゅっとすくめて力を入れて、肩をすとんと落とすと同時に力を抜けばよい。これを何度か繰り返すと、緊張と弛緩のコントラストが明確になることで、リラックスした感じを自覚しやすくなる

ほかにも、愁眉筋が緊張すると、眉間にしわが寄るが、「愁眉を開く」という言葉もあるように、眉の間の力を抜いたり、指でほぐしたりすることで、いくぶんホッとした気持ちになることもある。肩や顔に余計な力が入っていないか確かめるとよい。

「背筋ピン!」でストレスホルモンが減る?

コロンビア大のデイナ・カーニー助教授、ハーバード大のエイミー・カディ教授らによる実験で、男女合わせて42名の被験者に「力強いポーズ」と「弱々しいポーズ」を15〜20分取ってもらい、ポーズを取る前後に、被験者の唾液を採取し、ホルモンの変化を調べたところ、血液中のテストステロン濃度が約20%もアップしたという研究結果が出ています。テストステロンは人間のホルモンの中でも、気分や行動に最も大きな影響を与えるものの一つです。

またアメリカのコロンビア大学で行われた研究でも、肩をすぼめて猫背にしているときと比べて、2分間胸を張った姿勢を取るとテストステロンが高くなること、また、ストレスを感じたときに分泌されるコルチゾールというホルモンが減ることも確認されています。

カルガリー大学のリスカインドとテキサスM&A大学のゴティの研究では、背筋を曲げた場合には、無力感やストレスを感じがちになる傾向が観察されました。

「鶏が先か、卵が先か」ではありませんが、下を向いて歩いたりスマホを見ながら歩いたりすると、やる気やストレスに悪い影響を与えかねないということです。背筋をピン! と伸ばした堂々とした姿勢が気持ちを積極的にし、さらにストレスホルモンを減少させるようです。

以上、エゴレジ研究所から、身体心理学の観点から姿勢と心の関係についてご紹介しました。近年「姿勢に問題あり」の「猫背」の人が増えているといいます。パソコンやスマートホンの普及をはじめ、疲労やストレスなどでも猫背になりやすく、猫背になれば、コリや頭痛はもちろん、免疫力低下やメンタル面にも作用します。背中を丸めていると気分が沈み、胸を張ると気分が明るくなるのは気のせいではないようです。簡単にできるストレス減退法の一つとして、1分間の「背筋ピン!」を試してみてはいかがですか?

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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