泣くから悲しいのか?「身体化された認知モデル」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

感覚、知覚、認知という一連の情報処理は、私たち人間が生きていくため、そして、私たちの生活を彩り豊かなものにするために必要不可欠なものです。この情報処理は、さまざまな要因によって柔軟に変化すること、また個人差が存在することが多くの研究で明らかになっています。今回は、近年注目されている身体感覚や身体運動が認知情報処理に影響するという、「身体化された認知」という研究トピックをご紹介します。

「泣くから悲しい」説は本当だった?

意識と身体活動はどちらが先行するのでしょうか? 19世紀の心理学者、ウイリアム・ジェームズとカール・ランゲの二人が提唱した「人は悲しいから泣くのではなく、泣くという行動から悲しいという意識を自覚するのだ」という仮説は昔から論争の的になってきました。

普通、悲しい気分が起きて涙が出ると考えられているが、その逆を唱えているのが「泣くから悲しい」説。体の反応があってから感情が湧き起こるとする説なのですが、それを間接的に裏付けるような研究結果が、早稲田大学理工学術院の渡邊克巳教授らによって、2016年1月11日発行の米科学誌「PNAS」(電子版)に報告されました。音声に感情表現を与えるデジタル音声装置(DAVID)を使い”楽しい” “悲しい” “怖がっている”ような声に変えて参加者に聞かせたところ、声に気持ちが同調したということです。

渡邊教授らは、人が話している時に、その音声の高さなどを微妙に変えることで、ほぼリアルタイムに声が表す感情を変化できるデジタル音声装置「DAVID」を開発。今回は実験の参加者に村上春樹の短編小説の一部を淡々と音読させ、DAVIDを使って”楽しい””悲しい””怖がっている”ような声へと徐々に調節してヘッドホンから聞かせ、実験の前後で気持ちがどう変化したかを回答してもらった。

その結果、ほとんどの参加者が自分の声の変化に気付かぬうちに、声に同調するよう気持ちが変化したと回答。意識的に声に感情を込めなくても、外部からの操作だけで気持ちを変化できるというこの結果は、「泣くから悲しい」説の間接的な証拠にもなるとしています。

さらに研究が進めば、気分障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの患者に、ポジティブな感情を誘導するなど医療分野への応用も期待できるとされています。

「身体化された認知」

最近の認知心理学の知見によれば、人間には「身体化された認知」(embodied cognition)という機能があり、意識が後づけで形成される場合があるというのです。

これまでの行動モデルは脳を中心に置いて、身体からの入力情報を脳が処理(分析・判断)し、また身体に行動指示を出すというもの。マーケティングにおける、消費行動のプロセスに関する仮説のひとつ「AIDMA理論」も、“意識(脳)が行動を制御する”という発想に基づいています(左)。

しかし、最新の脳科学や生物学、認知心理学の研究からは、まず身体レベルで強い感情の動きと行動が同時に発生し、その後少し時間差があって大脳新皮質レベルの認識や判断が行われているというモデル「身体化された認知モデル」が提唱されています(右)。

「身体化された認知」は、「身体的感覚が判断の助けとなる」という考え方に基づいた理論で、消費者行動・マーケティング研究の分野で脚光を浴び注目されています。

意識は後づけで形成される

人と接したとき、冷たいコーヒーが入ったカップを持った時と比べて、温かいコーヒーが入ったカップを持って接した時の方が他者をより温かい人物であると評価するというWilliams and Bargh(2008)の研究があります。

これは身体に触れる物体の物理的温かさが、パーソナリティの温かさと密接に関係していることを示します。ウイリアムスとバージによると、物理的な温かさと心理的な温かさに関する情報処理は共に脳の島皮質という部位が司っており、物理的な温かさを感じたときにも、心理的な温かさを感じたときにもこの部位が活性化するという。そのため、物理的な温かさを感じたときに、心理的な温かさを感じやすくなるというのです。つまり、温かい人物だという印象を相手に与えたければ、その手に温かい物を持たせればよいということになります。

またSlepian & Ambady(2012)は、なめらかな手指の運動をすれば淀みのないスムーズな思考が導かれて創造的になるという研究成果を報告しています。

この他にも、
☑清潔感のある香りをかぐと、「クリーンな行為へ」の関心が高まる
☑重いものを持って人を評価すると、重要な人物だと評価しやすくなる
といった研究も報告されています。

「身体化された認知」の5類型

行動デザイン塾 (Web Designing 2017年6月号)で、「身体化された認知」の活用について博報堂行動デザイン研究所 國田 圭作所長が次のように5つの類型を示しています。

(出典:先行研究をもとに國田圭作所長が作成)

感覚が特定の意識を生み出すというメカニズムは、視覚(色の認識など)に限らない。手に持ったモノの重さや座った椅子の固さといった身体感覚も、特定の意識をコントロールすることがわかっている。
身体化された認知は、主に視覚系、触覚系、嗅覚・味覚系、位置・距離系、運動・姿勢系の5つに分類できる。

こうした脳の仕組みを理解すれば、なぜ「先に体を動かすことで意識変化を起こす」ことができるのか、わかるだろう。例えば「敬礼」という所作について考えてみよう。普通は「相手を尊敬しているから敬礼をするのだ」と思いがちだが、実は「敬礼」という所作(身体感覚)が、相手に対する敬意の念を無意識下で強化している可能性がある。茶室のにじり口も、頭を大きく下げないと入れない構造を利用して、どんなに身分の高い人でも茶室の中では礼儀の心を思い出すようにさせているのだ。

身体感覚は、人の「認知」「感情」「行動」に影響を及ぼしているようです。身体の感覚は、心理的作用とのつながりをほとんど意識されないままに働いているのです。
☑視覚→明るい性格、白黒をつける ☑運動感覚→大手を振る、足をひっぱる
など私たちが普段使っている言葉の中にも、心と身体のつながりを示すヒントは隠れています。

以上、エゴレジ研究所から「身体化された認知」という研究トピックをご紹介しました。人間の認知活動は、身体や環境とのやり取りに基づいて行われているのです。脳の中で起こっていることは、体とそれをとりまく環境で生じていることに依存します。

日常生活の中で「やさしい」気持ちになりたいと思ったときは、「温かいもの」を飲んでみるのも一つの手かもしれません。身体化された認知では、“体”を温めると“心”も温まるからです。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NYこどものくに東京 理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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