子供がいない夫婦の相続 義親の相続は1/3、義兄弟姉妹は1/4 ⁈

山田裕美子
山田税理士事務所 副所長
税理士、相続コンサルタント
EY税理士法人勤務後、独立
税理士歴27年
3世代にわたる感情がもつれた相続を経験したことから、相続専門税理士に。感情や権利関係が込み入った相続が得意。認知症になった親の成年後見や、お一人さまの相続にも精通。

結婚や家族の在り方、生き方が多様化し、結婚しても子供はいないご夫婦も増えています。ご夫婦だけの場合、2人とも稼ぎのある自活した大人だからと、相続対策をしない方も多いと思います。今回は何も対策を行わなかった場合、想定されるトラブルについてお話ししたいと思います。

法定相続人の範囲と相続順位

民法の規定によれば、法定相続人になり得る人の範囲は「配偶者」「子」「直系尊属」「兄弟姉妹」の計4つの続柄となっています。
被相続人の配偶者は必ず相続権を得ますが、他の3つの血族の方々には優先順位(=相続順位)があり、相続順位の最も高い人だけが配偶者と共に相続する権利があります。相続順位と法定相続の割合は以下の図の通りです。

つまり、子供がいない場合、夫婦で協力して稼いで、たまたま配偶者の名義になっているものについては、すべてを相続することはできないということです。

想定されるトラブル① 子供がおらず、父母が健在の場合

先の図のように、お子さんがいらっしゃらない場合、配偶者の相続権は2/3で、1/3は義理の親が受け取ることになります。もしローンで自宅を購入していた場合、ローン残債は保険でまかなわれると思いますが、自宅以外の資産がない(あるいは少ない)場合、義父母に法定相続分の1/3を支払うとなると、自宅を手放すことになるかもしれません。ご自身に1/3支払う預金があれば、売却せずに済みますが、その分、老後資金に不安が出てきます。

想定されるトラブル② 子供と父母がおらず、兄弟がいる場合

お子さんと父母がいない場合、配偶者の相続権は3/4で、1/4は義兄弟姉妹が受け取ることになります。想定されるトラブル①と同じく家を手放すこともあるかもしれません。また通常、兄弟姉妹を経済的に援助しているケースは少ないので、夫名義とはいえ、夫婦で築いた財産の1/4も兄弟姉妹に渡すのに抵抗がある方も多いと思います。兄弟仲が悪く、交際がない場合もトラブルになりやすいです。

対策 遺言書を作成する

トラブル①、トラブル②、双方に有効な対策は遺言です。遺言書で配偶者にすべてを相続させるよう記載しておけば、その意思を尊重してくださる可能性があります。もし、権利を主張されたとしても、遺留分は法定相続分の1/2ですから、トラブル①の場合、義理の父母の権利は1/6、トラブル②の場合1/8となり、負担感が和らぎます。遺言書はトラブル回避に最も力をもっています。

他方、遺言書が有効か無効か争われるケースも多いです。せっかく作成した遺言書を無効にしないためには、法律的に漏れなく、正確に作成する必要があります。是非とも司法書士、弁護士に依頼することをお勧めします。費用は財産総額によりますが、10万円~50万円程度が多いでしょう。「自筆遺言も有効ですよね?」とこの費用を惜しむ方もいらっしゃいますが、確実に遺産を配偶者に渡し、ご自身亡きあと、実のご両親や兄弟姉妹と争わせる苦労をさせないために、先に払っておいた方がよい費用だと思われます。

対策 保険の活用

保険金は受取人が指定されています。よって保険金は指定された受取人のものとなり、遺産分割協議からは除外できます。預金で持っておくと義父母や義兄弟姉妹に分割しなければならないので、一部を一時払い終身保険にしておくと、その分は助かることになります。
また保険金は相続税の対象になりますが、法定相続人一人当たり、500万円の控除があるので、預金で保有しているより節税になるメリットがあります。

番外編

番外編として、内縁関係の相続についてお話ししたいと思います。
相続権が得られるのは、亡くなった人と戸籍上の関係にある人だけです。
内縁の妻・内縁の夫として一緒に暮らしていた、あるいは遺伝上の親子であったとしても、役所への届出がなければ法定相続人にはなれません。内縁関係の方に財産を残したい場合は、遺贈という形で遺言を残すことになりますので、こちらも遺言書が有効です。

他方、過去に別居&離婚していても、役所に届け出がなされておらず、戸籍上婚姻関係が継続していれば、配偶者として相続権が残ります。例えば父親が母子をおいて家を出て、20年以上経過していても、戸籍が抜けていなければ、お母様が亡くなった後の遺産の1/2は父親に権利があります。子供としては納得がいかないこともあるでしょう。この場合、離婚届を出す、遺言書を作成するなど対策が必要です。
法律的な手続きになりますから、司法書士や弁護士さんに相談しましょう。

以上、子供がいない夫婦の相続についてみてきました。
お読みいただいてお感じになったかもしれませんが、相続とは、親子・親戚関係と心の問題が明るみになる機会と言えます。表面的に良好な親戚関係を築いていても、片方が金銭的に困っていたり、心の中に不満をかかえていると、相続時に一気に噴き出すことになります。良好な関係だからこそ、それを継続させるためにも、争いにならないよう、事前に対策することが大事だと思います。

プロフィール

EY税理士法人に勤務後、税理士事務所を開業。税理士歴27年。
のべ5000案件以上の会社や個人のお客様の税務問題に関わる。
結婚、出産、仕事と子育ての両立を経て、相続に特化。穏やかな方法で相続の諸問題を解決する税理士として、他士業からの信頼も厚く、全国から相談を受けている。

著書
「会計人12人のアドバイス」清文社
「MBAエッセンシャルズ」東洋経済新報社

早稲田大学オープンカレッジ講師
立教大学講師
東京都税務相談員
商工会議所税務相談員       歴任

ブログ   https://mirai-souzou-souzoku.com/
YouTube  https://www.youtube.com/channel/UCFCb8rOCU9UUWNKGNupzpCQ

 

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