感情のコントロール法「三人称のセルフトーク」

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

ネガティブな感情が現れるのは、身の危険を知らせるサインだと言われています。例えば、ストレスが溜まった時に感じる「イライラ」は、リラックスが必要だということを知らせるサインといえます。ストレスをため込みやすい人は、感情のコントロールが苦手です。イライラ・怒りなど感情のコントロールできず、ストレスとして溜め込んでしまいます。そこで今回は、最新の研究で紹介された感情のコントロール法についてのお話です。

年齢とともに難しくなる「感情のコントロール」

メンタルレスキュー・シニアインストラクターの下園壮太氏は次のように解説されています。

私たちの心は、「感情」と「理性」という二つの要素から成り立ち、いずれも私たちがよりよく生きるのを手伝ってくれています。問題を客観的に考察し総合的視点で捉えるのが「理性」です。

「感情」の反応はどうしても極端に出てしまいがちなので、「理性」がそれにブレーキをかけようとする。怒りに対しては「どうしようもないじゃない」、悲しみに対しては「結果は変わらないのだから忘れるしかない」、不安に対しては「考えるだけ無駄だよ」というふうに──。
しかし、このような「理性」による“言い聞かせ”は若いときには有効でも、年齢を重ねるとともにうまく働かなくなり、「感情」の爆発を招いてしまうことすらあります。あんなに穏やかだった人がどうして?と周囲は驚くのですが、そこには年齢とともに起こる「エネルギーの低下」が関わっています。

その一方で、人生経験を重ねるうちにさまざまな価値観に触れ、論理を鍛え、冷静な行動ができるようになる人もいます。他人を認め、許せるようになる──いわゆる「丸く」なる人です。上手に丸くなることができる人は、感情をケアするための多様なスキルを身に付けることができた人だといえます。
ただ、どんな人でも年齢とともに、感情をコントロールするエネルギー量は減っていきます。だからこそ、これからは感情をケアするスキルを学び、技術を高めることが重要です。「感情ケア」が上手になれば、より穏やかに、毎日を過ごすことができるようになります。

脳科学に基づくセルフコントロール法

頭の中で自分自身に話しかけるとき、私たちの多くは無意識のうちに一人称(私・僕)を使ってしまうものです。ところが、ミシガン州立大学とミシガン大学の心理学研究者の研究 Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRIでは、

「ストレスを感じるような場面ほど、三人称を使って自分に語りかけることで感情を上手くコントロールしやすくなる」

と、脳科学に基づくセルフコントロール法の効果を伝えています。
この研究は、科学系の米ニュースサイト「サイエンス・ディリー」とネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載され、Newsweek誌でも取りあげられました。

ジェイソン・モーザー准教授のチームは、大学生らを被験者として2つの実験をしました。

  • 実験1では被験者に中立的な画像と嫌悪感を催す画像などを見てもらい、嫌悪感はそれだけでストレスになるとし、ストレスに対する効果を調べた。
  • 実験2では、感情の揺さぶりをよりリアルにするため、参加者らに過去にあった最も嫌な出来事を8つ、事前に書き出してもらい、これらの記憶の引き金となるようなキーフレーズがスクリーンに映し出された。

そして、どちらの実験でも、画像を見た時の感情を、一人称(私・僕)と三人称(自分の名前;例えば『ジョンは~』)でセルフトークしてもらい、どのような脳波の動きがあるかを比較観察しました。

実験1の嫌悪画像では、三人称で話した場合に、感情に関する脳の領域の動きが急速(1秒以内)に低下し、嫌悪感を感じても1秒以内には脳の活動が元の状態に戻っていました。

この結果から、モーザー准教授は「心の中のセルフトークを三人称にすることで、客観的に自分自身について考えられるようになる、と私たちは基本的に考えています」と解説しています。

自分自身のことでありつつ他者を見るような距離感を作ることができ、自分の体験から心理的な距離感を作ることで、感情がコントロールしやすくなるようです。

ひとつの例
ジョンという男性が最近フラれたことについて悲しんでいるとする。そのとき彼が自分に
『なぜジョンは悲しんでいるんだろう?』といった具合に三人称で話しかけると、
『なぜ自分(僕)は悲しいのか?』と一人称を使って問いかけたときと比べて、感情的なリアクションが減る。

※ちなみに、三人称を使ったセルフトークは、脳では他の人と会話しているかのように認識されることがわかっています。人称を変えるだけで自分自身との距離をつくることができます。

自分との距離を保つ3つのメリット
✓不安な気持ちをコントロールしやすくなる
✓困難な状況下での脅威を減らし、困難をチャレンジという視点に切り替えられる
✓自分への後押しとなり、良いパフォーマンスの手助けができる

実験2では、思い出した記憶についてセルフトークする際、一人称で行うグループと、三人称で行うグループに分けた結果の比較で、脳の活性に違いが見られました。
実験1と同様に、セルフトークを三人称にしている間は、感情的に辛い経験を思い出す際に関係するとされている脳の領域の活動が、一人称の時と比べ少なく、感情がコントロールされていることが示唆されました。
つまり、三人称でセルフトークしたグループでは脳への負担が少なく、必要以上に嫌な記憶に振り回されていなかったという結果でした。

さらにセルフトークを三人称にすることがどれだけ努力を要するかを調べた結果、「私」や「僕」を使う場合と比べて、「自分の名前」を使うことには特別な労力を必要としないことも示唆されました。

モーザー准教授は、感情をコントロールする他の方法だと非常に努力が要されると指摘。そのため今回の実験のように心の中でのセルフトークを三人称にすることが、感情の乱れをその場で沈める有効な手段になるとコメントしています。

怒りやイライラ、過度の緊張など、ネガティブな感情はできればすぐに手放したいものですが、なかなか難しいものです。しかしこの実験で、自分に対して「三人称」で語りかけるだけで感情のコントロールがずっと楽になることが示されました。

以上、エゴレジ研究所から、最新の研究で紹介された感情のコントロール法についてご紹介しました。日本語では「自己対話」とも呼ばれる、自分自身とのおしゃべりが「セルフトーク」です。日常的に起きる様々な出来事への一時的な感情に振り回されないためにも、「三人称」でのセルフトークは試す価値がありそうです。

 

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

 

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