ストレス脳とストレス指標の新しい研究

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

慢性的なストレスを早期に発見し、職場の環境改善などの対策につなげられるようにすれば、働く人のウェルビーイングの向上につながる—-そんな考え方のもとに新しいストレスの判定方法の発見があったようです。そこで今回は、新しいストレス脳とストレス指標研究についてのお話です。

ストレスによって不安が生じる新しい神経メカニズム

大阪大学大学院薬学研究科の大学院生 丹生 光咲さん、笠井 淳司准教授、橋本 均教授らの研究グループは、精神的なストレスを受けた直後のマウスの脳全体の神経細胞の活性化を機械学習によって判別分析し、「前障」という微小な脳領域の活性化が最も特徴的であることを見出しました。

さらに、特定の細胞集団の神経活動を操作する技術を用いて、「前障」にある特定の細胞集団の活性化が不安様行動を惹起すること、逆にその抑制が不安やうつ様行動を防ぐことを世界で初めて明らかにしました(図)。

この研究成果は、2022年3月19日(土)午前3時(日本時間)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。

前障は、大脳皮質の深部にある細長く薄いシート状の脳領域です。大脳皮質のほとんどの領域と双方向性の神経回路を形成する特徴的な構造をしています。
これらの成果はストレスが関連する不安障害やうつ病等の発症メカニズムの解明や治療法開発に貢献することが期待されています。

タイピングやマウスの動かし方がストレスの指標?!

大阪大学の研究の一方で、パソコンのキーボードやマウスをどう操作しているかをみるだけで、職場のストレスを判定できるという研究を、スイスのチューリッヒ工科大学が発表しています(2023.3 Journal of Biomedical Informatics)。
この研究は、海外メディア「sciencealert」や「The Wall Street Journal」がその内容を報じています。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)の研究者たちは、新しいデータと機械学習を用いて、タイピングやマウスの使い方で、職場のストレスレベルを検出する方法を開発しました。
人工知能(AI)モデルを使用して、オフィスで働く人のストレスをマウスやキーボードの使い方から検知できる可能性があるということです。

この研究では、研究室で90人(うち女性44人)の参加者が、アポイントメントの計画やデータの記録・分析など、現実に近いオフィス作業を行う様子を観察しました。

90人の学生が三つのグループに分けられ、スプレッドシートに数字を入力したり、計算をしたり、スキャンした書類から請求データをデータベースに入力したりしました。
一つ目のコントロールグループは、会議の計画やデータの集計などの割り当てられた仕事をこなし、それ以外の作業は行ないませんでした。
二つ目のグループは、模擬面接のシナリオで時にマネジャーの質問に対面で答えながら、他の割り当てられた仕事を終わらせました。
三つ目のグループのメンバーは、他のグループに割り当てられた仕事に加え、一定の時点でオンランチャットを介して質問され、作業を中断させられました。
そして参加者は実験中に一定の間隔で、コンピューターのアンケートで自分のストレスレベルを評価するよう求められました。

その結果、ストレスを感じている人は、リラックスしている人とは異なるタイピングやマウスの動かし方をすることが判明しました。

「ストレスを感じている人は、マウスをより頻繁にそして広範囲に動かし、正確さに欠ける」と数学者で研究著者のネーゲリン氏は述べています。
また、ストレスを感じている人は、タイピングの際にミスが多く短い中断を何度も繰り返しながら書き続ける傾向があることもわかりました。対照的に、リラックスしている人は、タイピングの際、ミスは少ないが時間がかかることがわかりました。

研究者らは、機械学習モデルを使用してキーボードの入力、マウスの動き、心拍データという3要素のうちの二つまたは三つ全てを組み合わせたデータを分析し、ストレスの測定についてどれが最も優れているかを判断した結果、マウスとキーボードのデータで学習させたモデルの方が、マウス・キーボード・心拍数データを用いたモデルよりも精度が高かったのです。この調査では、ストレスレベルの上昇がなぜ運動技能に影響を及ぼすと考えられるかには着目していないということですが、単一の種類のデータを用いるシングルモーダリティーモデルの中では、心拍データが最も精度が低かったと報告しています。

数学者で研究著者であるマーラ・ネーゲリン氏は「キーボードの打ち方やマウスの動かし方は、心拍数よりもオフィス環境でのストレスの感じ方の予測因子として優れている」と述べています。
また心理学者で共著者のジャスミン・カー氏は「ストレスレベルの上昇は、私たちの脳の情報処理能力に悪影響を及ぼします。これは運動能力にも影響します」と述べています。
テストはオフィス環境を模した環境で行われたため、結果は現実のシナリオで確認する必要があるとネーゲラン氏はコメントしています。

研究者らは、スイスでは従業員の3人に1人が職場のストレスに悩まされていることを指摘し、仕事上のストレスの高まりを検出する信頼できる方法を見つけることが急務であると述べています。「ストレスを受けた人は、肉体的にも精神的にもすり減っていることに手遅れになるまで気付かないことが多い」とも。

研究チームは現在、実験室での結果を、この取り組みへの参加に同意したスイスの保険会社で働く実際の従業員から収集したデータで裏付けられるかどうかを調査中です。企業などの従業員とともに、倫理学者などにも参加してもらい、個人のデータを責任をもって取り扱うことを保証するために、アプリにどのような機能をもたせる必要であるかについても検討しているそうです。ETHZによると、年内には結果が出る予定とのことです。

以上、エゴレジ研究所から、新しいストレス脳とストレス指標研究についてご紹介しました。ストレスが不安様行動やうつ様行動に影響するというエビデンスは世界初ということです。ストレスチェックは、働く人に自分のストレス状況についての気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させるために実施する「一次予防を目的とした検査」です。多くはWeb上や紙を使って、一定の時間を使って、いろいろな質問に答える形式です。アプリを使って日々のマウスやキーボード操作に表われるストレスの程度を知ることができるようになれば、より精度の高いデータで個人のウェルビーイングが実現できるでしょう。

 

 

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

 

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