「心理的免疫システム」とストレス適応力

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

コロナ禍以降、ウイルスや感染症、病気などから守るためのからだの免疫システムについて読んだり聞いたりする機会が増えたと思います。では心の免疫システムについてはいかがでしょうか?今回は、心理的免疫システムについてのお話です。

幸せに生きるカギ「心理的免疫システム」

誰にも困難や試練のときがあり、つらいことや悲しい出来事を経験することがあります。そのようなことがあると、不安や悲しみなどを感じ、心にダメージを受けたりするものです。しかし、人間には回復力が備わっています。
身体が傷ついてもやがてその傷が癒えるように、心のダメージも時間と共に少しずつ回復していきます。この時に働いているのが「心理的免疫システム」と呼ばれるものです。

ハーバード大学の社会心理学部の教授ダン・ギルバート博士は、
人間には心理的免疫システムがあり、予想通りにいかないときほど、この力が強く顕れる。つまり、負け惜しみや強がりではなく、無意識のうちに自分の選択を肯定して、世界をよく感じられるように脳内で合成するのである。
これこそが、「幸せに生きるカギ」だとTEDで語っています。

※ Dan Gilbert: The surprising science of happiness | TED Talk

心理的免疫システムは、喜ばしいことがあった時にも辛く悲しいことがあった時にも同じように作用するものだそうです。プレゼンの中では、宝くじに当たった人と下半身麻痺の患者を比較した研究を紹介しています。

1978年にノースウェスタン大学のBrickmanらの研究は、主要宝くじ当選者22人と対照群22人を対象に調べたものと、事故によって麻痺になってしまった29人のグループを比較した有名な研究です。

この研究では、下半身不随になった人と、宝くじに当たった人の幸福度は、その出来事があってから1年もたたないうちに「同程度」になることが明らかにされました。
片方は人生が変わるほどの大金を手に入れ、もう片方は足が動かなくなりました。その両者が1年以内に同じ幸福度を持つに至ったのです。

トラウマ的な出来事は、ギルバート博士が言う「心理的免疫システム」を機能させます。この心理的免疫システムは、逃れられない状況において、私たちの脳が前向きな見通しや幸せを生み出すのを助けてくれます。
私たちの身体は、ホメオスタシス(恒常性保持機能)によって安定した健康状態を保っていますが、心についても同じように心理的免疫システムが働くことで安定した心理状態を維持できるようになっています。
心理的免疫システムは、まるで免疫細胞であるかのように防御システムを作動し、体がストレスや恐れ、不安感などを上手くコントロールできるよう働きかけるのです。

意外なストレス適応力

ストレスのたまる出来事は人の調子を狂わせるものですが、「心理的な免疫システム」はこれまで考えられていたよりもはるかに早く回復する力をもっていることが、Forbesジャパンに紹介された(2020.8)最新の研究で明らかになりました。
論文は米専門誌「応用心理学研究」に掲載されました。

この研究は、世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言してから2日後の2020年3月16日に始められ、在宅生活の従業員122人を対象に、新型コロナウイルスのパンデミックによる生活への影響を2週間にわたって1日数回調査されました。

研究では人がどのくらいの速さで「正常」な状態に戻るのかを、「無力感」と「確かさ」という2点に着目して調べました。すると、参加者は調査開始後の2日間はやはり無力感と不確かさの程度が高かったのですが、2週間のうちには正常感を取り戻し始めていたのです。
参加者は主観的にはストレスの度合いが上がっていても、無力感は減り、確かさが増していました。

研究論文の共同執筆者、メリーランド大学ロバート・H・スミス経営大学院のトレヴァー・フォールク教授は、

「大きなストレス源に見舞われると、生活習慣が乱れ、自分をコントロールできない、普段の自分ではないように感じる。これまでは、そのストレス源がなくならない限り、自分が正常だという感覚は戻ってこないと考えられがちだったが、このチームの研究で、非常にストレスの大きい出来事からの「心理的な回復」は、その出来事とまだ苦闘している間にも始まる可能性が示された」と報道機関向け発表で述べています。

さらに「人々が正常感を取り戻すペースには目を見張るものがあり、前例のない課題に直面した場合の回復力を明確に示すものだ」とフォールク教授は言及しています。

余談になりますが、意外にも、参加者の中でストレスへの適応性が最も高かったのは、標準的な心理学の定義で最も神経質と言える人たちだったようです。
調査の初めの時点で「不安、落ち込み、自己意識」の程度が最も高かった人たちは、ほかの人たちよりも回復ペースが速い傾向にあったそうです。
今回の研究ではその理由の説明までは踏み込んでいませんが、過去の研究では、「健全な神経症的傾向」の人はストレスの大きい出来事に対する警戒度や積極性が高くなる可能性があることが示唆されています。

全体として見れば、参加者の大半は想定よりもかなり早く正常感を取り戻し始めていました。ただ、この研究は参加者の自己申告に基づくものであるため、信頼性などには限界があり、2週間たった後の状態などもわかっていません。それでも、前例のない出来事に人はどう適応するのかについて、新たな知見を垣間見せる成果となっているのは事実です。

以上、エゴレジ研究所から、「心理的免疫システム」についての新しい知見をご紹介しました。変化に不安を感じたときに思い出していただけたらうれしいです。アフターコロナに向かう今はちょっとした変換期。新しい生活様式含め試行錯誤を繰り返して、少しずつ前進していきましょう。すべての日が100点でなくても、凹んでしまう日もあっても、「心理的免疫システム」があなたのストレス適応力に役立っていることを忘れないでください。心理的免疫システムは、エゴレジにも通じるものだからです。

 

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

 

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP