代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 |
最近のトレンドワードともなっている「ウェルネス」という言葉ですが、英語では「健康」を意味する代表的な言葉として、「ヘルスHealth」と「ウェルネスWellness」があります。ウェルネスとヘルスとはどう違うのでしょうか。それぞれの使い分けがわかりづらいと感じている人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ウェルネスの意味やヘルスとの違いについてのお話です。
ウェルネスとは?
現在使用されているような「ウェルネス Wellness」という言葉が生まれたのは1950年代です。米国の公衆衛生医ハルバート・ダンの『High-Level Wellness』(1961)により初めて公けに発表され、後に「ウェルネス運動の父」とも呼ばれています。
この発表以降、ウェルネスは若干の再解釈などを繰り返しますが、その存在が広く一般に認知されるようになったのは、1977年設立の全米ウェルネス協会を中心としたムーブメントが大きく影響しています。この草の根運動は日本を含めた世界規模で広がり、医療分野のみならず商品やサービス開発といったビジネス業界全般においても、ウェルネスとその概念が積極的に活用されるようになりました。
提唱者である医学者ハルバート・ダンは、ウェルネスは当人の疾患の有無だけに着目するのではなく、健康を基盤として、より活き活きとした輝かしい人生を志向する姿勢・取り組みを内包した健康観として「ウェルネス」を提唱しました。あえて平易な言葉で言うならば、生活科学として、運動を適宜日常生活に取り入れながら、健康的に日々の暮らしを送ろうという主旨です。
ウェルネスの車輪
広義的な概念から成り立つウェルネスは、次元・カテゴリにいろいろなパターンが見受けられますが、今回取り上げる 8 Dimensions of Wellnessの考え方のモデルは、2012年にミシガン大学とNational Wellness Instituteによって考えられたものです。
1.感情のウェルネス
感情の次元では、感情を表現することや、感情的困難を調整することを中心に考えます。感情的ウェルネスを通して、様々なストレスを乗り越えること、人生を楽しむことが可能になります。
2.身体のウェルネス
身体の次元では、十分な運動、良質な睡眠、健康的な食生活の重要性の認識することが大切になっていきます。身体的ウェルネスを通して、これらを達成することは、病気にかかりにくくなり、健康寿命を伸ばすことに繋がります。
3.社会的なウェルネス
社会の次元では、家族や友達、様々なコミュニティーなどと助け合える関係を築くことが望ましいとされます。社会的ウェルネスを身に付けることで、人との繋がりを実感しメンタル面でのサポートを感じることができます。
4.知性のウェルネス
知性の次元では、知的・技術的関心を広げることや、創造性、広い心を身に付けることが重視されます。知的ウェルネスを高めることで、優れた集中力や記憶力の発揮、批判的思考の上達を促すことができます。
5.職業のウェルネス
職業の次元では、仕事から生まれる豊かさや満足感の追求を目標とします。職業的ウェルネスに置いての価値観や興味、信念などにあった活動への参加は、目的や意味を与えてくれることにつながります。
6.環境のウェルネス
環境の次元では、自然面と社会面での身の回りの環境的健康を目指します。環境的ウェルネスを考慮し適切な環境にいることで、安心感を得られることに加え、刺激を与えられるという効果を得ることができます。
7.精神のウェルネス
精神の次元では、人生の意味・目的の発見に繋がる信念や価値観を広げることに着目します。精神的ウェルネスを通し、自身の信念や価値観を理解することで人生の目的、意味を発見しつつ、冒険心を維持することで人生に対する希望を発見することができます。
8.金銭のウェルネス
金銭の次元には、収入や借金、貯金だけではなくそれらの理解が含まれます。また、これら金銭的な現状とこれからに対する満足感や期待もこのウェルネスに含まれます。日常における金銭のウェルネスを配慮することで、金銭面のストレスや不安を軽減することができます。
それぞれのウェルネスに関して自分に置き換えて考えると、自分の不足している部分が発見できるといいます。8つのウェルネスのバランスを自分なりに発見し、必要な時にはそのバランスを変更していくことが大切であるともされています。
最新のウェルネスの定義
さらに、最新のウェルネスの定義としては、2015年にグローバルウェルネスインスティチュート (Global wellness Institute:GWI)が提唱する「身体的、精神的、そして社会的に健康で安心な状態」があります。
日本では、2017年に琉球大学の荒川雅志教授が「身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして、豊かな人生をデザインしていく、自己実現を志向している状態」として、 健康は基盤でありウェルネスは生き方という新しいウェルネスの定義を提唱しています。
ウェルネスとヘルス
世界保健機関は、1948年に健康(health)の定義として、
「単に病気のあるなしに関わらず、身体的、精神的、社会的に万全な状態」と定義しています。ヘルス(health)という意味合いにおいても、健康とは人の肉体的疾患に関わる事象だけではなく、比較的広義な要素を加味して判断されるものだと説明されています。
しかし現実には、健康(health)は人々が特定の症状や疾患、身体への何らかの反応が生じた時に初めて顕在化する問題に過ぎず、ほぼ医療分野においてのみスポットが当たる概念で、病気ではない「状態」を「ヘルス」と表現してきたのが一般的な理解です。
その後、既述のように「ウェルネス」という新たな健康概念がアップデートされることで、通院するかどうかの判断基準だったヘルスと、健康(health)を基盤に一層充実した心身やライフスタイルを志すプロセスを含むウェルネスで、大まかに区別して使用されるようになっています。
琉球大学の荒川雅志教授は、マズローの欲求階層説を利用してヘルス(健康)とウェルネスの位置づけを次のように説明されています。
健康への欲求とは、安全と安心の欲求に属する低次の「基盤的な欲求」にあたるものといえます。一方、ウェルネスとは、基盤的な欲求の要素も包含しつつ、より上位の欲求、「自己実現」の欲求を目指すものといえるでしょう。
先進諸国の多くは治安、衛生環境、医療インフラが整い、マズローの5段階説でいう基盤欲求はすでに満たされつつあり、高次の欲求である承認の欲求、そして自己実現欲求に向かっています。心身の健康は基盤であり、その健康を基盤として豊かな人生、輝く人生が目的、ゴールでありウェルネスです。
以上、エゴレジ研究所から、新しい健康指標「ウェルネス」とヘルスについてご紹介しました。ウェルネスとは、社会情勢、時代によって人々のライフスタイルと価値観も変容していくなかでその概念も変化していくものです。定義には含まれていませんが、「ウェルネスは他人が決めるものではない」といいます。あくまでも自分自身がいい感じかどうかを、自分に問いかけ続け、意識的に日々の生活のなかで選択し続けるものです。それは自分の責任であり、他人には任せられないものなのです。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事
GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー
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