心の栄養「ストローク」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

私たち人間の肉体は栄養や睡眠を必要としています。それがないと健康な状態で生きていくことができません。身体に栄養が必要なのと同じように心にも栄養が必要です。それは『人との接触から得られる刺激』であると言われています。心の栄養は、私たちが他人と関わり合いを持つことで減っていきますが、新しい心の栄養を他人との関わり合いの中でもらっています。毎日食事をするように心の栄養も日々少しずつ摂りつづけることが大切です。今回は、そういう「心の栄養」についてのお話です。

心の栄養=人との接触から得られる刺激「ストローク」

私たちが社会的な生活をするうえで、人との接触から得られる刺激である「心の栄養」のことを心理学用語では「ストローク」といいます。

もともとは「撫でる」とか「さする」という意味の言葉ですが、心理学的な「ストローク」とは、言語・非言語全て含めて「存在を認める行為」のことを指します。ストロークは、交流分析という心理療法で重視されている概念です。1957年にエリック・バーンによって提唱されました。

私たちは毎日さまざまな人と接しています。家族はもちろん友人や恋人や職場の人、ご近所さんや店員さん。こういう人たちと交流して私たちの生活が成り立っています。そしてこうした交流から私たちは心の栄養をもらっているのです。

◆5つのストローク

公認心理師で精神保健福祉士の川島達史先先生は、この「ストローク」について、次のように説明されています。

まずストロークには、肯定的に関わる、否定的に関わるの2種類があります。

さらに、ストロークには、もう1つ重要な区分があります。それは無条件・条件付きの2つです。それぞれ、肯定/否定ストロークのどちらかとくっつくので、ストロークには4種類あることになります。

肯定・否定×無条件・条件で、4種類に分類されていることがわかります。

1)無条件×肯定的ストローク
結果にとらわれず、存在自体、ありのままの姿を認めるストロークです。
‐具体例-
目があったら嬉しそうにする
毎朝あいさつする
相手の意見をしっかり傾聴する
成功失敗に関わらず努力を認める

このように、結果にとらわれず存在やプロセスを認めていくのが特徴です。すべての人間関係の土台になります。

2)条件付き×肯定的ストローク
何かを達成したから褒めるというストロークです。
‐具体例-
良い成績をとったから褒める
満点を取ったからすごいと褒める
合格したからすごいと認める

条件付きの肯定は「〇〇できたから」「〇〇したから」「成功したから」という条件が前提となります。後程解説しますが、条件付き肯定だけでは、信頼関係は薄くなりがちです。

3)無条件×否定的ストローク
結果にとらわれず、存在自体を否定するストロークです。
‐具体例-
人格批判をする
頭ごなしに否定
相手の意見を全否定する
目があったら嫌そうにする

無条件の否定をされると、私たちは自己肯定感が著しく低下します。人間関係が極度に悪くなる関わり方になるので注意が必要です。

4)条件付き×否定的ストローク
特定の失敗行動や欠点について、否定するストロークです。
‐具体例-
掃除ができないから怒る
遅刻を怒る
コピーの雑さを怒る

条件付き否定ストロークは理由が明確なので、無条件の否定に比べて、心理的負担はそこまでありません。ただし、連続して否定されると自己肯定感が低下していくので注意が必要です。

5)ノンストローク
最後にもう一つ、ノンストロークが挙げられます。ノンストロークは、そもそもストロークをしない関わり方を意味します。
‐具体例-
目が合っても無視をする
仕事を与えない
意見を全く聞かない
音信不通

先に挙げた4つの種類は無条件の否定としても、存在自体は認めているのでストロークはしています。一方で、ノンストロークは、ストロークそのものをしない状態になります。ノンストロークは最も避けるべきと考えます。相手の存在を認めないということは、否定されることよりも自己肯定感を低下させることがあります。できる限りノンストロークは減らしていくのが望ましいと言えます。

ヒントにしたい「選択理論」

一番理想的な心の栄養は、「無条件×肯定的ストローク」を相手に与え、相手からもこちらに返ってくるという関係ですが、そういう関係というのは、なかなか成立しないものです。
それでもそのような関係に持っていくには、日頃からどのようなことに気をつければいいのでしょうか。「選択理論」という心理学理論の中にそのヒントがあります。

選択理論は、1996年にアメリカの精神科医ウイリアム・グラッサー博士が提唱した理論です。
選択理論は、「自らの行動選択の決定は自分自身にしかできない」という考え方で、自分の行動は他人に選択されず、他人の行動を自分が選択することもできないというものです。
選択理論の考え方を取り入れると、他人の行動と自分の行動を切り離して考えられるようになります。他人はあくまで自分とは別の生き物で、期待に応えてくれることはあっても思い通りになってくれることはありません。

「選択理論」では、2つの習慣が提示されています。一つの「致命的な7つの習慣」はすべての人間関係を破滅させ、もう一つの「身につけたい7つの習慣」は一生折れることのない人間関係を育むと言われています。

◆人間関係を壊す「致命的な7つの習慣」

①~⑥は否定的ストロークに当たります。⑦は条件つきのストロークです。
致命的な7つの習慣を使わなくなるだけでも、人間関係は劇的に改善していきます。なぜなら、この7つの習慣は、「外的コントロール=私は相手をコントロールできる」という考え方に基づいたものであるからです。

◆人間関係を育む「身につけたい7つの習慣」

①~⑥は肯定的ストロークに当たります。⑦を実行するときには、肯定的ストロークを使いながら、無条件のストロークをもった態度が必要です。

他人のことはコントロールできないので、コントロールできる自分の行動に焦点を当て、身に着けたい習慣を使うようにすれば、人間関係を築くことができそうです。でも、7つも覚えるのは大変だと思う方もいらっしゃるでしょう。
そんな時は、
「自分のこの行動は、私と相手との距離を近づけるだろうか?」
この問いだけ頭の片隅に置いておいて行動してみてください。一瞬考えてから行動に移すことで、致命的な7つの習慣を使うことを避け、身に着けたい7つの習慣を使う場面が格段に増えることになります。

私たちに必要なのは、心の栄養「肯定的ストローク」です。私たちはストロークについて無自覚になりすぎているのかもしれません。

相手から投げられた否定的ストロークには反応したくなるものですが、反応すれば自分の大事な肯定的ストロークの貯金が減ってしまいます。さらに否定的ストロークも増えるので心の健康によくありません。

最近では、肯定的ストロークを自分に向けて行うことも推奨されています。
肯定的ストローク貯金が減ってしまった(心の栄養不足)と思ったら、頑張っている自分に対してもほめ言葉や励ましの言葉をかけてみましょう。

✓「結果はさておき、努力した自分を褒めよう」
✓「今日1日精一杯やった自分を褒めよう」
✓「なんやかんや毎日がんばってきた」
✓「自分はこんなに頑張っている、えらい」
✓「自分はここまでできるんだ」

そして、自分に対して何かしらの行動でご褒美をあげ、肯定的ストロークの心の栄養を補給しましょう。ストロークは、自分や相手の存在を認める言動です。結果にこだわらず、その過程で何を得たかを考えて、無条件の肯定ストロークで自分を励ますようにしましょう。

以上、エゴレジ研究所から、心の栄養「ストローク」についてご紹介しました。ストロークは何気ない日常の中で交わされる肯定的な心の交流であり、私たちはそうした交流から心の栄養を補給します。これは、私たち人間が生きていく上でとっても大切なものです。「今日たくさん食べたから、明日は何も食べないでもいい」ということはありません。食事は基本的に毎日食べます。心の栄養も同じことです。ストロークは日々摂り続けることが必要なのです。コロナ禍で残念ながら誰しもがストローク不足になっています。微笑む・誉める・お礼を言うなどは、身体接触を伴わないストロークです。肯定的ストロークは数多く試してみてください。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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