代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 |
3月下旬から4月下旬に美しい桜にかかる雨のことを「花の雨」と呼びます。乾燥した冬の季節から一転し、春にむけて空気が潤い、一雨ごとに木の芽、花の芽がふくらみ生き物達が活発に動き出す季節の雨です。今年の4月20日からは24節気の六つ目の節気「百穀を潤す雨」という意味の「穀雨」です。
雨の音には不思議な効果があるようです。今回は、日々の生活の中で溜まりがちな不安やストレスを優しく癒す、雨の音の魅力についてご紹介します。
目次
雨の音とストレスとの意外な関係
雨の音を聞くと不思議と気分が落ち着いたという経験はありませんか。
その理由のひとつは、雨の音に含まれる高周波成分にあります。雨の降り方にもよりますが、一般的に雨の音は一滴一滴の音というよりもサーッというホワイトノイズのような音に聞こえることが多いようです。
ホワイトノイズは、すべての周波数の音が均等に含まれることによって発生するもので、その中にはとても高い周波数の音も含まれています。高周波成分は、脳の働きを活発にして血液の流れをスムーズにし、身体全体をリラックスさせる効果があることで知られています。
人の可聴域を超えた高周波をハイパーソニックといい、これと耳で聴こえる音をともに体感すると、体や心を司る脳機能が活性化されることがわかっています。また、ハイパーソニックに触れると脳からα波が発せられ、脳がリラックス状態に導かれるのです。
人の身体は、ストレスを感じると自律神経のバランスが崩れ、 交感神経が活発に働くことで外部からの刺激に備えた「戦闘モード」のスイッチが入ってしまいます。 そうなると血管が収縮し血圧も上がって、どうしても血のめぐりが悪くなってしまうのです。血行とストレスには切っても切れない関係があり、さらに高周波成分が豊富に含まれる雨の音には、この血のめぐりを促してあげる効果があります。
つまり雨音の効果によって身体の隅々まで血液が正常に送られれば、 結果としてストレスを緩和することができるというわけです。
さらに、私たちが雨の音でホッと落ち着けるもうひとつの理由が、「1/fゆらぎ」にあります。「1/fゆらぎ」とは、パワースペクトル密度が周波数「f」に反比例するゆらぎのこと、規則正しさと不規則さが調和したパターンのことです。生体のニューロンが電気パルスを発射する間隔が「1/fゆらぎ」をしているので、生体のリズムは基本的に「1/fゆらぎ」をしている、ということがわかっています。
私たち人間の身体の中にも「1/fゆらぎ」はあらゆるところに隠れています。たとえば心拍や呼吸のリズムがそうで、雨の音の持つゆらぎと私たち自身のゆらぎがちょうど良い具合に共振し、そのおかげで私たちは雨の音に安心感や心地よさを感じることができるという一面もあのようです。
つまり、雨音だけではなく、心拍音、キャンドルで揺れる炎、小川のせせらぎ、電車の揺れ、木漏れ日、蛍の光、そよ風、クラシック音楽などが生体のリズムと同じなので、私たちは心地良いと感じるのです。雨音を聞くと眠くなってうとうとしてしまうのはそうした理由があるのです。私たちの体にはリズムがあり、同じリズムにヒーリング効果があるという不思議なお話です。
雨の音のポジティブ効果
雨の音に関する研究からわかった知見をいくつかご紹介します。
1:雨の音は「記憶力」「集中力」をアップさせる!
オーストラリアのニューサウスウェルス大学の研究で、雨の日の方が記憶力・注意力が上昇することが明らかになりました。
実験では、店の中に小物を複数設置し、客が店から出てくるたびに、店の中に何が置いてあったのか質問しました。すると、客の回答の正答率は、雨の日の方が晴れの日よりも3倍ほど高かったそうなのです。この結果から、雨天に起因する暗い雰囲気や気分により、私たちの記憶力や注意力は上昇することがわかりました。
アメリカのプリンストン大学の研究によって、無音~50デシベル程度しか音が聞こえない静かな環境(図書館や自習室など)よりも、70デシベル程度の雑音に囲まれた環境(カフェや雨音が聞こえる場所など)の方が、人間の脳は効率よく働くことがわかっています。ちなみに、70デシベル程度の雑音は「環境音」と言われており、脳の働きをアップさせ創造性を高めるだけでなく、リラックス効果も有しています。雨音は、まさにこの環境音には最適です。
雨が落ちる“しとしと”という音には、脳波をα波にする効果があります。α波は、集中しているときやリラックス時などに表れる脳波で、雨音の心地よいリズムが自然と心を落ち着かせ、脳内の集中力がアップするのです。
2:マイナスイオンでリラックスできる!
雨の日は、雨音だけでなく「マイナスイオン」が町中に広がるのです。マイナスイオンとは、空気中に含まれるわずかな電気を帯びた分子集団のことを言います。マイナスイオンは、ストレス軽減やリラックス効果があるとされています。
- 血液の浄化作用=血液を浄化するとともに、血液の弱アルカリ化を進める。
- 細胞の臓活作用=細胞の新陳代謝を活発にし、筋肉の活性を高め、内蔵を健康にする。
- 抵抗力の増進作用=血液中のガンマグロブリンを増やし、からだの抵抗力・免疫力を高める。
- 自律神経の調整作用=自律神経の機能を向上させ、内分泌作用や造血作用を亢進する。
自然界が持つこの4つの作用の相乗効果によって、鎮静・催眠・制汗・食欲増進・血圧降下・爽快感・疲労防止・疲労回復など、人の健康を積極的に助けてくれるのです。
3:気分転換やクールダウンにも!
強い不安を感じたり、カッとして血圧が上がっている時にこそ、雨の音はうってつけのヒーリングミュージックです。高周波成分や「1/fゆらぎ」のほか、単純に雨=水には汚れを洗い流してくれるイメージがあるため、雨の音を聞くと無意識のうちにそのイメージが想起されてモヤモヤした気分がスッキリする人も少なくないでしょう。
イライラした気分がおさまらない時や、悲しい気分の時など、心を前向きに落ち着けたい時にはぜひ雨の音に耳を傾けて、心穏やかに過ごしてみてください。
春の「雨の呼び名」
ただ春に降る雨も、「雨」で終わらせてしまうのではなく、その降り方や情景、情緒などに関連付けて色々な名称で表現しています。一つの事柄をここまで細分化して受け取ることが出来る感性と、その感じた事柄を表現することが出来る言語を持つ民族は日本人だけしかないと言われています。
春雨(はるさめ) | 2月末から3月の晩春に降る、雨足が細かくしとしと降る雨。「花散らしの雨」とも |
春(はる)時雨(しぐれ) | 春のにわか雨のことで、春に降る時雨。時雨は晴れたと思ったら降りだし、降りだしたと思ったら止むを繰り返す定まらない雨のこと |
花(はな)時雨(しぐれ) | 桜の時期に降る時雨のこと |
催(さい)花(か)雨(う) | 花の育成を促す雨。養花雨、育花雨とも |
春(はる)驟雨(しゅうう) | 夕立のように激しく降る春のにわか雨のこと。『春夕立』とも |
紅(こう)雨(う) | 春、特に花が咲いている時期に降る雨。赤い花に降り注ぎ、花が散るさまを例えたことば |
菜種(なたね)梅雨(つゆ) | 3月から4月の菜の花が咲く頃の、しとしとと降る雨 |
発火(はっか)雨(う) | 24節気の「清明」の頃、やわらかく静かに降る雨。「桃花(とうか)の雨」「杏花雨(きょうかう)」とも呼ばれます。桃の花に降る雨が、遠目では火を発しているように見えることが語源とも。 |
卯(う)の花腐(はなくた) | 旧暦の卯月に降り続く長雨。卯の花を腐らせるほど続く長雨のこと |
小糠雨(こぬかあめ) | とても弱く細かく降る雨。春に降るものを指し、秋に降るものは霧雨 |
日本の降水量は世界の平均の約2倍もあり、インドネシアやフィリピンのような亜熱帯ではない国でこれほど多くの雨が降る国は珍しいようです。そのためでしょうか、日本人は古来から、雨に対して特別の思い入れがあるようです。日本には雨の呼び名が400語以上もあると言われています。春の雨の呼び名は、一日ごと、時間ごとに変わっていく天気の変化を柔らかく、こまやかに映し出しているようです。
以上、エゴレジ研究所から春の雨と雨の音の持つ不思議な魅力についてご紹介しました。天気のいい日の散歩は日光の力で人をポジティブにし、活動的にします。これに対して雨の日の散歩は、雨音でリラックスを促したり緊張を取ったりと…人を静かに落ち着ける効果を持っています。雨だからと言って外出を断念するのではなく、ぜひ傘をさして散歩に出てみてください。ちなみに、雨の日に散歩をしたくなる唯一のコツはお気に入りのグッズを揃えること。レインウェア、傘、雨靴など身近に置いて、雨の日も楽しんでみてください。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事
GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー
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