心が弱ったらAWE(オウ)体験

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

星空を見上げたり、大きな滝の前に立ったりすると、私たちは鳥肌が立つような感動を覚えます。そのような体験のことを「オウ(Awe)体験」と呼びます。だれでも何度かは、こういうAWE体験をしていると思うのですが、メンタルが弱っているように感じるとき、心が震えて感動するような体験をすると、気持ちも前向きになるそうです。そこで今回は、AWE体験についてのお話です。

AWE(オウ)とは

満天の星空を見上げて自然の美しさや雄大さ、宇宙の壮大さに思いを馳せたり、地震や津波などの自然の脅威を目の当たりにして畏れおののいたりした時に感じる、人生観や世界観が変わるような感情を心理学ではAWE(“畏怖”と訳される)と言います。AWEは、ネガティブな側面もあるものの、基本的にはポジティブ感情の1つと考えられています。

AWEという感情の特徴は、学術的には、壮大さ(vastness)と、認知的枠組みの変更の必要性(need for accommodation)を感じることだとされますが、わかりやすく言うと、自分の力などちっぽけに思えるような圧倒的なもの(宇宙や大自然、あるいは偉人やカリスマなども該当)を前にして、自分にばかり向いていた意識が変わり、謙虚になったり、曖昧さを許容できるようになったりすることです。

米カリフォルニア大学バークレー校のミシェル・N・シオタ博士とダッチャー・ケルトナー博士は、AWEを感じた時にどのような内面の変化が起きるか、実験で確かめました。

この研究では、まず、AWEを引き起こすものとして、自然や芸術が有効であることがわかりました。雄大な大自然だけでなく、荘厳な音楽や絵画などの芸術も、AWEを感じるのに有効なのです。そして、実験の参加者はAWEを感じた結果、
✓自分はちっぽけな存在である
✓自分より大きな何かの存在を感じる
という感覚になり、自分自身への意識(エゴ)が低くなりました。

また、AWEを感じやすい性格の人は、何でも白黒をはっきりつけたがったり、明確な正解を求めたりする傾向が低いことがわかりました。つまり、曖昧さを許容できるということです。
そして、AWEを感じた後には、クリエイティブな活動(執筆や楽器演奏)をする傾向が高まるという興味深い発見もありました。
さらに、AWEはクリエイティビティ自体をを高めることも研究で明らかになっています。

イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学心理学部のアリス・キリコ博士らは、手軽にAWEを体験する手段として、VR(Virtual Reality)を使い、VRでAWEを喚起する映像を見るとクリエイティビティが高まるか、実験で確かめました。

実験では、52人の大学生を2つのグループに分け、VRのヘッドセットを装着してもらい、2分間、以下の映像をそれぞれ見てもらいました。
・1つ目のグループ:Aweを喚起する映像(高い木々などの雄大な自然映像)
・2つ目のグループ:中立の映像(雌鳥が歩き回っている映像)

その後、クリエイティビティを測定するテスト(TTCT;Torrance Tests of Creative Thinkingという定番のテスト)が実施されました。このテストでは、ある絵(例:羊の絵)が提示され、その絵を子供が喜ぶような商品の絵にするには何を改良すれば良いか、思い付くアイデアを挙げるように指示されました(ユニークなアイデアを多く出すほど、クリエイティビティの評価が高くなります)。
実験の結果、AWEを喚起する映像を見たグループの方が、見ていないグループよりも、クリエイティビティのスコアが50%以上高いことが明らかになりました。

メンタルが弱ったら、心震える感動体験

AWE体験についての研究では、心身ともにさまざまな素晴らしい効果が実証されています。

前述のカナダ・トロント大学のステラー博士らの研究では、AWE体験を頻繁にしている人はインターロイキン6の濃度が低く保たれているという結果が出ています。これは、免疫システムの改善が見られたということです。
インターロイキン6は、身体が慢性的な炎症を起こしているときに出るもので、慢性的な炎症は人の寿命を縮めます。逆にいうと、インターロイキン6が下がっている状態というのは身体には良く、寿命を延ばすことにつながるのです。

一方、スタンフォード大学のメラニー・ルッドは、実験への参加者を2つに分けて、片方には「エッフェル塔にのぼってパリの街並みを見下ろす」場面をイメージしてもらい、もう片方には「知らない塔にのぼって平凡な風景を眺める」場面をイメージしてもらいました。前者のグループはAWE体験を感じてもらう条件です。

そのうえで、どちらのグループにも人生満足度を尋ねると、AWE体験を感じてもらったグループのほうが人生満足度が高くなることがわかりました。AWE体験をすると、心が豊かになり、多くのことに満足できるようになるのです。
うつうつとした気分が続いて悩んでいるなら、ぜひAWE体験をすることをおすすめします。

てっとり早いAWE体験

なかにはAWE体験ができるような大自然に触れる機会をなかなか持てない、という方もおられるでしょう。じつは、普段からでも小さなAWE体験を積み重ねることはできると言います。
オランダ・アムステルダム大学のフォンエルク博士らは、大自然の広大さ・美しさが感じられる動画を見ることでも、軽微なAWE体験ができるとしています。
大自然の美しさ、広大さ、悠久さを少しでも感じられたら、それも一種のAWE体験です。このような動画を大画面にして見てもいいかもしれません。

心理学者の内藤 誼人先生は、その著者「イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本」(明日香出版社)の中で、つぎのように説いています(以下、内藤先生)。

てっとり早いのが、身近な場所で一番高いところに登る方法。山の頂上ですとか、大きな建物の屋上で下の街を見下ろしたりすると、小さなことで悩んでいる自分がバカバカしく感じます。
また大きな仏像であるとか、大きな教会であるとか、そういうものを見ることも、やはり心が震えます。時折でかまいませんので、そういうAWE体験をしてください。

どこかに出かけるのがちょっと面倒だなという人は、空を見上げてください。特に夜空がおすすめです。夜空を見上げていると、本当に自分がちっぽけな存在に感じて、自分が宇宙に飲み込まれていくような、不思議な感覚を味わうことができます。
星の光というものは、何千年も、何万年もかけて地球にまで届くのですが、そういうことに思いをはせていると、自分の抱えている悩みや問題がものすごく小さなものに感じられるはずです。

また、AWE体験は、絵画や芸術作品を見ることでも感じることができます。偉大な作品は、見る人の心を動かしますので、美術館に出かけるのもよいでしょう。いいストレス解消になります。ふだんは美術館などにはあまり行かないという人でも、たまには美術館めぐりもいいものです。だまされたと思って、一度足を運んでみてください。心がスッキリすることを体感できます。

以上、エゴレジ研究所からAWE体験についてご紹介しました。AWE体験は、脳を活性化し、心身に素晴らしい効果をもたらすことがわかっています。この夏は、大自然に触れる機会を積極的に探したり、プラネタリウムや最寄りの美術館に出かけることをおすすめします。自然の美しさや広がりを感じることで、私たちの心と脳に良い影響を与えるAWE体験やプチAWE体験をしてみましょう。

 

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

 

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