注目!脳の栄養「BDNF」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

コロナ禍での自粛生活でいつのまにか引き起こされる免疫力の低下や「健康二次被害」予防運動が注目されています。そこで今回は、「健康二次被害」予防運動のポスターで目についた脳の栄養、BDNF 脳由来神経栄養因子についてご紹介します。

BDNFの効果

BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor;脳由来神経栄養因子)とは、脳の神経細胞の成長や新生を促すタンパク質の一種で、主に脳の海馬や大脳皮質、視床下部、小脳などに集中しています。こうした部位に存在するBDNFは血液脳関門を通過して、体中の様々なところに蓄積されます。

BDNFが枯渇すると神経細胞は死滅します。BDNFは「生存維持と活動」に無くてはならない「体が作るのうの必須栄養素」であり、BDNFレベルは神経系の発達や機能のレベルアップの指標となるものです。

BDNFは、ストレスなどで神経細胞が傷つかないように保護し、神経ネットワークの維持のために働きます。平たく言えば、「脳の機能を正常に保つ働きをしている物質」であると言えるでしょう。

BDNFは脳内では海馬や大脳皮質などに高濃度に分布しており、運動や学習、経験、記憶したことを効率的に海馬に記憶しておくために重要な役割を持っていると考えられています。特に、学習能力との関わりが大きく、脳内のBDNFを増加させれば、学習能力が向上して、学業や仕事の能率アップに繋がる可能性があります。

またBDNFは加齢によって減少することが明らかになっており、加齢によって発症率が増える認知症やアルツハイマー病は、BDNFが減少して学習機能に障害が起こることが原因のひとつであると考えられています。

BDNFは、神経細胞を正常に動作させる作用があることから、結果としてセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成を正常化させ、記憶の定着や学習効果の最適化、意欲や情動のバランスを整える作用があると考えられます。

脳内BDNFが増加すると、以下のような変化がみられるそうです。

  • 記憶力が向上する
  • うつ病が予防、または改善される(気力の向上)
  • 糖や脂質の代謝が改善する
  • 食欲を抑制する
  • 脳卒中による脳傷害、後遺症が軽減する
  • 網膜を保護し、視力を増強する
  • 慢性疼痛を抑制する

BDNFを減少させる原因はストレス

脳内のBDNFはストレスによって減少することが明らかになっています。脳がストレスを感じると、HPA軸の働きによって副腎から糖質コルチコイド(主としてコルチゾール)が分泌されます。コルチゾールの血中濃度が上昇すると、脳内の様々な神経系がダメージを受けます。コルチゾールによる神経系のダメージはうつ病を始めとした精神疾患の発症原因のひとつであると考えられています。

特に過度のストレスによってコルチゾールが過度に分泌され続けると、HPA軸の働きが破綻し、コルチゾールの分泌が止まらなくなります。コルチゾールによって脳の海馬や扁桃体がダメージを受けて、記憶や感情への影響が生じるのと同様に、またセロトニン神経を始めとした神経系も減弱していき、こうしたダメージがうつ病などの発症に結びついていると考えられています。

脳内のコルチゾールが増加するとき、逆に脳内のBDNFは減少することが明らかになっています。ストレスでコルチゾールの濃度が上昇すると、BDNFの発現は低下していき、ストレスの解消と共にBDNFの発現も上昇します。

BDNFを増やすには?

BDNF産生量は生涯一定ではなく、適度な運動習慣と食習慣(生活習慣)によって促進されます。

エクササイズ

ハーバード大学医学部のジョン・J・レイティ博士は著書『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(NHK出版)の中で運動をすると脳から「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質が分泌されるという研究結果を説明しています。

▼有酸素運動
BDNFを増やす運動として、ウオーキングやサイクリングのように、有酸素運動が特に適していると考えられます。なお、ウオーキングやサイクリングは、セロトニン神経を活性化させるリズム運動としても効果的です。

▼単純な運動
ルールや対人関係が複雑なサッカーやバスケットのような球技よりも、難しいことを考えず運動そのものに集中できる個人運動のほうがBDNFを増やすには効果的なのだそうです。

▼比較的短時間の運動
3時間、4時間と比較的長時間の運動ではなく、30分から1時間程度の比較的短時間の運動でもBDNFが増加することが確認されています。30分から1時間程度、継続して行える運動がBDNFを増やす運動として適しているといえます。

▼運動を習慣化させると増えやすい
BDNFは、単発の激しい運動よりも、運動習慣を長期間継続することでより増加していきます。具体的には週に30分から1時間程度の運動を3日程度、習慣化させると良いでしょう。

精神科医で作家の樺沢 紫苑先生は、「コロナ以前から日本人は世界でも座っている時間が長い国だという調査結果がありますが、座りっぱなしの状態では1時間ごとに寿命が22分間短くなるという研究結果もあります。さらに怖いのは、座り続けたことによるデメリットは、あとから運動しても取り戻せないということ。座りっぱなしでいいことはひとつもありません」と指摘されています。

こうした状態を避けるには、1時間に1回は立ち上がることが必要だという。たとえば、コーヒーを淹れる、軽くストレッチをする、自動販売機まで歩いて飲み物を買いにいくといった簡単な動作でもいいそうなので、まずは座りっぱなしの状態を回避するところから始めてみるというのも一計です。

日光を浴びる

オランダの大規模な調査を基にした2012年の研究では、「日照時間の短い秋冬でBDNFレベルが低下していた」という結果が出ています。しかもその差は顕著であり、上で紹介した「運動習慣」などのBDNFレベルに影響を与える他要素もしっかり調整済みのものです。

室内で暮らすことが増えた現代人は特にビタミンDが足りてないと言われてますし、毎日適度に日光を浴びる時間を作ってあげましょう。樺沢先生は、「朝起きてから1時間以内に20分程度の散歩をすると脳内物質がたくさん出るだけでなく、日々の運動不足が補えるなどさまざまなメリットがあります」と朝の散歩を推奨されています。

砂糖と飽和脂肪を摂りすぎない

2002年にカリフォルニア大学が発表したラット研究で、たった2か月精製砂糖と飽和脂肪を多く摂取するだけで、BDNF(脳由来神経栄養因子)が減少し、海馬にも悪影響、認知能力も低下したようです。こうした砂糖と飽和脂肪の影響は、動物だけでなく人間を対象にした研究(2011)でも見られているので、くれぐれも普段の食生活には気をつけましょう。

食べもの&飲みもので増やす

▼高カカオチョコレート
愛知学院大学、(株)明治によって実施された「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」では「高カカオチョコレートに含まれる高濃度のカカオポリフェノールが脳の血流量を増やし、BDNFを含む血流の増加によって認知機能を高める可能性」が見つかりました。

また、「ココアや緑茶に含まれるフラバノールで脳の認知機能が改善した」という研究もあります。

ただし注意点が一つ、市販の高カカオチョコを食べる際は、くれぐれも砂糖に気をつけましょう。カカオ率95%のチョコですら砂糖は入っていますので、食べ過ぎには気を付けたほうがよさそうです。

▼緑茶
同様に緑茶もBDNFレベルを上げるのに有効だと言えそうです。チョコの項目で紹介した研究もありますし、マウス実験でも「茶カテキン、中でも特に抗酸化作用が強いEGCGはBDNFレベルを高めた」という研究結果(2014)が出ています。

ただし、茶カテキンの筆頭であるEGCGは体内での吸収率が低いようで、対策としては「ビタミンAとセットで茶カテキンの吸収率が上がった」という研究結果(2010)を参考に、ビタミンAとセットで摂ってみるのもアリかもしれません。

アロマ

メディカルアロマアンチエイジング研究所と銀座医院の取り組みで「エッセンシャルオイル塗布における各種ホルモンへの影響について」として2019年に発表された研究結果では、毎日入浴後10mlを30日間塗布するアロマテラピーによるBDNFの増加効果が確認されています。

この実験で使用された主なオイルは、

  • ラベンダーアングスティフォリア (鎮静、鎮痛、リラックス、安眠作用)
  • レモン (血流促進作用、抗菌、抗ウイルス作用、リフレッシュ作用)
  • ローズオットー (ホルモン様作用、リラックス作用)
  • ペパーミント (鎮痛、血流促進作用、冷却作用)
  • サイプレス (ホルモン様作用、リラックス作用、脳血流促進作用)で、

これらの精油を中心に最適な配合でブレンドし植物性スクワランオイル(オリーブ由来)で希釈されたものとされています。

以上、エゴレジ研究所から、今注目の脳の栄養「BDNF」についてご紹介しました。適度な運動習慣と食習慣(生活習慣)で促進されるBDNF。年齢に関係なく、誰であっても少し意識すれば得られるメリットです。もし今の生活の中にそんな習慣が入っていないようでしたら、秋日和の一日、ちょっと外を散歩するといった簡単なことから始めてみましょう。マイペースで、ストレスなく、そして老若男女が長期間飽きずに続けられることがBDNFを増やすには適していると言えるでしょう。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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