代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
|
GM 畑 潮/心理学博士 |
少し前になりますが、プレジデントウーマン誌の2017年8月号に面白い記事がありました。メルマガ読者アンケートで「集中力、発想力、記憶力のなかで、一番欲しいものはどれですか?」という問いに対して、圧倒的多数の女性が必要としていたのは「発想力」57.4%、次いで「記憶力」23.8%、「集中力」17.1%という結果でした。そこで今回は、「発想力」と「集中力」をとりあげてみました。
発想力とは何か?
発想力とは、一言で言うと「アイデアを生み出す力」のことです。たとえば、解決したい課題があって、一般的な方法ではうまくいかないとき、新たに別の方法を考えなければいけません。視点や発想を変えたり、知識や経験を総動員させたりした末に「ある工夫」を思いつきます。この工夫こそ、アイデアです。発想力さえあれば、不可能を可能にする希望を見いだせます。こうしたアイデアを生み出す力を「発想力」といいます。発想力を鍛えることで、問題解決能力が高まって仕事がスムーズになったり、芸術的な能力を発揮しやすくなったりします。発想力は、なくて困ることはあっても、あって困ることはありません。
発想力のもとは知識と経験
発想力のもとになるのは知識と経験。知識も経験もゼロという人はいません。つまり発想力は誰もが発揮できる力なのです。
よく「ひらめいた!」と言います。その時のひらめいた一瞬のことだけを考えがちですが、実はそれまでにたくさんの努力と熟考があることを見逃してはいけません。ひらめきは偶然の産物ではなく、膨大な知識を得る努力と諦めずに取り組んだ成果なのです。
アイデアを思いつくためには、前提として知識が必要になります。知識は、アイデア発想の土台です。知識がなければ、どれだけ頭が柔らかくても、アイデアを思いつけません。そのため、大人になって発想力を鍛えることはできないと思うのは誤解です。むしろ逆です。大人のほうが有利です。知識や経験は、アイデアを思いつく強力な武器。大人のほうが知識や経験が豊富にあるため、選択肢が多くなり、アイデアが思いつきやすくなります。年齢が高くなるにつれて、知識と経験が増えるため、発想力を鍛えやすくなります。博識で経験が豊富な大人なら、発想力を鍛える最高の条件がそろっています。
発想力を鍛える適齢期
思考力・想像力・発想力には、限界がありません。上限が存在せず、無限の可能性があります。諦めさえしなければ、いくらでも広げたり深めたりできます。
大切なことは、諦めないことです。すべての人に発想力は備わっていますが、個人差はあります。最低限の発想力しかなく、能力を眠らせている人もいれば、普段から発想力を鍛え、どんどん仕事に活かしている人もいます。
発想力に関しては、力を入れて頑張ることが効果的とは限りません。発想力を鍛えるには、頭を柔らかくする必要があります。常識や先入観にとらわれず、できるだけ思考を自由な状態にすることが大切です。余計な力を入ると、思考の柔軟性が失われるため、現実的な考え方になります。常識や先入観にとらわれてしまい、結果として発想が固くなってしまうのです。発想力を鍛えるなら、逆を心がけましょう。肩の力を抜き、リラックスしましょう。常識や先入観を忘れ、柔らかい心を意識しながら、自由に発想できる状態にしましょう。大人になって頭が固くなっているなら、再び柔らかくすればいいだけです。
特に大切なのは「遊び心」です。真面目な発想からくだらない発想まで、どんなことでも発想していいのです。遊べば遊ぶほど、さまざまな視点から見ることができるようになり、発想力が鍛えられます。頑張るのではなく、遊びましょう。踏ん張るのではなく、好奇心や探求心の趣くままに楽しみましょう。
今は発想力が弱くても、これから鍛えて強化していけばいいのです。発想力が低い分だけ、伸びしろが期待できるため、成長の実感が得られやすくなります。発想力は、中年以降になっても鍛えることが可能です。「今さら」と考えるのではなく「今こそ」と考えましょう。大人になった今こそ、発想力を鍛える適齢期です。
集中力のオンとオフ
発想は「突然ひらめく」ことがあります。実はこのひらめきの瞬間は集中力のオンとオフを作ることで、おとずれやすくすることができそうです。
アイデアを生み出すための準備段階は集中力がオンの状態。大量の資料から知識を増やし、どんなアイデアにするかを考えるため脳の中は大忙しです。そこで頭が疲れてしまうので、コーヒーでも飲みながら休憩します。実はこのリラックスしているときは集中力はオフの時間、脳の中では情報整理が行われているのです。その情報整理の中で意外な知識と知識が結びつくことで「ひらめき」になると考えられています。活発に頭を働かせた後のボーっとする状態がひらめきには大切なのです。
ワシントン大学のレイクル教授らの研究結果(2001年)に、「ボーっとすると脳は平常時の15~20倍のエネルギーを使うため、アイデアも湧きやすくなる」という報告があります。研究によれば、何か行動をしているときと、ボーっとしているときの脳の動きを比較したところ、後者の方が記憶に関する部位や価値判断に関する部位が活発に働いていたといいます。
NHKスペシャルで『シリーズ 人体 特別版~神秘の巨大ネットワーク(5)“脳”ひらめきと記憶』という番組で取り上げられたので、ご存じの方も多いかもしれません。
アイデアがひらめいた瞬間と、何かの作業に集中している時の、脳の働き方の違いを表した画像です。この2つの行動によって光っている場所が全然違うことがわかります。つまり、何かに没頭している、集中している時は、アイデアが出てこないことが多いということです。これは会議などでアイデアを出せ出せと言うことが全く非効率的であることが証明されたわけです。
情報をまとめたり、チェックしたり、手作業をしたりという、集中力が必要な作業をする時と、何かアイデアが必要な時というのは、作業としては分けた方が賢明だということが番組から読み取れました。
ではアイデアがひらめく時は、脳はどうなっているのか。これも番組内で紹介されていた部分を抜粋しました。この画像を見ると、アイデアがひらめいた時と、何も考えない時の脳の状態が同じであることがわかります。周囲の情報を絶ち、敢えて何も考えない時間を作ることで、脳がひらめきやすくなるというわけです。
デフォルト・モード・ネットワーク
これまでボーっとしているときは、脳が運転停止をして休んでいる状態だと認識されていましたが、実はアイドリング状態で、このネットワークが常に稼働していることが先述のレイクル教授らの研究で明らかになりました。脳内のさまざまな神経活動を同調させる働きを持つ、複数の脳領域で構成される脳の働きが「デフォルト・モード・ネットワーク」です。このネットワークのデフォルトモードというのは、一言で言うと何も考えていない時です。
レイクル教授によれば、脳が消費するエネルギーのうち、本を読んだり仕事をしたりといった「意識的活動」に使われるエネルギーは、全体のわずか5%程度。約20%のエネルギーは脳細胞のメンテナンスにあてられ、残り75%のエネルギーが「なにもせずにぼんやりしているときの活動」のために使われているそうなのです。つまり「なにもせずにボーッとしているとき」には、「意識的な活動をしているとき」の15倍ものエネルギーが使われているということです。
デフォルト・モード・ネットワークが活発に活動すると、血流がアップして脳内が酸素で満たされ代謝がよくなります。そうすると脳の他の領域との連携もよくなり、ひらめきやアイデアが浮かびやすくなるという効果も期待できるのです。また、このデフォルト・モード・ネットワークは、人間関係や他者への思いやりなど、人間の社会性と深く関係していて、より人間らしく、人生を豊かで素晴らしいものにするためのカギを握っているとも言われています。
精神科医で医学博士の西多昌規先生も、著書『ぼんやり脳! 上手にボーッとできる人は仕事も人生もうまくいく』(飛鳥新社)の中で、『私たちは、これまでの先入観や価値観をいったんリセットし、「なまけモード・ネットワーク」「ぼんやりモード・ネットワーク」の大切さを見なおしていく必要があるのではないか』と提言されています。
以上、エゴレジ研究所から、発想力と集中力についてご紹介しました。何も考えず、ボーっとすることで頭の中が整理され、心に余裕が生まれます。心の余裕は心の落ち着きにつながり、ストレス解消の効果もあります。集中力のオンとオフをうまく切り替えましょう。ただデフォルト・モードで、脳の各所にエネルギーが行き渡っても、アイデアを生み出す「発想力」がなければ“ヒラメキ”は降ってはきません。知識と経験を豊かにするためにも、好奇心や探究心を忘れないようにしたいものです。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事
GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー
この記事へのコメントはありません。