スポーツ「観る」だけの健康効果

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

コロナ禍の自粛期間が長引く中、オリンピックやパラリンピックをはじめ、さまざまなスポーツ観戦の機会も増えているようです。スポーツの語源 deportare(デポルターレ)には「気晴らしや遊び、楽しみ」という意味があるそうです。スポーツで体を動かすことが健康にいいことはよく知られていますが、スポーツとの関わり方は「する」ことだけに留まりません。 今回は、スポーツを「観る」だけでも健康効果を得られるというお話です。

テレビ観戦ファンの「ウィナーズ・エフェクト」

米シラキュース大学のアラン・メーザー教授によると、テニスや柔道で勝利した選手は、試合後に男性ホルモンの一種であるテストステロン値が高まります。男性ホルモンのテストステロンは、競争をするときに上昇し、勝者はテストステロンの上昇が維持されるもので、テストステロンの上昇の維持によって、勝者はさらに積極的な行動を起こすことができるのです。これが「ウィナーズ・エフェクト(勝者効果)」と呼ばれるものです。
そして、このこのウィナーズ・エフェクトは、スポーツを「する人」だけでなく、「見る人」にも当てはまるそうです。

1994年のFIFAワールドカップ決勝で、試合を観戦した人のホルモン値の変化を調べた研究があります。この大会の決勝はブラジル対イタリア。0−0のまま決着がつかず、PK戦で勝負が決まった試合です。ファンにとっては、これ以上ないくらいハラハラ、ドキドキする展開だったようです。米ユタ大学のポール・バーンハード教授のグループが、米国内でブラジルファンが集まったレストランと、イタリアのファンが集まったピザのレストランで、それぞれテレビで試合を観戦していたファン(両サイド合わせて計21人)の男性の唾液を採取し、テストステロン値を調べました。優勝したブラジルを応援していたファンのテストステロン値は高いままだでしたが、負けたイタリアを応援していたファンのテストステロン値はやや低くなっていました。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9811365

スポーツ観戦と「ミラーニューロンの効果」

ミラーニューロンとは、人間やサルがある行動を起こすときに発火する運動ニューロンのうち、他人(他個体)の行動を見るだけで発火するニューロンのことです。

このミラーニューロン研究の第一人者であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマルコ・イアコボーニ教授は、著書『ミラーニューロンの発見』(早川書房)の冒頭で、ミラーニューロンの象徴的な働きとしてスポーツ観戦を取りあげています。

「選手がプレーしているのを見ることも、自分がプレーしていることと同じになる。選手が捕球するところを見たときに発火するニューロンのいくつかは、自分が実際に捕球するときにも発火する。だから見ているだけで、同時にプレーしているような気になれる」

他人の動きを見ているだけなのに、脳では、実際にその動きをするのに必要な部位が反応しているのです。自分でも経験のある動きを見たときの方が、ミラーニューロンはより発火するといわれています。また、誰の動きを見ても同じように反応するのではなく、ファンである選手、応援している選手の動きを見ているときに、より強く反応するようです。

ちなみに、TVに映し出されるファンの表情から、観ている自分も同じ感情を共有してしまうのも「ミラーニューロンの効果」だそうです。

特定のチームのファンの身体的、心理的メリット

●英国リーズ大学のアンドレア・ウトリー教授が、サッカー観戦は健康に良い可能性があるという研究結果を得たそうです。

米CNNなどの報道によると、ブックメーカーの「ベットビクター」との共同研究で、応援しているチームの勝利を見ることは、90分間、早足で歩くのと同程度の身体的負荷がかかり、勝利を見届けた場合は24時間にわたり高揚感が続くと報告されています。

応援していたチームの勝利を見た後で高揚感が得られるのは、身体だけでなく、気持ちの面でも「あたかも自分が勝ったかのように」感じているからと考えられます。

「Basking in reflected glory(栄光浴)」というのは、社会的に評価の高い人物や団体と自己との関係性を強調することで、自らの評価も高めようとするという意味です。有名人やスター選手と知り合いであると自慢したくなるのも栄光浴です。応援しているチームが勝利し高い評価を得ることで、応援しているファンも評価されている気分になるのではないかと考えられています。

●スポーツファンの心理を研究するマレー州立大学のダニエル・ワン教授は、スポーツファンのグループに参加することのメリットについて調査を行っています。

米国ケンタッキー州立大学に通う155人の学生を対象に、地元スポーツチームのファンであるか、ファンのグループにどの程度の結びつきを感じているかを質問しました。この質問と同時に、自己肯定感と人生への満足度を、最低から最高まで数字によって答えてもらっています。

「チームを自分自身の延長だと強く感じている学生」は、
個人的にも社会的にも自尊心が高く、健全で前向きな感情の度合いも強かった
全体的に孤立や怒りを感じることも少なく、孤独や落ち込みや疲労といった感情もあまり見られなかったと報告しています。

スポーツへの興味そのものがもたらす効果ではなく、「ファンであることで、志を同じくする人々が結びつくきっかけとなり、これが帰属意識を求める人間のニーズを満たしてくれるのです」。

ワン教授はこの効果を「チーム同一化 社会心理学的健康モデル」と呼んでいます。『ファンダム・レボリューション』(ゾーイ ・フラード=ブラナー、アーロン M・グレイザー著、関美和 翻訳/早川書房)

さらにワン教授によれば、ポーツファンを自任する人のほうが、スポーツに興味のない人に比べて、「自尊心が高くて孤独感が低く、人生の充足感が大きくなる傾向にある」そうです。

スポーツ観戦の頻度とうつ傾向リスク

筑波大学体育系助教 辻大士先生らの研究報告(2021年5月19日 ScientificReportsに掲載)があります。

2019年に全国60市町村の21,317人の高齢者を対象とし、「直接現地」と「テレビ・インターネット」でスポーツを観戦する頻度を尋ね、うつ傾向との関連を調べました

その結果、自身が運動・スポーツを日ごろ実践しているかどうかに関わらず、何らかのスポーツを「現地で月1回~年数回観戦している」あるいは「テレビ・インターネットで毎週観戦している」高齢者は全く観戦していない人に比べてうつ傾向のリスクが約3割低いことが確認されました。さらに、観戦している人ほど地域に愛着や信頼を持っていたり、友人との関りが豊かであったりすることによって、うつ傾向のリスクの低下がもたらされている可能性が示されました。

また、早稲田大学(スポーツ科学学術院 樋口満名誉教授)と西武ライオンズの共同研究「プロ野球観戦が高齢者の健康に与える効果」では、プロ野球観戦が高齢者の健康に良いことが科学的に証明されています。

特定のチームを応援する目的がなくても、高齢者が野球場でプロ野球を観戦する場合、観戦前は平常時よりもリラックス感が高まり、観戦後には主観的幸福感が高まることが確認され、高齢者によい感情の変化がみられることが明らかになったのです。

以上、エゴレジ研究所からスポーツ「観る」だけの健康効果についてのお話をご紹介しました。スポーツは見ているだけでも「ウィナーズ・エフェクト」や「ミラーニューロンの効果」によって、心地良い高揚感を与えてくれるようです。また、スポーツを観戦する中でドキドキしたり、ワクワクしたりすることで脳内にドーパミンというホルモンも分泌されます。ドーパミンが分泌されると、適度な緊張感や高揚感、達成感を得ることができます。この時期の健康対策の一つにスポーツ観戦を取り入れてみてはいかがでしょうか。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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