代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 |
人生100年ともいわれる超高齢化社会で、われわれが「よりよい人生」を獲得するには、普段の生活の中で、自然に、持続的に、自分らしい生き方が実現されていくための仕組みづくりが必要だとする「ストリート・メディカル」という新しい考え方があります。
「病を診る医療から、人々を観る医療へのシフト」を実現するためのアプローチで、病院や介護施設から一歩踏み出し、実践の場を「ストリート=街」に移す新しい医療です。今回は、未来へ向かう医療の潮流を表す「ストリート・メディカル」をご紹介します。
目次
ストリート・メディカルの定義
「ストリート・メディカル」という方法によって医療を再定義し、誰もがよりよい人生を獲得できる世界を創るため挑戦をされているのは、『治療では遅すぎる。』(日本経済新聞出版)の著者、横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター長/特別教授 武部貴則先生です。武部先生は再生医療研究の最先端で活躍している医師です。
先生は「人を観る医療」の挑戦として「ストリート・メディカル」を次のように定義されています。
ストリート・メディカルとは、扱うべき対象が「病(Desease)」から「人(Humanity)」にシフトすることを通じて、古典的な臨床医学の範囲を超えて、人を扱うことによって広がる拡張領域を指すものである。したがって、ストリート・メディカルという概念の導入によって、医療は無数の答えを用いる広大な実践領域へと発展するものと予測する。 |
武部先生によれば・・・、
ストリート・メディカルでは、人々の生活の質を改善するために日常生活における様々な接点(タッチポイント)を組み合わせて考えるという発想をします。
従来の医療領域では、内科的・外科的治療による介入手法が中心に研究されてきたのに対し、ストリート・メディカルが扱うのは既存の投薬や外科的アプローチもあれば、衣・食・住など環境へのアプローチもあります。ITツールやセミナー、イベントを活用したり、娯楽を通じた働きかけが必要になるケースも出てくるでしょう。僕がやりたいことは、いまはない解決策をどんどんクリエイトしていきたい、ストリートスマート的思考だと気づきました。これまでのメディカルスクールへのアンチテーゼとして、新しい教育プログラム「Street Medical School(ストリート・メディカル・スクール)」も開講しました。
「ストリート」という言葉は、実践がストリートに出て行くという意味も含みますし、副次的にはいろんな分野の人が関われる印象をもつ言葉になっている気がします。医療が医療従事者のものだけではなくなると、そこにはデザイナーやアーティストがまず必須になりますし、商品をつくるステークホルダーが入ることも必須になります。医療はこれまで鎖国的な状態でしたが、さまざまな領域や世界とつながり、研究やアイデアを形にするために、アーティストやクリエイターが果たす役割が大きくなると考えています。
ストリート・メディカルの具体例
以下に横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センターの資料から武部先生が語る具体的な事例をあげてみます。
◆痛みをイラスト化
病院に行くとドクターに「どのような痛みなのか」を聞かれます。針でチクチク刺す痛み、ハンマーでなぐられたような痛み、締め付けられるような痛み……。いずれも、的確に伝えるのは案外難しいものです。痛みでパニックになっている場合もあります。ましてや、母国語以外で伝えなければならない状態なら大変です。この課題に注目したメルセデス・ベンツがタイの政府機関であるタイ健康増進財団(タイヘルス)と共同で、一目で分かる「痛みマーク」を作成したのです。象徴的な痛みを13のイラストにまとめました。ポイントはデザインがユニバーサル(世界共通)に理解できる点。著者は「私たちが日本語の通じないところに行った際もグラフィックが使えると安心だ。医療と広告が手を組むことによって、医療のコミュニケーションが進化したケースである」と評価しています。
「The Universal Language of Pain」言語が異なる人に症状を伝えることができる13種類の痛みのイラスト
◆Another Steps・・・つい上りたくなる健康階段
普段の生活のなかで簡単に継続的に運動量をふやすことが可能なタッチポイントとして、駅などの階段にフォーカス。アイデアのパターンをいくつか作り出して、電通のクリエーティブチームとともに開発を続けています。「IoTデジタル階段」は1段上がるごとに、踊り場の壁面にコンテンツが代わる代わる映し出される仕掛けです。例えば、毎日のニュースや天気予報などが想定されます。若い世代向けのアイデアには「4コマ漫画階段」があります。階段の昇降数に応じて、次に読むことができるコンテンツが開放されるように仕組めば、インセンティブが高まるでしょう。上りたくなる気分を高める「トリックアート階段」のアイデアも出ました。
(写真:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)
◆アラートパンツ
はくことでメタボを視覚で確認し、予防する効果を狙うアンダーウエア太ると色が変わって、メタボの危険信号を発し続ける「アラートパンツ」。“病気”や“予防”といった医学的な理屈からではなく、“体型”や“下着”という、より生活に密着した切り口から健康行動へと誘うもの。アラートパンツは、体に最も近い、究極のウェアラブル・ヘルスケア・デバイスともいえます。
(写真:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)
◆マンガで学べる生理用ナプキン
個包装のナプキンの剥離紙を利用して、体に関する情報をマンガでわかりやすく発信するというアイデア(下図)。生理の異常に早く気づき、婦人科受診のハードルを下げようとする。ある企業が関心を持ち、商業化に向けて動いているそうです。
(資料:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)
武部先生のコミュニケーション・デザイン・センターでは、2019年から東京デザインプレックス研究所と共同で、医療や広告、デザインなど各界のトップランナーを講師に迎えた「ストリート・メディカル・スクール」も開設されています。医療従事者やデザイナーなどが共に学ぶ場で、講義とフィールドワークを半年行った後、実装を目指したコンペを開くそうです。目から鱗のユニークなアイデアも多いようです。
以上、エゴレジ研究所からより今注目の「ストリート・メディカル」についてご紹介しました。武部先生の著書『治療では遅すぎる。』の巻末には、ストリート・メディカルについて「新しい医療という方法によって、誰もが、よりよい人生を獲得できる世界を創るための絶え間なく続くムーブメントである」と締めくくられています。武部先生の提起したムーブメントは、健康な人にとっても病気を抱えている人にとっても、医療をより身近な存在として見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。痛みのイラスト化をはじめとして、ストリート・メディカルが実際のストリート(街)で可視化される。どんな街ができるのか、これからが楽しみです。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事
GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー
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