コロナ禍で心をむしばむ「ドゥーム・スクローリング」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

まだ終わりの見えないコロナ禍の最中にありながら、以前とは変わってしまった生活様式に徐々に慣れようと多くの人が努力をしています。その一方で、パンデミックや社会情勢の不安から、SNSをつい読み耽り、ネガティヴな情報ばかりを摂取してしまう人が増えているようです。英語圏でのネットスラングDoomscrolling(ドゥーム・スクローリング)と呼ばれるこの行為は、メンタルヘルスに思わぬ長期的な影響を与えるものとして懸念されています。今回は、「ドゥーム・スクローリング」についてご紹介します。

ドゥーム・スクローリングとは?

ドゥーム・スクローリング(Doomscrolling)とは、ネガティブあるいは憂うつなニュースを読んでしまうという新しい強迫観念です。メンタルヘルスに影響する深刻なテクノロジーのトレンドに世界中の心理学者が気づき、警鐘を鳴らしています。

新しいニュースがないかとツイッターをながめ、ツイッターが終わったら今度はFacebookのタイムラインを追い、それが終わったらInstagramと終わりなくスマートフォンでスクロールしてしまうことはありませんか。親指が同じ動作に疲れてもやめることはできません。またツイッターに戻って、すでに大半の話題は何度も見ているはずなのに、なにか新しい情報はないか、気持ちを落ち着かせてくれる新しいなにかがないか、延々とスクロールを続けてしまう。このように、病的なまでにSNSのタイムラインから目を離すことができないという体験談はとくにパンデミックが始まった頃から数多く聞かれるようになりました。

未知のウィルスに対しての恐怖からか、毎日自ら進んで情報収集していた人もいらっしゃるでしょうが、ニュース欄がコロナ関連の話題で埋め尽くされ、否が応でもこのウィルスについての情報が目に飛び込んでくる状況もあったです。その結果、知らず知らずのうちに「ドゥーム・スクローリング」の習慣が身に付いてしまったという人も少なくありません。外出を控えている人やテレワークをする人たちの中には、気づかぬうちにインターネットに触れる機会が多くなったという人も—–。

「Doom」は終末や終焉、絶望を意味し、「Scrolling」はSNSのタイムラインなどをスクロールし続けること。

ハーバード大学公衆衛生大学院の「健康と幸せセンター」でリサーチサイエンティストを務めるメスフィン・ベカルによると、ニュースの多くが悪い内容であることは確かながら、「わたしたち人間には悪いニュースに注意を払う“生来の”傾向がある」と指摘しています。不安定な状況下で様々な情報を集めようとするのは、人間の生存本能に基づく自然な行為なのです。しかし、自分の身を守るために過度に情報摂取をしてしまうと、それが習慣化されてしまい、現実から遠ざかりながらポジティブなことにも目を向けられなくなってしまいます。ドゥーム・スクローリングなどのソーシャルメディアの悪習慣は、確実に不安障害やうつ病に加担する要因となっています。

世界中で外出が自粛・禁止されている中、時間的な余裕ができたことによって、一層インターネットに触れる機会が増えたのも、理由の一つと言われています。

過去に起こったウイルス感染の拡大や戦争などの危機的状況下と、今回のパンデミックで違うことは、ソーシャルメディアが私たちの生活に浸透し、より多くの情報が消費されるようになったことのようです。

ドゥーム・スクローリングの危険性

ほとんどのニュースサイトやソーシャルメディアアプリは、スクロールし続けるように意図的に設計されています。次から次へと同じような関連情報が入ってきやすいネット環境にいるため、ネガティブな情報に触れると、さらなるネガティブを呼ぶ悪循環に陥りやすいのです。

◆悪夢や不眠症

長引く自粛生活と暗いニュースの影響からか、悪夢を見る人が増えているといわれています。ハーバード大学がコロナ禍における人々の夢の変化について調べたところ、巨大な昆虫や得体のしれないモンスターが襲い掛かってくる夢を見たという人が、かなりの数に上ったそうです。

わたしたちが夜に見る夢の内容は、日中の幸福感と関連していることが科学的に明らかにされています。すでにルーティンワークとなっている「ドゥーム・スクローリング」を続けるなら、幸福感が下がることは免れないでしょう。「ドゥーム・スクローリング」をすることが、悪夢の原因になっている可能性は高いといえるのです。

一般的に、奇妙な夢には心理的ストレスを和らげる効果が、悪夢にはわたしたちが自覚していない不安を知らせる役割があるといわれています。夢を見ることには意味がありますが、悪夢のせいで不眠症などの睡眠障害に悩まされる人も少なからずいるようです。

◆うつ病の可能性

ソーシャルメディアは少なくとも、FOMO(fear of missing out:見逃すことへの恐怖)を引き起こしうることは確かです。

ネガティブな情報を取り込むことによりコルチゾールというストレスホルモンが脳に送り続けられ、時間が経つにつれて脳と体が疲弊、気分の落ち込みや健康上の問題につながります。最近の研究で、うつ病の発症にヒトヘルペスウィルス6が関連していることが発見されました。このウィルス遺伝子(SITH-1遺伝子)があると約12倍もうつ病になりやすく、このウィルス遺伝子が生成するたんぱく質の影響で、脳のストレス状態が強まるそうです。 体内に潜んでいるヒトヘルペスウイルスは、疲労時に活性化するといわれています。ですから、「ドゥーム・スクローリング」によって精神的ストレスが与えられ、睡眠障害が引き起こされると疲労が積み重なり、うつ状態からうつ病を発症するリスクがあるといえるのです。

◆ネット中毒

日々のインターネット使用は必要で最適な範囲では正当化されます。ではどこから依存的になるのでしょう?

ネット中毒には、中毒的パターンや明確な症状があります。しかし、依存的になっているためにインターネットを使っているのか、仕事のためにインターネットを使っているのか区別することが難しい場合もあります。これをより理解するのに、次に挙げる特性が役立ちます。

【ネット中毒の特性】
✓過剰な使用:休憩なしで最高20時間のセッションを週40~80時間行う。
✓依存的行動嗜好を隠す。
✓ずっと続けるために、なんらかの刺激を用いる。
✓睡眠パターンの完全な変容。
✓過剰な疲労。
✓学業あるいは仕事への支障。
✓健康問題(手根管症候群など)
✓一般的に、依存症はインターネットの過剰な利用の引き金となる特定のアプリやサイトと関連している。

ドゥーム・スクローリングの対処法

ドゥーム・スクローリングのセルフケアは、いつオフにするかを意味します。SNSなどの情報源と一定の距離を保ち、情報摂取の方法を自分で管理することが重要です。そのためには、スマホの通知機能をオフにしたり、SNSをチェックしたりする時間を制限することがオススメです。ソーシャルメディアに自分の時間やメンタルヘルスを奪われてはいけません。恐怖を感じるのは自然なことで、未来がどうなるかという結論がでないことも仕方のないことですが、恐怖が心を乗っ取ってしまうことがないようにだけ注意すべきであることをあらかじめ頭の片隅で意識しておきましょう。

ただ日常生活をしている以上はどうしてもマスメディアの情報に触れてしまいます。そんな時は、国内のニュースだけでなく、海外のニュースを見てみると良いかもしれません。「新型コロナウィルス」の日本の対策について国内では「対応が悪い」としか報道されていませんが、海外のニュースでは賞賛されていたりします。また、日本の「オンライン飲み会(オン飲み)」が、欧米では「ON-NOMI」として紹介され、彼らも日本のまねをしてオンライン飲み会を始めたそうです。

ジョイ・スクローリングの効能

ドゥーム・スクローリングがメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼすのとちょうど同じように、ジョイ・スクローリングは、最悪な気分をやわらげるよう助けてくれる可能性があります。心理学者のEmma Kenny氏は、「ネガティブなニュース視聴に、自分を感動させたり元気づけてくれたりするようなコンテンツを織り交ぜれば、悪い感情を抑制しやすくなります」と述べています。

Kenny氏は現在、アイスランド観光局サイト「Visit Iceland」で実施されているジョイ・スクローリング・キャンペーンに協力していて、この発言は、米Lifehackerにメールで送られてきたリリースのなかにあったものです。時間を割いてポジティブなコンテンツを見てみると、心の状態にいい影響が表れます。ジョイ・スクローリングは、心を癒す完璧な解毒剤なのです。

以上、エゴレジ研究所から、コロナ禍で懸念されている「ドゥーム・スクローリング」についてご紹介しました。私たちにとって最も重要なことは、ドゥーム・スクローリングにより日常生活の中にあるポジティブで大切なことから注意がそらされていることです。「現実世界」により時間を使うことで、バランスを見つけることができるでしょう。仕事、プライベート、ママ、妻、など切り替える場面が多いからこそ、メリハリをつけてその場その場の「今」に熱中できる環境を作ることが大切になります。リアルな活動はメンタルヘルスを高める心地よい行為です。スマホを持たずに、散歩に出かけたり、料理をしたり、花を生けたり、ペットと遊んだりすることで、気がそれて情報に接しない時間に慣れてくるはずです。情報に接する機会を意識的に取捨選択して、もっとポジティブな時間の使い方を心がけましょう!

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

 

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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