スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。 エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。 |
最近めっきり記憶力が落ちた、会話に「あれ、あれ」が増えたなど、アラフィー世代に多いその現象。「もう年だから…」と謎の言い訳を口にしていませんか。しかし、昨今注目の「スーパーエイジャー」の研究から見えてくるのは、「年齢を理由に諦めること」が老化を早める最大のリスクだという点です。そこで今回は、スーパーエイジャーの研究成果についてのお話です。
スーパーエイジャーの研究から
近年さまざまな研究が進められているスーパーエイジャー(Super Agers)について、研究者たちは「80歳を越えても、20~30歳年下の人と同程度の優れた記憶力を維持したまま晩年を迎える人たち」と定義しています。国内でも、スーパーエイジャーの「誕生メカニズム」を長期縦断で検証する研究計画が進行し、認知機能と心理社会的要因の関連が探究されています。
老化と記憶に関する研究の大半は、晩年に認知症を発症する人々に焦点を当てています。しかし、2012年にスーパーエイジャーに関する初期の研究を発表したシカゴ大のエミリー・ロガルスキー教授(神経学)は、「老化によって生じる問題点を取り上げるばかりでは、高齢の人たちに起きていることの全体像は把握できない」と指摘、80歳以上の高齢者でも、実年齢より20~30歳も若い人に匹敵する記憶力を持っている人たち「スーパーエイジャー」の脳の特別な特徴について着目しています。
スーパーエイジャーの脳科学的知見として、これまで次のような成果が示されています。
- 脳年齢(BrainAGE)
スーパーエイジャーの脳は、実年齢よりも生物学的に若い
脳年齢スコアはマイナスだと脳の老化が遅く、プラスだと速いことを示すもので、スーパーエイジャーの脳のMRI画像から推定される脳年齢スコアは平均でマイナス。これは、実年齢よりも生物学的に若い脳を持っていることを意味し、脳の老化が遅いことが判明しています。 - 皮質の萎縮が遅い:
スーパーエイジャーの大脳皮質の厚さ減少率は一般高齢者より有意に小さい
大脳皮質は感覚や運動、記憶、言語など高度な情報処理を担う部分で、年齢とともに薄くなるのが一般的です。18か月間の追跡調査では、大脳皮質の厚さの減少率はスーパーエイジャーで1.06%、同年代の一般高齢者では2.24%と明確な差認められました。 - 前帯状皮質の厚み:
感情調整・動機づけに関わる前帯状皮質が若年成人よりも厚い傾向
スーパーエイジャーの脳は、感情や社会性に関わる前帯状皮質が平均よりも厚く、これにより認知機能の維持に寄与している可能性があります。また、スーパーエイジャーは社交的で、新しいことに挑戦する傾向があり、これが脳全体の機能低下を防ぐ要因とされています。 - 記憶力の維持:
脳の萎縮は加齢の一般則ですが、スーパーエイジャーは、記憶テストで56〜66歳の平均レベルを超える成績を記録。たとえば、15個の単語を覚えて再生するテストで、80歳以上にもかかわらず9点以上を獲得し、記憶力を保ち得ることが確認されています。
また、スーパーエイジャーの行動特性・心理社会的特徴については次のような成果が示されています。 - 社交性が高い:人間関係を大切にし、社会的ネットワークを維持している。孤立せず、積極的に交流する傾向。
- 精神的なレジリエンス:ストレスに対して柔軟に対応し、前向きな姿勢を持つ。
- 学習意欲・挑戦心:新しいことに挑戦し続ける習慣がある。読書、趣味、知的活動を継続。
- 身体活動の維持:運動習慣を持ち、身体的健康を保つことが認知機能維持に寄与していると考えられる。
スーパーエイジャーは「脳の老化が遅い」だけでなく、「社交性・挑戦心・レジリエンス」といった行動特性を持ち、それが脳の健康維持に結びついていると考えられます。
公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授によると、「年だから仕方ない」と思うことで挑戦を避け、脳の神経回路の成長を妨げる可能性があるといいます。スーパーエイジャーは年齢に関係なく新しいことに挑戦し、社会的なつながりを保ち、精神的にも前向きな姿勢を持っているのが特徴です。
「もう年だから…」を手放そう!
「もう年だから仕方ない」と思うことを封印するのは、未来の自分の脳と体を守る最大の投資です。スーパーエイジャー研究は「老化は避けられないが、そのスピードは自分の選択で変えられる」ことを示しています。スーパーエイジャー研究から私たちが学ぶことは–
1.脳の可塑性を守る
脳は中年期以降も新しい刺激で変化できる。
「年だから」と挑戦をやめると、神経回路の活性が落ちやすい。
2.健康寿命を延ばす
運動・学習・交流を続ける人は、認知症や身体機能低下のリスクが低い。
中年期からの習慣が後年の差を決定づける。
3.自己効力感の維持
「まだできる」と思う人は行動を続け、結果的に脳も体も若さを保ちやすい。
諦めの言葉は自己効力感を削ぎ、老化を加速させる。
4.社会的・精神的な豊かさ
スーパーエイジャーは人との交流を楽しみ、孤立を防いでいる。
「年だから」と引きこもるのではなく、社会参加を続けることが鍵。
ポイントは「老化のスピードを遅らせる」
もう年だからと言うのは心理的に自虐的になっていることや、周囲にアピールしたいものがあるからなのでしょう。「年相応」という言葉がありますが、あまり年齢に触れず元気に溌剌と過ごしている人は、周囲にもプラスのエネルギーを与えてくれます。「若い頃と同じ」を目指す必要はありません。ポイントは「老化のスピードを遅らせる」ことなのです。
✔新奇で複合的な課題に挑む: 語学、楽器、ダンスなど「認知+運動+社会性」を伴う活動は、関与ネットワークを広く刺激します。
✔社会的密度を上げる: 定期的な対話・共同作業・教え合いは、動機づけと注意の回路を支えます。
✔諦めの言葉を手放す: 加齢は事実でも、行動の選び方で脳の変化速度は変えられる可能性があるという研究知見を生活に反映します。
「年だからできなくてもしょうがない」という固定観念は、脳を老化させる要因になる、という研究もあります。米国コロンビア大学の研究でも、「年齢に対するポジティブな認識を持つ高齢者は、記憶力が高く、ストレスに対する血圧上昇などの過剰な反応が少ない」ことが確認されています。
先の篠原菊紀先生も、会話の端々に「あれ」「それ」が増えていき、ややこしい作業をすることが苦手になっていく中高年世代の「脳の使い方」について、日経Goodayのインタビューで以下のように話されています。
「脳は可塑性が高い、つまり、外部からの刺激に対して神経回路を常に書き換えることが可能で、90歳を過ぎても脳トレは可能です。このことは、スーパーエイジャーが「年だからもう無理」という固定観念にとらわれず、自分の能力と可能性を信じ、音楽に挑戦するなど活動的に行動しているという傾向と一致していますよね。私たちも「限界よりちょっと上のことに挑戦する」という気持ちを常に持っていたいものです」。
以上、エゴレジ研究所からスーパーエイジャーの研究成果についてご紹介しました。年齢はただの数字。自分の可能性を信じて、日々を楽しむことが何よりの若さの秘訣です。どんな小さなことでも「やってみよう」と思える心が、快適な中年期への第一歩です。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
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代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 GCDFキャリアカウンセラー 健康リズムカウンセラー |
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