ストレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、自宅での勤務を推奨する企業が増えています。ネットワークツール利用の増加にともない、海外メディア(ナショナル ジオグラフィックやハーバードビジネレビューなど)の間では「Zoom疲れ」という言葉がよく聞かれるようになってきています。在宅勤務する人の間で、頻繁なビデオチャットがストレスを引き起こしているという現象を指しています。
チームの顔とジェスチャーが見えるという便利さの一方、カメラで人に見られている状態は必要以上の緊張を促しているようです。
今回は、AMPビジネスインスピレーションメディアに掲載されたZoom疲れの原因から対策まで、Zoom疲れについてご紹介したいと思います。
🔴「自己複雑性」の欠如
心理学者であり脳科学者のパトリシア・リンビルが提唱する「自己複雑性の理論」という概念があります。この自己複雑性理論とは、個人が自分自身の様々な側面(社会的役割、関係、活動、および目標など)を所持する度合いのことです。
例えば、仕事をしている自分、友人といる時の自分、家族といる時の自分、趣味をしている自分などで、個人が持つ側面が変わってくる度合いが高いものです。そしてこの理論では、自己複雑性の度合いが高い人ほど、ストレス耐性が高いと言われています。
コロナ前は多くの人は通勤や仕事後の場所やグループを変えた活動で、自己の多様性とバランスをとって健全でいられました。しかし現在の外出自粛、在宅勤務要請で、多くの人の生活の側面は仕事、友人、家族、趣味のすべてが同じ空間で起こらざるを得ない状況です。これらの側面がすべて一か所に偏るとバランスを崩し、ストレスに脆弱になるのです。
「私たちの社会的役割は様々な場所で発生するのが通常ですが、現在その状況は崩壊しています。対話のための私たちの唯一の空間は、自宅にあるデジタル機器だからです」と職場の持続可能な学習と開発を研究するInseadの准教授ペトリグリエリ氏はBBCで語っています。
加えて、職場の健康とチームワーク効率を研究しているクレムソン大学の准教授シャッフラー氏も、仕事や家族の時間を完了した後の「休息時間の欠如」が、在宅勤務の疲労の要因の一つであるかもしれないと言及しています。これも、場所や活動が限定されていることによる、休息の時間、そして自己複雑性の欠如からきていると言えるでしょう。
さらには、在宅勤務になって業務が余計忙しくなったと嘆く会社員も多く、特に業績悪化による会社からの圧力と、そこからくる失業への不安から、長時間働いて成果を出さなければと考える人も多いようです。
🔴ビデオチャットが疲れる原因
このような環境の内で、チームワークをサポートするはずであるビデオチャットですが、それで疲弊している会社員が多く出てきていようです。これまでの研究でビデオチャットでストレスがたまる理由がいくつか科学的に明らかになってきました。
1.通話時の遅延によるストレス
ドイツの研究では、ビデオチャットや電話で話す時、たった1.2秒の遅延が、相手への負の感情につながってしまう可能性があると指摘しています。技術的によくある数秒の遅れが、相手への親しみやすさを無くし、集中していないという印象を与えてしまうのです。
またビデオチャットは、対面よりも焦点を合わせる努力が必要なため、必然的に対面より緊張して臨まなければならないことをペトリグリエリ氏はBBCで語っています。
ビデオチャットでは、顔の表情、声の高さや話し方、身振り手振りなどのボディランゲージを、複数の人、さらには彼らのペットや時には子どもにまで対象を広げて、一気に処理しなければならない。これらの視覚的な情報を神経を集中させて集め、さらに同時に処理するため、実はビデオチャット参加者は多くのエネルギーを消費しているのです。
2.人に見られているストレス
さらにシャッフラー氏は、カメラをオンにすることによる「人に見られている(監視されている)状態」がマイナスに働くことも指摘されています。ビデオチャットに参加すると、参加者全員が自分を見られるし、自分自身も画面に写る。全員から見られていることを意識すると、ステージの上に立っている状態と同じように、社会的プレッシャーや、うまく発言や仕事をしなければ、という感覚に陥ると言います。また、画面上の自分の顔や行動を意識しないようにすることも非常に困難であり、神経質になってしまう人もいるようです。
🔴心構えと対策
専門家やニューヨークのメディア企業Mindfulなど各海外メディアは、ビデオチャットを有効に使ういくつかの解決策を提案しています。
✔カメラをオフ、またはカメラを横にずらす
BBCでは2人の専門家が、ビデオ通話を必要なもののみに限定することや、会議のたびにカメラを常にオンにする必要はないなどのルールを提案しています。
またペトリグリエリ氏は画面を真っ直ぐに見るのではなく、少し横にずらすと、特にグループ会議で集中力を高めるのに役立つとアドバイスしています。感覚としては、隣接する壁の無い隣の部屋にいるような眺めになり、疲れにくくなるようです。
✔スピーカービューを活用する
Zoomにはギャラリービューとスピーカービューの2種類あり、スピーカービューでは話している人が自動的に大きく表示される。これは会議用テーブルの周りに座っていて、主に話している人に注意を向けるのと同じ感覚であるため、参加者全員の顔が表示されるギャラリービューよりも、話している人に注目できます。画面表示方法は、参加者側で簡単に変更できます。
✔ビデオチャット中のマルチタスクを止める
前述の通り、ビデオチャットに出席するだけで、参加者は必然的に多くの注意を払わなければなりません。従ってビデオチャット中は、少し目の前の画面の中の同僚に注意し、マルチタスクをする努力は休ませる必要があります。
✔リフレッシュを忘れずに
普段は会議室への移動、それに応じたトイレや飲み物休憩などの区切りが自然にできているものが、自宅のパソコンをクリックするだけでは体も心も会議への区切りがつけにくいものです。ビデオ会議の合間にも、きちんとリフレッシュする時間を設けることも重要です。ストレッチをして少し体を動かしたり、飲み物を飲んで気分転換をしてから、ビデオチャットに臨むことを心掛けるといいでしょう。
ウィズコロナ、ポストコロナをしなやかに生きるために必要なスキルの一つエゴ・レジリエンス(略称エゴレジ)。エゴレジは、日々のストレスに直面してメゲたとき、自我egoを調整しバランスをとって元の元気な自分、少しでも気分のいい感じの自分に戻ろうとする力です。
エゴレジ力を発揮して、ビデオチャットには疲れをもたらす要素もあることをちゃんと自覚しておきたいですね。自分と相手の体調を確認しながら、無理せずに、いろいろな対策を採り入れて快適に付き合っていきましょう。
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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。
小野寺敦子
エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。
畑 潮
エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー
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