《健康》エゴレジとセルフ・コンパッション

ストレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。

アメリカの心理学者、クリスティーン・ネフが提唱したセルフ・コンパッション:Self-Compassionという概念がいま、EI(感情的知性)向上のカギを握るものとして、マインドフルネスとともに欧米のエグゼクティブから注目されています。

セルフ・コンパッションは日本では、「自己への慈しみ」と訳されています。セルフ(=自分に対する)コンパッション(=思いやり)は、自己への慈しみによって「あるがままの自分を受け入れる」ということになります。

大きな失敗をしたり難しい問題に直面したり、つらい事態に直面している時、みずからを救済し適切に状況に対応するためには、自分に対して優しさとサポートを与える必要があります。セルフ・コンパッションとは、苦痛や辛い経験したときに、自分自身に対する思いやりの気持ちを持ち,苦痛に満ちた考えや感情をバランスがとれた状態に保つことを指します。

🔴セルフ・コンパッションの効用

セルフ・コンパッションは負の感情と向き合うのに力強い効果を発揮します。以下の2つは、科学的に証明されている自分に優しくすることのメリットです。

1.自分に優しくできる人は、気持ちが安定していて落ち込みにくい耐性をもつ
2.自分に優しくできる人は、不安や恐怖、イライラ、敵意、苦痛などのネガティブな感情を最小限に抑えることができる

セルフ・コンパッションを実践することで、

(1)幸福感が高まる
(2)ストレスを減少させる、
(3)レジリエンスを高める

効果が確認されています。この傾向が強い人は、自己を成長させるモチベーションが高く、強いオーセンティシティ(自分に嘘偽りがない性向)を示すとされています。

研究者のネフは、セルフ・コンパッションを構成している要素は次の3つであるとしています。

Self-Kindness:セルフ・カインドネス
=自分自身に温かく優しくする。

Common humanity:コモン・ヒューマニティ
=自他の短所・欠点・間違いを人類共通のものであると受け入れる。自分は周囲の人間関係の中で生きているという自覚。

Mindfulness:マインドフルネス
=出来事を自分の価値基準・感情と同化せず客観的に視る。

「マインドフルネス」は、最近は臨床心理学、ポジティブ心理学においても重要だとされている概念で、マインドフルネスという感覚を得やすくするためのトレーニングは、世界の大手企業が社内研修として取り入れています。

 セルフ・コンパッションを高めることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?まず自他の比較によって自尊心を維持する必要がなくなります。どういうことかというと、もし批判などされて自尊心が傷つくことがあっても自己否定をする必要がなくなります。

人は完全ではないので時にはミスを犯すこともあれば、失態を晒すこともあるでしょう。そんなとき、「自分はダメだ…」と自分を責めることなく無条件で受け入れ励ますことができます。そうすることで失敗や挫折から立ち直るのが早くなるのです。

 テキサス大学のウイリアム・スワン教授の研究によると、自分の夢を語った被験者にオブザーバーがポジティブな評価と、ネガティブな評価を下した際に、自尊心の高い人は、ネガティブなフィードバックに対しては防衛的になるとういうことがわかりました。つまり、自尊心が高い人はポジティブな評価に依存している傾向があり、そのために自己への認識が歪んでいるのです。

一方で、セルフ・コンパッションが高い人は、フィードバックがネガティブであってもポジティブであっても、どちらも同じように受け入れることができます。これは、セルフ・コンパッションが高くなると、他人の評価に左右されず、自分自身を慈しむことができるためです。だからこそセルフ・コンパッションが高いと、幸福感が増大し、精神的な健康が促進されるのです。

🔴セルフ・コンパッションの実践

1.自分に起きていることを自覚する
つらい、苦しいなどの感情がわきあがってきたときは、からだの感覚にフォーカスしてみましょう。胸の痛みや呼吸の乱れなど、体に起こっていることを意識しながら「いま、私は痛みや苦しみを感じている」と心のなかでいってみましょう。「感情の苦しさや痛みが起こっているときに、その痛みを自覚する」というマインドフルネスの状態に意識を向けていくのです。

2.苦しみは、すべての人に共通のものととらえる
 人間は、ほぼ皆、同じように苦しく、つらい気持ちになることがあります。自分が苦しい状況にあると忘れてしまいがちですが、失敗や苦しみは、人間にとって共通のもの。あなたひとりが経験しているわけではないのです。そのことを思いだしながら、片手をそっと胸に置いてみてください。心臓の上あたりがいいといわれていますが、あなたが触れて落ちつく部分でかまいません。そして、手のひらから伝わる温もりや感触などを意識してください。

3.いたわる言葉を自分にかける
「私自身をいたわることが、できますように」「やさしくありますように」など、愛する人に伝えるように自分自身に言葉をかけてみてください。そして、むずかしい感情や痛みがどう変化していくのかを、ゆっくりマインドフルに観察してみてください。短い時間でもいいので、これを繰りかえしていくことで、自分自身を大切にする習慣が少しずつついてくるそうです。しばらく意識的につづけていると、きっと新しいあなたに出会えることでしょう。

🔴内面に「安全地帯」をもたらす

自分を大切にする理由は、人間が苦しみを感じる存在だからです。感情の痛みに向きあい、受けいれるとき、だれもが苦しむものです。そんなとき、セルフ・コンパッションは私たちの内面に「安全地帯」を与えてくれます。

意識的に自分をいたわるトレーニングをすることで、つらい感情やネガティブな思考を受けとめることができるようになります。そして、距離を置いて眺められるようになって、はじめて自分にやさしさを向けられるのです。

セルフ・コンパッションが高まることで、確実に人生の満足度も高まります。自尊心に左右されませんので失敗のリスクを怖れなくなります。そして何より、失敗を受け入れ、自己批判することなく冷静に改善策を講じ成長していくことができます。無理にネガティブな感情を抑え込み、自分を否定したり批判する必要はないのです。そんな感情になった自分に優しく接することで、しがらみのような悩みや不安、恐怖から自由になることができます。

自分自身に本当の価値を見出すためにもセルフ・コンパッションの理解を深め、高める訓練をしてみませんか。健康でやる気に満ちた人生をきっと送れるはずです。慈悲の心を持って、自己批判せず、自分の幸せを願っていきましょう。セルフ・コンパッションが高まると、エゴレジ力もアップします。

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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。

小野寺敦子

エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。

畑 潮

エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー

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