スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。 エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。 |
自律神経系が人間の行動や感情に与える影響を理解する新しいアプローチ「ポリヴェーガル理論」が広く注目を集めています。心と身体のつながりを理解するための新しい理論で、ストレスや危険な状況に直面したときの人間の反応を解明しています。そこで今回は、ポリヴェーガル理論についてのお話です。
ポリヴェーガル理論とは
ポリヴェーガル理論 (Polyvagal Theory) は、「Poly: 多重の」と、自律神経の一つである「Vagal: 迷走神経」が組み合わさった言葉で、日本語では「多重迷走神経理論」と呼ばれることもあります。1994年にアメリカの神経科学者であるスティーブン・ポージェス(Dr. Stephen Porges)博士によって提唱された自律神経の機能に関する新しい理論です。
従来、自律神経は活動的なときに働く交感神経と、リラックスするときに働く副交感神経の2つから成ると考えられていましたが、ポリヴェーガル理論では、生物の進化や神経の発生の観点から副交感神経がさらに「背側迷走神経複合体」と「腹側迷走神経複合体」とから成り立っていると考えます。
腹側迷走神経というのは、私たちが一般に副交感神経と呼んでいる神経系で、自らを落ち着かせる働きがあります。腹側迷走神経が働いているときはリラックスして、他者と安心してコミュニケーションが取ることができ、信頼や愛を結ぶことができるのでしょう。この神経系は人間が進化の過程で獲得したほ乳類特有のものです。
一方、背側迷走神経はほ乳類の先祖である爬虫類が太古の昔から備えている神経で、この神経の役割は不動、シャットダウン、解離を起こすことにあります。爬虫類は命の危機に遭遇すると動きを止め、まるで死んでいるかのような状態になることをご存じですか?この不動化や擬死は太古の昔から爬虫類にとっての防衛システムで適応的な反応と言えます。
そして、ほ乳類へと進化する過程で腹側迷走神経を獲得したのです。
大事なことは、ほ乳類も背側迷走神経を持っているということです。つまり、交感神経と2つの副交感神経が複雑に相互作用し、私たちの思考や行動を管理していることになります。
人間はストレスに遭遇したとき三段階の反応を見せることになります。人間の防衛システムは腹側迷走神経による人間らしい社会交流→交感神経による過覚醒(闘争・逃走反応)→背側迷走神経による低覚醒(麻痺、シャットダウン、解離)の順で現れます。
つまり、人間は安全、危険、生命の危機などを察知し、自動でそれにふさわしい神経回路にスイッチを入れる作用があるのです。
ポリヴェーガル理論では周囲が安全安心を感じられる状況か、危険を感じる状況か、生の脅威を感じる状況かで3系統の自律神経系が切り替わって環境に対応すると説明しました。
背側迷走神経の役割
ポリヴェーガル理論において、背側迷走神経は非常に重要な役割を果たします。
背側迷走神経は、自律神経系の一部であり、身体の安全性と防御反応に関与しています。
具体的には、背側迷走神経は以下のような役割を果たします。
防御反応の調節
背側迷走神経は、身体が脅威やストレスに直面したときに起こる防御反応を調節します。
これには、交感神経系とは異なるリラックス状態への切り替えが含まれます。
「フリーズ」反応の促進
背側迷走神経は、「フリーズ」反応として知られる防御メカニズムを促進します。
これは、脅威に直面したときに身体が緊張し、動けなくなる反応です。この反応は、身体が危険を感知したときに生じ、身体が自己防御のために活動を停止することで生命を維持しようとする進化的な戦略です。
身体と心の統合
背側迷走神経は、身体と心の間の統合を支援します。
特に、ストレスやトラウマに対する身体の反応を調節し、心身の安定を促進します。
腹側迷走神経の役割
ポリヴェーガル理論における腹側迷走神経は、重要な役割を果たしています。
腹側迷走神経は、自律神経系の一部であり、身体の安全性と社会的なつながりに関与しています。以下は、腹側迷走神経の主な役割です。
社会的つながりとコミュニケーション
腹側迷走神経は、社会的なつながりやコミュニケーションに関与しています。
この神経の活性化は、安心感や信頼感をもたらし他人との交流や関係構築を容易にします。
身体と心のリラックス状態の促進
腹側迷走神経は、身体と心のリラックス状態を促進します。
心拍数が安定し、消化器官の活動が増加し、呼吸が深くなります。
また、この状態ではストレスホルモンの分泌が抑制され、身体と心の安定がもたらされます。
ストレスへの対処能力の向上
腹側迷走神経の活性化は、ストレスへの対処能力を向上させます。
ストレスや不安に対する感受性が低下し、精神的な安定が促進されます。
リラックス状態を作り出す方法
ポリヴェーガル理論では、腹側迷走神経の活動が個人の社会的なつながりや精神的な安定に重要な影響を与えると考えられています。腹側迷走神経が適切に機能することで、健康な社会的な関係を築くことができ、ストレスや不安に対処する能力が向上します。
腹側迷走神経優位になるためのキーワードは「安全・安心」です。安全・安心を感じられればどんな状況や環境であってもリラックスもできますし、他者と友好的なコミュニケーションもとれます。
逆に安全・安心を感じられていなければ全身に緊張からくる症状が出てしまいますし、コミュニケーションも不充分になり、より安心感を得られない環境になるという悪循環に陥ってしまいます。ポリヴェーガル理論を利用した、リラックス状態を作り出す方法を3つご紹介します。
笑顔
笑顔を作ることで顔面にある迷走神経が活性化され、それが腹側迷走神経運動核(擬核)に伝わることで腹側迷走神経優位の状態になり、心拍がゆっくりになったり呼吸が穏やかになったりします。
「リラックスしたから笑顔になる」のではなく、「笑顔になったらリラックスできる」という神経系の仕組みを利用したリラックス法です。笑顔の効用は体内だけではありません。
笑顔になることで周囲の人も安心し、周りの人の笑顔を見ることで自分自身も安心するため、より腹側迷走神経優位の状態が安定するのです。
一方で、険しい顔つきでいる人は周囲も安心できず険しい表情になり、結果として自分も不安定な自律神経の状態のまま物事に臨まなければならなくなる、といった悪循環にも陥りやすくなります。
歌う
歌うことによっても自然に腹側迷走神経運動核を活性化させることができ、それが鼓動の調整や規則正しい呼吸になることを促します。
合唱などのときに「喉が開いていない(閉じている)」「声が頭のてっぺんから出ていない」などと言われるのは、要するに腹側迷走神経優位の状態に入っていないという意味なのです。
長く息を吐く
顔の下半分の神経や喉のえらの辺りの神経を活発に動かすことで、コミュニケーションの状態である腹側迷走神経優位に能動的に移行できるようになります。
笑ったり歌ったりできないような状況下では、息を長く吐くことで同様の神経を活性化できるので、声を出せない場面では息を吐く動作から意識してみると良いでしょう。
以上、エゴレジ研究所から「ポリヴェーガル理論」についてご紹介しました。ポリヴェーガル理論は、自律神経を整えることで安心感や信頼感を高め、スムーズなコミュニケーションや柔軟な思考を促進します。この理論は現在、身体と心の健康を促進するために、メンタルケア/心理療法/身体療法(整体やマッサージなど)/教育(学校や職場、コミュニティなど)/臨床医療など幅広く活用されています。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
|
GM 畑 潮/心理学博士 GCDFキャリアカウンセラー 健康リズムカウンセラー |
この記事へのコメントはありません。