「アレ何だったけ?」のメカニズム

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

話をしていて固有名詞が出てこない。「ほら」「あれ」「それ」が多くなった。メモなしではいろいろな予定を覚えられない。なんとなくやる気も低下気味……これらは年齢とともに進行する「脳の老化」のサインかもしれません。では、40~50代以降の脳にはどのような変化が起きているのでしょうか?今回は「アレ何だったけ?」が起こるメカニズムについてのお話です。

加齢で脳はどう変化する?

認知症専門医/長谷川嘉哉先生は、以下のように説明されています。

【change1 脳が少しずつ萎縮】

脳の一部は年齢とともに少しずつ萎縮していく。萎縮の早さや程度には個人差があり、部位によっても違う。原因は神経細胞数の減少。

【change2 前頭前野の機能が低下】

特に前頭葉の前方の萎縮が早い。前頭葉は脳の司令塔とも呼ばれ、感情や意欲、柔軟性などを司つかさどる部分で、衰えると怒りっぽくなる。

【change3 ワーキングメモリの機能がダウン】

前頭前野にあるワーキングメモリの処理能力が低下。個人差があるが、50代に入る頃には、最盛期に比べて30%ほど低下する。

「脳のメモ帳」の余白

日常のさまざまな行動と脳活動の関係をテーマに研究する脳科学者で公立諏訪東京理科大学工学部教授の篠原菊紀先生によれば、人の名前が出てこない、会議や打ち合わせでキレのある発言ができなくなった、という現象は「さまざまなストレスが脳の処理スピードを鈍らせる要因となっています」と指摘されています。(以下「 」内は篠原先生)

脳には、記憶や学習、言語をとりまとめる「前頭前野」という部位があります。「前頭前野の仕事は、脳の別の場所に格納されている記憶や情報を意識に上げてきて、あれこれ検討し判断すること。いくつかの仕事を同時進行させたり、対話の最中に『私はそうは思わない』と思いながらにこやかに話したり、揚げ物の料理をしながら味噌汁を作る、といった“やや込み入ったこと”をするときには前頭前野が使われています」

前頭前野の働きを篠原先生は「脳のメモ帳」に例えて説明されています。なぜなら、その枚数に限りがあるからだそうです。「実は脳のメモ帳の枚数には限りがあります。1つのタスクでメモ帳1枚使うくらいのイメージだとすると、みなさんそれを3~4枚しか持っていません。つまり、私たちは、これ・あれ・それ・その他、くらいの情報しか一度には処理できないのです」

さらに、ストレスがそのメモ帳の働きに影響するようです。「ストレスで気が休まらないという状況だけで、脳のメモ帳の枚数を食うのです。メモ帳が少ないということは、脳の余白がなくなるということ。だから、仕事の処理もうまくいかなくなるし、人間関係もイライラ、ギスギスしやすくなります」

もちろん、コロナによる先行きの不安もストレスの1つ。さらに、リモートワークも脳のメモ帳に負担を与えているという。「これまで職場に出かけていたときには仕事と家庭をくっきりと分離することができていましたが、リモートワークでは、会議や打ち合わせと家庭の日常がぐちゃぐちゃに混在し、状況に応じてタスクを時系列で並べ直さないといけません。前頭前野のトレーニングとしては良いともいえますが、日常的にこの状態では脳の働きに支障が生じます」

最近頭が働かない……と悩んでいる人は、通常のストレスに加えて、長期にわたるコロナストレスが脳のスムーズな働きを圧迫している側面もある、ということです。

「前頭前野」が使われないルーティン化作業

ストレスはもちろんですが、脳も体の他の機能と同様、加齢とともにその働きが低下します。特に年齢とともに機能低下しやすいのが、先ほどのイラストで示した3つ、「前頭前野」と「海馬」、「線条体」です。

「前頭前野」については、次のような認知機能テストでこの部位の機能を見ることができます。

(1)「さくら」「ねこ」「でんしゃ」という言葉を覚えてください。

(2)では、次に100から7を5回引いて、それぞれの答えを言ってください。

(3)「ふじのやま」という言葉を逆から言ってください。

(4)最初に覚えた3つの言葉を思い出してください。

「このようなテストを行っているときの脳の活動を見ると、(4)で最初の言葉を思い出そうとするときに前頭前野が働きます」

(1)のときには3つの言葉を覚えていても、(2)、(3)と別のことをしているうちに、「なんだっけ?」とよくわからなくなってしまいます。

「こういった、一度に複数のタスクを行うことをデュアルタスク(二重課題)といいます。デュアルタスクを行うときに前頭前野が活性化しますが、前頭前野の機能は40~50代になると落ちてくる。知らず知らずのうちにこの手のタスクを避けるようになることと、年代なりの経験は重ねていますからルーティン化したやり方を好むようになる。ところが手慣れた作業をしているときに脳活動を調べると、前頭前野はほとんど活動していません。また、記憶を保存したり必要に応じて取り出したりする作業を行う海馬も、年齢とともに萎縮しやすくなります」

ルーティン化した作業では、3つめの脳の部位、やる気をつかさどる「線条体」も使われなくなると篠原先生は指摘されています。

「ある行動と快感を結びつけるのが線条体で、この部位がやる気の中核といわれています。線条体は運動の開始・持続・コントロールなどに関わり、線条体のすぐそばには報酬系・快感系といわれるドーパミン神経系が走っています。そして、実際に報酬がもらえるときよりも、『これをやったら報酬がもらえそうだ』と予測するときに線条体は最も活性化することがわかってきました」

線条体が活性化するときには、本人もドキドキ、ワクワクしているのです。この仕事をすればこんないいことがある、と思うことができれば、線条体は活性化します。最近、仕事のモチベーションが上がらない……という人は、一見すると効率的な「ルーティン化した仕事」ばかりに偏っていないか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

線条体は新しいことを学習するときに重要な部位です。「リハビリのさなかに線条体の活動を止めると、リハビリによる学習効果がほぼ消失することもわかっています。

中高年になると、これ以上新しい学習なんてする必要はない、と思うかもしれません。確かにひと昔前までならば50代ぐらいまでの蓄積で人生を突っ走ることができた。しかし、これからは人工知能(AI)の時代、新規の学習をしなければならない機会は何度も訪れるでしょう。新たな学習をおっくうがっていては、何度も挫折し、線条体の機能低下が進んでしまいます」

脳にはいくつになっても「変化する力」がある

脳の細胞は脳が完成した後に新しく生まれることはないと考えられてきましたが、少なくとも記憶を司る「海馬」は、何歳になっても神経細胞が新生していることが近年分かりました(1998年、米国のソーク研究所のチームによる研究)。

「いくつになっても海馬で新たな神経細胞がつくられることに加えて、外部の刺激によって変化する『可塑性』によっても、海馬をはじめとする脳の体積を増やせることが分かっています。このことは、脳は何歳からでも変えていくことができるという大きな希望といえます」と指摘されるのは、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生です。先生は、成長期にある子供だけでなく、中高年ビジネスパーソンでも脳に適切な刺激を与えれば能力が伸びると主張されています。瀧先生は、「好奇心」「有酸素運動」「コミュニケーション」という「3つの刺激」をあげています。また逆に、脳の老化、萎縮につながる要因も、大きく3つあるといいます。それは「喫煙・飲酒」「肥満」「ストレス」です。

脳科学ベンチャー(株式会社NeU)で、脳を鍛える新サービスの開発をしている糸藤友子さんは、老けない脳をつくるための生活習慣の重要ポイントを4点あげています。

運動:毎日、20分の有酸素運動
いちばん手軽なのは、ウォーキング。会社の最寄り駅より1つ手前の駅で降りて歩くなど、1日8000歩を目指しましょう。そのうち20分間は少し息が上がるぐらいの速歩きをします。

栄養:バランスのよい食事
昭和50年代の和食が脳にはいちばんよいと言われています。一汁三菜でバランスよく。また炭水化物ダイエットは、脳のエネルギー源である糖が不足するので、おすすめしません。

認知刺激:脳をしっかり使う
脳は簡単なことや単調なことばかりをやっていると衰えていきます。仕事でも生活でもちょっと難しいことや新しいことにチャレンジしてください。脳は使わなければ衰えるのです。

睡眠:質のよい睡眠を確保します。
質のよい睡眠で、脳の老廃物の排出を促すメカニズムがきちんと働きます。寝る直前までスマホをいじっているのはNG。朝の日光をしっかり浴びることも大切です。

毎日の暮らしの中で、脳によい習慣を増やしていくことがとても重要です。いつまでも体も脳も健康で、自分のやりたいことを、存分に楽しんでいる、かわいいお年寄りになるためには、まず今から、運動、栄養、認知刺激、睡眠を重視することが大切なのです。

以上、エゴレジ研究所から、今回は「アレ何だったけ?」が起こるメカニズムについてご紹介しました。神経細胞をつなぐ情報伝達回路のネットワークは、使えば使うほど太く、丈夫になっていきます。運動や食事などの日常習慣が脳の健康のベースにあることを踏まえた上で、独自の脳アンチエイジングを探ってみませんか?

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NYこどものくに東京 理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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