女性の方が顕著?「Zoom疲れ」

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

Withコロナの新しい生活様式で、リモート授業や在宅勤務が増加し、Zoomのようなビデオ会議ツールの需要が急増しています。ソーシャルディスタンス時代に欠かせないビデオ会議ツールですが、ビデオ会議に伴う過剰な疲労感「Zoom疲れ」に悩まされる人も増えているようです。今回は、そんな「Zoom疲れ」についての研究をご紹介します。

「Zoom疲れ」に関する実態調査

調査を行ったのは、スタンフォード大学の心理学者であるジェフ・ハンコック氏ら研究チームです。この研究チームは、1万人以上を対象にズーム疲れについて調査、その原因について幅広く考察し、2021年4月14日付で査読前の論文を共有するサイト「SSRN」に発表しました。

論文によると、「Zoom疲れ」の主な原因のひとつは、研究者が「mirror anxiety(鏡不安)」と呼ぶ、鏡に映った自分自身を見つめ続けなければいけないという精神的負担にあると言います。Zoomをはじめとするビデオ会議ツールでは、ビデオ通話の中に映る自分自身を見なければいけないため、1日何時間もZoomを用いた会議が行われると、「mirror anxiety(鏡不安)」により精神的な疲労がたまってしまうようです。

また女性のほうが男性よりもビデオ会議に割く時間が長く、合間の休憩時間は短いことが判明し、女性は男性よりも鏡不安に陥りやすく、ビデオ会議に縛り付けられていると感じることも多いと報告しています。

「過去の研究でも、鏡不安になるのは男性よりも女性のほうが多いことが示されています。私たちがアンケートで性別を答えてもらったのもそのためです」と、論文の筆頭著者を務めたスウェーデンのヨーテボリ大学のジェラルディン・フォービルフォービル氏は述べています。しかし、なぜ女性のほうが会議に縛り付けられていると感じるのかはわかっていないようです。

この研究では、画面に映る自分の姿、ずらりと並ぶ同僚たちの顔、常にカメラの枠内に収まっていなければならないというプレッシャー、ボディ・ランゲージの欠如などは、すべて脳に負担をかけると指摘しています。

マイクロソフトの脳科学調査

もう一つ、2021年3/8~18まで、脳波(EEG)機器を装着して脳の電気的活動を監視しながら、14人がビデオ会議に参加するMicrosoft Human Factors Labによって実施された調査があります。参加者は通常はリモートで作業するマイクロソフトおよびマイクロソフト以外の会社員です。

この調査では14人の参加者に、30分程度のビデオ会議を、1日に4回ずつ、2日に分けて合計8回行いました。ある日は4回のビデオ会議を連続して行い、別の日にはビデオ会議の間に10分間の休息(瞑想アプリを使用)を挟んでいます。

研究者たちが発見したことは、休息なしにビデオ会議を続けた日は、ストレス、不安、集中力に関連するベータ波のレベルが高くなり、さらにストレスレベルの最高値と平均値も高く、時間が経つにつれてゆっくりと上昇していったことが示されています。

10分間の休憩を入れた日は、ストレスの数値が平均して低く保たれており、上昇を防ぐことができていて、会議への積極的な関与を示す他の測定値も増加したと報告されています。この調査による検証結果は参考にはなる結果ですが、それを誇張して捉えることがないように注意するべきでしょう。ストレスというものが複雑で、時には不公平な職場環境がその原因となることも忘れてはいけないからです。

「Zoom不安」

一方、「Zoom疲れ」に関連した「Zoom不安」という考え方は、それほど注目されていません。しかし、「Zoom不安」は多くの人にとってはZoom疲れより消耗しやすく、場合によってはキャリアにも悪影響をもたらしかねないようです。

Zoom不安についての研究は少ないのですが、2020年11月、在宅勤務者2000人超を対象に実施された調査によると、その原因はいくつもあることが分かりました。

  • 映像や音声について自分では解決できない技術的なトラブルが起きてしまう
  • 相手のボディ・ランゲージを読み取れない
  • 自分の意見を聞いてもらえていないように感じる
  • 身支度を整える時間がないまま応答しなければならない
  • 仕事にふさわしくない自宅の背景が気になる
  • 自分より大きな声に埋もれてしまう

…といった懸念です。

「人と直に向き合っているときには、ボディ・ランゲージから無意識にたくさんのことを把握できる。相手の反応がよくなかったり、少し不愉快そうだったりすれば、それに気づく」。豪クイーンズランド州のボンド大学で組織行動学の准教授を務め、在宅勤務による心理的な影響について研究しているLibby Sander氏はこう説明されています。「会話に割って入るタイミングもつかめるし、ある話題を続けていいかどうか、その場の空気を読んで判断することもできる。そういうことが、Zoomでは難しく、全くできないときもある」と。

またZoom不安には、ジェンダーの問題という面もあるようです。1対1の会議でもグループ会議でも性別上の不均衡が見られることを、多くの研究が示しています。

一般に、男性が発言を増やすと評価が上がる傾向があり、女性は逆に評価が下がる傾向があります。また女性の方が、話を中断されたり、発言中に声を被せられたりする傾向がはるかに高いようです。こうした問題が、ビデオ会議になると悪化するとSander准教授は話しています。女性は意見を理解してもらう機会をつかむだけでも苦労しかねないようです

バーチャル交流の脳への負担

バーチャルな交流は脳に極めて大きな負担をかけます。「バーチャル空間での交流が、わたしたち人間にとって重圧になることを示す研究はたくさんあります」。米ノーフォーク州立大学のサイバー心理学准教授、アンドリュー・フランクリン氏はそう述べています。

ビデオ会議では、言葉に対して継続的に強い注意を向けることが要求されます。たとえば、ある人の肩から上だけしか画面に映っていなければ、その人の手の仕草やボディ・ランゲージを見る機会は失われています。またビデオの画質が低い場合は、ちょっとした表情から何かを読み取ることは不可能です。

「そうした非言語的な手がかりに強く依存している人にとって、それが見られないというのは大きな消耗につながります」と、フランクリン准教授は言っています。

ギャラリービューによる消耗はさらに深刻です。ギャラリービューでは会議の参加者全員が同じ大きさで画面に映し出されるため、脳はいやおうなしに、たくさんの人の表情をいっぺんに解読することになる。その結果、だれからも意味のある内容を読み取れないことさえあります。

「Zoom疲れ」の4つの原因と対策

もう一つの研究、米スタンフォード大学のVirtual Human Interaction Lab(VHIL)は、2021年2月23日(現地時間)、「Nonverbal Overload: A Theoretical Argument for the Causes of Zoom Fatigue(非言語的過負荷:ズーム疲れの原因に関する理論的議論)」と題する論文を学術誌「Technology, Mind and Behavior」に掲載したと発表しています。

同ラボのジェレミー・ベイレンソン教授は、この論文はWeb会議プラットフォームを非難するためではなく、プラットフォーム側にユーザーインターフェース(UI)の改善を、ユーザー側に疲労軽減方法を、それぞれ提案するのが目的であるとし、Zoomに代表されるWeb会議を長時間使うことの心理的影響とその対処法を紹介しています。

ベイレンソン教授による4つの原因とその対策は次のとおり。

◆視線の多さと顔サイズの大きさ

リアルな会議では、参加者はメモを取るために下を向いたりよそ見したりするけれども、Zoomでは誰もが常に全員を見ています。一度も話さない参加者も話し手と同等に扱われ、自分に向けられているように見える視線の量が劇的に増える。多数の人に見つめられることは、人間にとって恐怖の原因となると言います。

また、ディスプレイのサイズによっては人の顔が大きく表示され、リアルな会議より他の参加者が近くに感じられます。脳は、相手の顔が非常に近いとそれを交尾か攻撃につながる状況と解釈し、不要な興奮状態に陥るのです。

【対策】
Zoomなどのプラットフォーム側がインタフェースを変更するまでは、ユーザーは全画面表示をやめ、ウィンドウサイズを小さくすることで会議参加者の顔の表示を小さくし、ディスプレイから離れて参加者の顔から距離を置けるよう外付けキーボードを使うことを勧めます。

◆自分自身を見続けること

Web会議で自分の顔を見続けるのは現実世界で鏡を見ながら人と会話するのと同じだとベイレンソン教授は指摘しています。ある研究では、自分を見ていると、自分に対してより批判的になる傾向があるという結果が出ているそうです。

【対策】
プラットフォームは初期設定で自分を非表示にする方がいい。プラットフォームがUIを変更するまでは、ユーザーは「セルフビューを非表示」に設定する(Zoomの場合)ことを勧めます。この設定にしておくと、他の参加者は自分の顔を表示していても、自分のディスプレイには自分の顔が表示されないからです。

◆移動できないこと

実際の会議や音声通話による会議であれば、参加者は移動したり、歩き回ることもできますが、Web会議ではカメラの前に留まる必要があります。これは人間にとって不自然な制限なのです。

【対策】
Web会議を行う部屋やカメラの位置、外付けキーボードなどで参加方法を考慮することを提案しています。例えば、ディスプレイから離れた位置に外付けカメラを設置するなど。また、会議中に定期的に動画をオフにする基本ルールを作ると、休息できるでしょう。

◆大げさなジェスチャーの必要性

対面での会話で非言語的コミュニケーション(身振りや表情など)が果たす役割は大きいのです。Web会議では同じ効果を出すために大げさにうなずいたり、親指を立てて見せたりしなければなりません。そのため精神的なカロリーを多く消費し、認知的負荷が増えるのです。

【対策】
長時間のWeb会議の場合は「音声のみ」タイムを設けることを勧めます。数分間でも大げさな身振りをしなくて済む時間を作れば休まるからです。

ベイレンソン教授は、Web会議自体は高く評価しており、リアルな会議でも会議は疲れるものだし、Zoom疲れの原因の1つは、(手軽に開催できるだけに)リアルよりも多くのWeb会議に参加するようになっていることだろうとしています。(ポストコロナで)リアルな会議が再び安全に行えるようになっても、Web会議が通勤に置き換わる可能性もあります。「われわれの仕事は、このメディアをさらに研究し、プラットフォームがより優れたユーザーインターフェースを構築し、ユーザーがより優れた使い方を習得できるようにすることです」と教授は結んでいます。

※念のために付け加えておきますが、この記事ではあらゆるビデオ会議プラットフォームの代表として「Zoom」という言葉を使っています。なにしろ、2020年にはビデオ会議を意味する動詞として使われるようになったくらいだからです。

Zoomの利用者は2019年12月には1日1千万人に過ぎなかったのですが、2020年10月には3億人に拡大。株価は昨年ほぼ4倍になり、時価総額は1088億ドル(約11兆6千億円)と1千億ドルを突破しています。マイクロソフト・チームズの1日の利用者は7500万人(昨年4月)、グーグル・ミートは同1億人です。

以上、エゴレジ研究所から「Zoom疲れ」に関する研究をご紹介しました。ビデオ会議はわずか数年前には不可能だった方法で、人と人とを結びつけてくれていることは否定できない事実です。ビデオ会議が引き起こす精神的な混乱に、人々がうまく対処することを覚えれば、いずれはZoom疲れを軽減することができるようになるかもしれません。どのような形態のコミュニケーションであっても、少しの知識と行動、それを実践する一人ひとりの勇気によってより良く変化していくものです。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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