成人女性の「怒り」と音楽

 

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

音楽には、昔から感情の鎮静や誘発、感動などの癒し効果があることが知られています。たとえば、思い出のある曲を聞いて思わず涙をこぼしたり、映画のシーンに音楽が使われ臨場感を盛り上げたりすることは誰しも経験したことがあるでしょう。今回は、そんな音楽のさまざまな効果についてのお話です。

精神的な落ち込みと音楽の効果

2019年にハーマンインターナショナル株式会社が実施した全国の10~60代の男女(その他含む)計2,000名を対象にした意識調査では、音楽がどのような場面で私たちに影響を与えているのかという問いに対し、「ストレスを感じた時」(60.75%)が最も回答数が多く、次いで「退屈な時」(31.6%)など日常的な場面で音楽が一役買っていることが示されています。逆に、「ストレスを感じた時」に行う対処法としての問いには全体の約2人に1人(44.6%)が「音楽」を選んでいました。これは、代表的な解消法ともいえる「運動」(30%)や「友人と/家族と話をする」(29.95%)などの方法を上回る結果です。

音楽によるストレスと気分の変化

心療内科医 牧野真理子先生がCD音楽の効果を検証するために、46人の健康な男女を対象に行った実験結果があります。

◆ストレスの変化

唾液中のクロモグラニンAというストレスマーカーを用いて、音楽を聴いた効果を調べた結果、聴取前後でも聴取の前、中、後の3時点比較でもストレスが有意に軽減されていることがわかりました。

◆気分の変化

「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」という気分の状態を測定する心理テストでは音楽を聴いた前と後の結果は下図のとおりです。

女性ではすべての項目が変化しています。音楽聴取後は、緊張が緩和、抑うつ感は減少、怒りは落ち着き、活気が上昇し、疲労感が軽減しています。
男性は、怒りのレベルは聴取前と後で不変ですが、他の項目は大きく変化しています。音楽聴取後は、緊張が緩和、抑うつ感は減少、活気が出て、疲労が軽減し、混乱した気持ちが落ち着いたといえます。
「怒り」の音楽効果は女性にだけあらわれています。

成人女性の怒りの気分に及ぼす影響

日本赤十字豊田看護大学看護学部准教授の大谷喜美江先生の「音楽を用いたリラクセーションの効果と心身健康科学-成人女性の怒りの気分に及ぼす影響から―」という研究があります。この研究は、成人女性43人(乳幼児の保護者を含む)を対象としたものです。43人のうちの20人(うち、乳幼児の保護者17人。その他3人)に音楽を聴取させ、残りの23人(乳幼児の保護者15人、その他8人)には音楽を使用しませんでした。2つのグループの実験前、実験後の気分の変化を比較しています。使用された音楽は、バッハのG線上のアリアとパッヘルベルのカノンの曲間に小鳥の声と小川のせせらぎの自然音を組み合わせて構成されたものです。

実験後、音楽を聴いた人は、「精神の張りつめが緩んだ」「不安感が薄れた」「疲れが軽減した」と答える割合が多く、「勢力がみなぎってきた」「生き生きしてきた」などプラスの変化がみられた人も多いという結果が出ています。反対に、マイナスの反応である「かっとしやすい」「不機嫌である」「落ち着かない」などのようなマイナスの感情は大きく減少していました。特に、「怒りの感情が軽減した」「精神の張りつめが軽減した」「生き生きとした気持ちになった」は、音楽聴取群は音楽を使用しない群に比べて2~5倍もその結果が高かったことが示されています。

一方で、「疲れを感じた」「不安感がある」「褒められるのに値しないと感じる」というネガティブな気分については、音楽を使用しない群の方が高い結果が出ています。

30項目のうちの実に27項目において、「音楽を聴いた人の方が良い結果を得られた」わけです。

音楽がもたらす脳への影響

好きな音楽を聴いていると、気分がワクワクして楽しい気持ちになります。しかし、音楽の効果は気分を高揚させてくれる、それだけではなかったのです。実は、音楽を聴くだけで、食べ物や飲み物を摂取したときのような脳活動が起こるのだそうです。好きな音楽を聴くと、神経伝達物質であるドーパミンが前頭葉に向かって投射されます。前頭葉は脳全体の司令塔であるため、音楽を聴くことで脳全体の回路が活発になるのです。このことから、仕事や勉強中にBGMを聴くというのはとても理にかなっているということが分かります。ちなみに、テンポの速い音楽を聴くとより脳が活性化されることが分かっています。メロディとは無関係に、速いテンポの音楽を聴いた後と、遅いテンポの音楽を聴いた後、何も聴かずに作業をしたのとでは、明らかに反応時間の差が出たそうです。

一体どんな音楽がより脳を活性化してくれるか・・・答えはとてもシンプルで、“その音楽が好きかどうか”が決めてです。その人が本当に好きな音楽を聴くことでドーパミンがより活性化し、あまり好きではない音楽を聴いている時よりも脳全体が活性化するそうです。結局のところ、自分のお気に入りの曲を聴くのが1番いうことでしょう。

◆α波「1/fゆらぎ」

物理学者の武者利光による研究で、自然界の1/fゆらぎ音を聴くと脳内がα波の状態になり、人間の生体にリラクゼーション効果をもたらすと発表されています。α波の中でも「1/fゆらぎ」という一定の周波数と振動を持つ音楽は特にリラックス効果が高いとされています。

モーツァルトの楽曲も1/fゆらぎを持つことで有名です。美空ひばりや宇多田ヒカル、徳永英明の歌声にも「1/fゆらぎ」が含まれているといわれています。最近ではOfficial髭男dismのヴォーカル藤原さんの歌声も「1/fゆらぎ」を持っていると言われています。

◆ソルフェジオ周波数528Hz

528Hz(ヘルツ)の周波数の音を流した動画が近年話題を呼んでいます。それらはDNA研究者レオナルド・ホロヴィッツ博士が唱えたソルフェジオ周波数の理論がベースになっているといわれ、グレゴリオ聖歌やビートルズの曲にも無意識に心地よく感じるソルフェジオ周波数が使われているのだとか。528Hzは9つあるソルフェジオ周波数の中でも、基本となる周波数で癒し効果が高く「奇跡の周波数」「愛の周波数」ともいわれています。過度なストレスに晒され、傷ついたり壊れたりした細胞のDNAを修復するといわれています。この周波数を含む演奏を集めたCDが2015年日本レコード大賞企画賞を受賞しています。

上野学園大学音楽学部音楽学科特任教授で心理学博士の星野悦子先生は、音楽の効果について次のように話されています。

誰にでも効く「特効薬」のような音楽はないものの、音楽がもつ基本的な特徴に基づいて、心理状態やストレスの性質ごとにおすすめできる「原則」を導き出すことはできます。

基本的には、その時の気持ちに合う、共感しやすい曲を聴くとストレスの緩和に役立つでしょう。例えば、イライラした気分を発散したい時には、激しめの曲を選ぶと効果的です。逆に、気持ちが落ち込んでいる時には、ゆったりと穏やかな音楽がお勧めです。気分が落ち着いてきたら、少しずつテンポを上げていくと、元気が出るようになります。ただし、落ち込んでいるときにあまりに暗い音楽を聴き続けてしまうと、さらにつらい気持ちが喚起されるおそれがあるので注意が必要です。

人付き合いに疲れた時や集中したい時は、できるだけリズムや響きがシンプルな音楽を、逆に人恋しくなったら、エモーショナルな表現が織り込まれた音楽を聴いてみましょう。その音楽の世界観に入り込んで、歌詞に共感したり、慰められたりするうちに、励まされ、勇気づけられたような気分になります。

以上、エゴレジ研究所から音楽のいろいろな効果ついてご紹介しました。太古からあった音楽は、現在ではより体系的に、より医学的・科学的に整理され、分析されています。それによって目的にあわせた音楽も選びやすくなっています。私たち人間にとって、音楽は非常に身近であり、また欠かすことのできないものです。楽しみとリフレッシュとリラックスのために、毎日の生活に音楽を積極的に取り入れていきたいものです。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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