成年後見人制度って? 仕組みと活用法

山田裕美子
山田税理士事務所 副所長
税理士、相続コンサルタント
EY税理士法人勤務後、独立
税理士歴27年
3世代にわたる感情がもつれた相続を経験したことから、相続専門税理士に。感情や権利関係が込み入った相続が得意。認知症になった親の成年後見や、お一人さまの相続にも精通。

最近はおひとりさまの中に、認知症だけでなく、事故や脳溢血などの突発的病気で倒れたときのために準備をしておきたいという方も増えております。「成年後見人」とは、認知症や知的障害などで十分な判断能力がなくなったとき本人に代わって契約の締結や財産管理を行う人を言います。

今回は、成年後見人の種類、後見人になれる人や、後見人の職務、かかる費用、活用事例などについてお話ししたいと思います。

成年後見人制度

① 成年後見制度とは?
② 任意後見制度と法定後見制度
③ 成年後見人になれる人
④ 後見人の変更・辞任・解任
⑤ 成年後見人の職務
⑥ 開始の申立てにかかる費用

成年後見制度の活用例

① 活用例1
② 活用例2

成年後見制度

① 成年後見人制度とは?

認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力が不十分である場合、預貯金や不動産の管理をしたり、介護サービスや施設への入所に関する契約を結んだり、入院費を支払ったりすることが難しいです。また自分に不利な契約であっても判断できず契約してしまい、悪徳商法や詐欺にあうケースがよくあります。また判断能力が衰えた本人の財産を親族が勝手に使ってしまうこともあります。このような方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。

② 任意後見制度と法定後見制度

成年後見制度には,大きく分けると,任意後見制度と法定後見制度との2つの制度があります。

任意後見制度 法定後見制度
制度の概要 本人が十分な判断能力を有する時に,あらかじめ,任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき,本人の判断能力が不十分になった後に,任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度 本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度
申立手続
  1. 本人と任意後見人となる方との間で,本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務について任意後見人に代理権を与える内容の契約(任意後見契約)を締結
    →この契約は,公証人が作成する公正証書により締結することが必要
  2. 本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任の申立て
家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行う必要がある
申立てをすることができる人 本人,配偶者,四親等内の親族,任意後見人となる方(注1) 本人,配偶者,四親等内の親族,検察官,市町村長など
成年後見人等,任意後見人の権限
任意後見契約で定めた範囲内で代理することができるが,本人が締結した契約を取り消すことはできない。 制度に応じて,一定の範囲内で代理したり,本人が締結した契約を取り消すことができる。
後見監督人等(注2)の選任 必ず後見監督人等を選任する 必要に応じて家庭裁判所の判断で選任

(注1)
本人以外の方の申立てにより任意後見監督人の選任の審判をするには,本人の同意が必要です。ただし,本人が意思を表示することができないときは必要ありません。
(注2)
後見監督人等=任意後見制度における任意後見監督人
法定後見制度における後見監督人,保佐監督人,補助監督人

③成年後見人になれる人

成年後見人は家庭裁判所が選任します。

親族でもなれますし、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることもあります。ただし、下記の条件に当てはまる場合は、成年後見人になる資格がありません。

・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・被後見人(本人)に対して訴訟をしている人、または訴訟をした人、並びにその配偶者及び直系血族
・行方の知れない人

また家庭裁判所の審判によって決まるため、必ずしも本人や、周囲の人が希望する人になるとは限りません。成年後見人の人選について、不服を申し立てることもできません。

任意後見制度では判断能力のある時に後見人を選ぶことが出来るので、病院の入退院の付き添いなど、本人が気心の知れた親族を選ぶこともできます。ただし、認知症など後見が必要になってから、本人と契約を結んだ成年後見人を監督する、任意後見監督人をつけることが必須となります。

④後見人の変更・辞任・解任

  • 変更
    いったん成年後見人が定まると、成年後見人の変更は容易に認められません。しかし、特例として家庭裁判所が成年後見人を変更する場合もあります。
  • 辞任
    成年後見人から辞任の申し出があり、その理由に正当な理由があるとき(裁判所の許可が必要)
  • 解任
    成年後見人に不正な行為、著しい不行、その他後見の任務に適しない事由があるとき(横領・利益相反・権限の濫用、任務の怠慢など)

また、家庭裁判所は、必要があるときは複数の成年後見人を選任したり、追加で選任する場合もあります。

⑤成年後見人の職務

成年後見人は、大きく分けると下記の3つの職務に当たることになります。

  • 財産管理
    本人に代わり、本人の財産を適正に管理をします。具体的には、年金の受領、預貯金や有価証券類の管理、収入支出の把握などがあります。成年後見人は財産管理の職務を全うするために、本人の代わりに契約(代理権の行使)や契約の取り消し(取消権の行使)をします。
  • 身上監護
    本人に代わって法的な契約行為を行い、本人の安全と健康を守ります。具体的には、住宅の確保や整備、施設や病院の入退院の手続きをします。
  • 職務内容の報告
    年に一度、家庭裁判所に財産管理、身上監護を適正に行っていることを、報告します。収支明細や財産目録を作成します。

⑥開始の申立てにかかる費用

任意後見・法定後見どちらにおいても、裁判所への申立時に15~25万円程度の費用がかかります。(印紙や病院の診断料、公正証書作成などの諸費用を含む)

また後見が開始してから、成年後見人や任意後見監督人に報酬を支払うことになります。この金額は裁判所が申立てに基づいて「審判」により決定します。管理財産額が5,000万円以下で通常の後見事務を行った場合、法定後見人への報酬は月額2万円が目安とされます。任意後見人の報酬は、任意後見契約で定められた金額を受け取ることができます。

成年後見制度の活用例

① 活用例1

Aさんの夫は5年前に亡くなり、子供はいません。病院で診断を受けたところ、癌で余命が1年くらいだと分かりました。財産を残したい甥や姪はいるのですが、まだ結婚したばかりで世話になるわけにはいかないとお考えになりました。そこでAさんは司法書士に依頼し、任意後見制度を利用し、司法書士の先生に年金の受領、預貯金の管理、や病院の入退院の手続きをお願いしました。さらに、遺言書作成と遺言執行を依頼し、亡くなった後の住宅の売却、保険の受取、財産の分配(甥姪への相続や母校への寄付)お墓への埋葬など、全てをお任せする契約をしました。

これにより、Aさんの病気が進行しても、滞りなく病院に入院し、甥姪に迷惑かけることなく、財産を残すことが出来ました。税理士によって税務申告も終了し、ご自身の最後を本当に綺麗にまとめられました。

② 活用例2

一人暮らしのBさんは交通事故に会い、病院に搬送され一命はとりとめましたが、脳の出血もあり、ご自身で判断することが難しい状態です。入院期間も長引く予定で、Bさんの定期預金を崩さなければ支払いが出来ません。そこで娘さんが法定後見制度を使えないか相談にいらっしゃいました。家庭裁判所に申立してから半年くらいかかり、裁判所が監督人を選任しましたが、無事娘さんが成年後見人になることができました。今後は成年後見人報酬を受取りながら、監督人の助けを借り、財産管理ができるようになり、ご兄弟であるお兄さんに使い込みを疑われることなく、お母様をサポートすることが出来るようになり、安心していらっしゃいました。

③ 活用例3

Cさんのご両親は認知症と診断され、近所に住むCさんが訪問介護サービスを受けながら面倒を見てきましたが、ご自身も体調を崩し、介護を続けることが出来なくなり、ご両親は施設に入居することになりました。親の持っている預金では入所一時金を捻出できません。かといって認知症である方は契約などが出来ないので、自宅を売ることができません。そこでCさんは法定後見制度を使うことにしました。成年後見人が成年被後見人に代わって居住用建物や敷地の売却などの処分を行う際には、家庭裁判所の許可を得なければなりませんが、無事に売却が終了し、老人ホームの入居費用を作ることが出来ました。

以上、成年後見制度についてお話ししてきました。
成年後見は申し立ても複雑で集める資料も多岐にわたり、法律専門家の援助を得た方がストレスなく進められると思います。また資産売却や相続が絡む場合、税務専門家が入ることで税金を安くすることもできます。
ご両親やご自身の終活において、活用いただけたらと思います。

 

プロフィール

EY税理士法人に勤務後、税理士事務所を開業。税理士歴27年。
のべ5000案件以上の会社や個人のお客様の税務問題に関わる。
結婚、出産、仕事と子育ての両立を経て、相続に特化。穏やかな方法で相続の諸問題を解決する税理士として、他士業からの信頼も厚く、全国から相談を受けている。

著書
「会計人12人のアドバイス」清文社
「MBAエッセンシャルズ」東洋経済新報社

早稲田大学オープンカレッジ講師
立教大学講師
東京都税務相談員
商工会議所税務相談員       歴任

ブログ   https://mirai-souzou-souzoku.com/
YouTube  https://www.youtube.com/channel/UCFCb8rOCU9UUWNKGNupzpCQ

 

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