「言葉の力」に関する研究

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
同校 心理学研究科大学院修士課程
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

GM 畑 潮/心理学博士

メディアで報道されるニュースのタイトルの悲惨な言葉を見て気が滅入ってしまったり、明るくエネルギッシュな広告のキャッチフレーズを見聞きしてちょっと元気になったり、私たちは普段触れている言葉に何かしら影響されています。それでいて、意識せずに発している言葉には意外と気づかないものです。私たちが何気なく触れている言葉の影響は、心理的な面に留まらず身体的な行動にも及んでいる可能性があります。今回は、そんな言葉の力についての研究をご紹介します。

言葉が思考と行動に与える影響

言葉は私たちにどのような影響を与えているのでしょうか。

◆社会心理学者ジョン・バルフの実験

学生を2つのグループに分けます。そして、リストにある単語から短い文章を作ってもらいます。
一方のグループの単語のリストには、
「old(年老いた)」「lonely(寂しい)」「forgetful(忘れっぽい)」「wrinkled(しわのある)」「ancient(もうろくした)」「helpless(体が不自由な)」といった高齢者を連想させるような単語が入っています。
そして、もう一方のグループには、高齢者とは関係のない単語が入っています。

文章作りのタスクの終了後、、学生たちは実験会場から出てエレベーターまでの10メートルの廊下を歩いてもらいました。その際に被験者の歩くスピードを測ったところ、高齢者に関連がある言葉で文章を作ったグループが約8秒もの時間がかかったのに対して、もう一方のグループは約7秒だったそうです。

高齢者に関連がある言葉で文章を作ったグループは、自分たちが触れた言葉から連想された「老人」というイメージを行動で体現していたわけです。

この実験を通して、私たちの行動は言葉から得たイメージに影響されている可能性があることが示されました。

◆ユトレヒト大学のAarts博士らの実験

2つのグループに分けられた協力者は、
目の前におかれたモニターに「握れ」と表示されたら、手元のグリップを軽く握ってもらうように指示されています。

そして1つのグループには、モニターに「握れ」と表示される直前に「がんばれ!」と書かれたものをサブリミナル映像で見せます。つまり本人の顕在意識では認識できないほどのごく短時間だけ提示したわけです。それを「がんばれ!」と表示しなかったグループと比べました。

直前に「がんばれ!」と表示したグループは、握力が2倍に増加し、力が出るまでにかかる時間も短かったそうです。ちなみに、サブリミナル映像で見せる単語が他のものだった場合には、そのようなことは起こりませんでした。

自分でも認識していなかった言葉が潜在意識に影響を与えていたということです。それだけ「がんばれ!」という応援の言葉は絶大だということです。

日常的に触れている言葉や自分が使っている言葉によって自らの行動が無意識の中で影響を受けているかもしれません。ということは、言葉を発しないまでも、「なんか最近年かな…」と心の中でつぶやいたとしたら、自分にはその心の声(言葉)は聞こえているのです。意識せずに発している言葉というものは意外と気づかないものです。

言葉が心に与える影響

言葉は行動だけでなく、知らず知らずのうちに心にも影響を与えることを証明した実験を紹介します。

◆思いやりも言葉から

社会心理学者ジョン・バルフ、マーク・チェン、ララ・バローズの3人による実験です。
学生を2つのグループに分けます。そして、リストにある単語を使って短い文章を作ってもらいます。
一方のグループの単語のリストには、「強引」「大胆」「無礼」「困らせる」「妨げる」「邪魔する」「侵害する」といった単語が並んでいます。
もう一方には「尊敬する」「思いやりのある」「感謝する」「我慢強く」「従う」「丁寧な」「礼儀正しい」といった単語が並んでいました。
学生たちは5分ほどのテストを終えたのち、廊下の先にある部屋にいって次の実験の担当者と話すよう指示を受けました。そして、「担当者の所に来るときには、必ず決められた順番通りに来て、前の人を抜いたりしないように」と伝えられました。
しかし彼らが部屋の前までいくと、その担当者はほかの学生の相手をするのに忙しく、話ができるような状況ではありませんでした(この話し込んでいる担当者と学生も仕込まれたサクラです)。

この状況で、ネガティブな単語が含まれたテストを受けた学生のほとんどは、担当者が他の人と話をしていても平均5分以上は待てず、会話を遮りました。
それに対して、もう一方のグループの学生たちは、82%が10分経っても会話を遮ることはしなかったそうです。

つまり、テストにネガティブな単語が含まれていただけで、心の余裕がなくなり、相手に対して配慮しにくくなるということなのでしょう。単語テストに出る言葉だけでもこんなに影響があるということが示されたのです。

◆安心感を与える言葉

もう一つ、一時的な安心感によって相手に対し寛容になり、偏見は減り、人を貶めることなく自尊心を持ち続けることが可能になるという実験結果もあります。

第一のグループには、安心感をイメージする単語「親密さ」「愛情」「抱擁」「支え」など、
第二のグループには、比較対象として中立的な単語「オフィス」「テーブル」「ボート」「写真」など、
第三のグループには、比較対象として肯定的な単語「幸福」「正直」「幸運」「成功」など
を提示します。

結果として、「単語」から安心感を与えるようなストーリーをイメージした場合には相手に肯定的評価を下しやすくなりました。
それに対し、「単語」から中立的なストーリーをイメージした場合や、楽しいけれど安心感にはつながらないストーリーをイメージした場合では、相手への評価に差はみられなかったそうです。
提示する単語(言葉)によって相手の評価が変わってしまうことが示されたのです。

言葉が与える脳への影響

Words Can Change Your Brain: 12 Conversation Strategies to Build Trust, Resolve Conflict, and Increase Intimacy (言葉はあなたの脳を変える:信頼を築き、衝突を解決し、関係を強めるための12の会話戦略。未訳)」の著者、精神科医のマーク・ワルドマンとアンドリュー・B・ニューバーグは、ポジティブな言葉もネガティブな言葉も両方が脳に変化を及ぼすと報告しています。

示された文が「ノー」で始まる時、脳はコルチゾールをより多く放出します。これは、ストレスホルモンです。一方で、その文が「イエス」で始まる時、ドーパミンがより多く放出されます。ドーパミンは幸せホルモンです。

同じく、フリードリヒ・シラー大学イェーナの研究者は、愛情深くポジティブな表現は、背内側前頭前野を活発にすることを示しています。このエリアは自己像や感情的決断に関係します。言い換えると、心地よく、愛のある言葉は、自己認識を発達させ、より良い感情的な決断をするのに役立つのです。

人は一日に平均70,000語を使うとされています。話すことがあまりに普通なので、それが当たり前のことになっています。それは私達の基礎で、自分や人とつながる基本的な方法です。

「言葉の力」を知って言葉の使い方に気をつけることは、とても大切です。特に、張り詰めた状況、衝突の場、内なる問題にある場合はそうです。また、言葉に気をつけなければならないのは、人に対してのみではありません。自分に対して何を言うかにも、注意しましょう。

以上、エゴレジ研究所から言葉の持つ力についての研究をまとめてみました。古(いにしえ)より日本では、言葉には不思議な力が宿っていると考えられていました。「言霊(ことだま)」という言葉が存在することからも、それが分かります。

悲惨なニュースや悲しい出来事を報じる言葉を聞くだけで、人は簡単にネガティブな感情へと流されてしまいます。そのような状況が溢れる日常でも前向きに物事を捉えるためには、楽観であり続ける意志が求められます。その前向きな姿勢を育むためにも普段使っている言葉—「ひとりごと」や「口ぐせ」も含めて—を変えていくことが最初の一歩になるかもしれません。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

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