【専門家に聞いてみました!!】第1回

平川さんは政府の「コロナ対策本部」にもいらっしゃいました!私の大学院の時の同級生です。博士課程にも進学してちゃんとドクターの学位も持っている優秀な大人女子です!!

プロフィールは、株式会社三菱総合研究所 ヘルスケア・ウェルネス事業本部 主任研究員(元・内閣官房新型インフルエンザ等対策室内閣参事官)

1) コロナウイルスって、風邪のウイルスじゃないの?

 コロナウイルスのうち、人間への感染が確認されているのは7種類です。このうち「風邪」の原因となる4種類のウイルスと、重篤な症状を引き起こす以下3つのウイルスがあります。
 重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となったSARSコロナウイルス(SARS-CoV):致死率約9.4%
 中東呼吸器症候群(MERS)の原因となったMERSコロナウイルス(MERS-CoV):致死率約34.4%
 現在流行しているコロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)(COVID-19)の原因ウイルス(SARS-CoV2):致死率約3.3%

2) 結局どうやって感染するの?どうやって防ぐの?

 新型コロナウイルスは飛まつ感染・接触感染で感染しますので、感染を防ぐためには、飛んでくるウイルスを口や鼻から吸い込まないこと、自分の手に付着したウイルスを口や鼻にもっていかない(顔を触らない)ことが重要です。
 「飛まつ感染」:感染者の飛まつ(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒に放出されたウイルスを、他の方が口や鼻などから吸い込んで感染すること。咳やくしゃみなどをしなくても、5分間の会話で1回の咳と同じくらいの飛まつ(約3,000個)が飛ぶという報告もありますので、感染者と近距離で会話することもリスクになります。
 「接触感染」:感染者の飛まつが付着した部分を、他の方が手で触れ、その手で自分の口や鼻を触ることにより粘膜から感染すること。WHOからは、新型コロナウイルスは、プラスチックの表面では最大72時間、ボール紙では最大24時間生存する報告されています。
 また、閉鎖した空間で多くの人と会話する等の環境では、エアロゾル(浮遊する微粒子)によって感染する可能性も指摘されています。エアロゾル対策としては、部屋の換気をよくすることが重要です。

3) マスクや手の消毒で防げるの?

 ウイルスは人間の粘膜(口・鼻・目)から体内に入り込み、増殖しますので、口・鼻・目からのウイルスの侵入を防ぐことで、感染を防ぐことができます。
 感染した方がマスクをすることで、飛まつの拡散を防ぐことができます。新型コロナは、発症する前から感染力があることが確認されていますので、皆が感染していることを想定してマスクを着用することで、集団の感染を防ぐことが期待されています。
 また、感染していない方がマスクを着用することで、飛まつを直接自分の口や鼻から吸い込まないためにも役に立ちます。手の消毒は、無意識のうちに触れて手についたウイルスを死滅させることで、手を介して粘膜(口・鼻・目)からウイルスが体内に入り込むことを防ぎます。
 ウイルスそのものは約100nm(ナノメートル)と非常に小さく、マスクで侵入を防ぐことはできませんが、ウイルスが付いた飛まつの侵入は一定程度防ぐことができます 。

4) 新型コロナは変異するの?

 日本国内で流行している新型コロナウイルスも変異をしていることが確認されています。2020年1~2月に中国・武漢から国内侵入したウイルス株は消滅し、3月下旬から欧州系統のウイルス株が侵入し全国で拡大し、さらに地域ごとに変異をした患者集団が確認されています。

5) 新型コロナウイルスが弱毒化しているというのは本当?

 緊急事態宣言前後の3~4月と比べ、緊急事態宣言解除後の6月以降では、感染者数に占める重症者数や死者数が減少している事が報告されています。
 全年齢の調整致死率※:(5月)7.2% →(8月)0.9%
 うち、70歳以上の調整致死率※:(5月)25.5% →(8月)8.1%
(※診断された症候群から追跡期間中に死亡した方の割合。届出から死亡までの日数を調整した数字)
 しかしこれは、ウイルスが弱毒化したのではなく、以下のような理由であると考えられています。
 標準的な治療法が確立し、対応が進んできたこと
 検査体制が拡充し、従来見逃していた軽症や無症状の感染者も確認できるようになったこと
 (致死率が低い)若い世代の感染者が感染者に占める割合が高くなっていること
 高齢者の中でも、比較的健康な高齢者が感染するようになっていること

6) 一度感染したら、大丈夫?

 新型コロナウイルスに感染した人は、体内に新型コロナウイルスに対する抗体が作られることが知られています。しかし、その抗体がどのくらい持続するのか、それによって新型コロナウイルスに対する免疫が獲得できる(二度と感染しないようになるか)は現時点では明らかになっていません。実際に海外では再感染した事例が紹介されています。
 風邪のコロナウイルスに関しては、抗体化がいったん上がっても1年程度で下がり、毎シーズン感染する可能性があること、ただし感染しても最初の感染時よりも軽症になることなどが報告されています。
 新型コロナウイルスについてはまだ明らかになっていませんが、風邪と同様、再感染の可能性があるため、一度感染しても油断してはならないといえるでしょう。

7) この冬、新型コロナとインフルエンザは一緒に流行るの?

 一緒に流行する可能性があります。
 ただし新型コロナもインフルエンザも感染予防策(手洗い、マスク)が同様のため、国民の新型コロナ対策を十分実施していれば、インフルエンザの流行は抑制されることも期待されています。

8) イベントは?

 イベントと一言で言っても、不特定の方か否か、全国から集まるか、発声を伴うか、密接状況はどうか、等の条件に応じて感染リスクが異なります。
 クラシック音楽コンサートや映画館はリスクが少ないがスポーツイベントの歓声・声援はリスクあり
 基本的に適切な換気のもと、マスクをして声を出さなければ、観客同士の感染リスクは低くなります。
 現在、政府内で各施設のリスク評価を行っていますが、暫定的に開催条件の考え方が示されていますので以下の情報を参考にするとよいでしょう。
https://corona.go.jp/news/pdf/jimurenraku_20200911.pdf

9) 治療薬はできるの?アビガン・レムデジビルは効くの・効かないの?2

 既存の治療薬で、新型コロナウイルスの治療薬として実用化するため、その治療効果や安全性を検証するための治験や臨床研究が進んでおり、現時点(2020年9月20日)では2種類の承認薬があります。

〇レムデシビル

  レムデシビル(米国:ギリアド・サイエンシズ社)は、元々、エボラ出血熱の治療薬として開発されたもの。米国NIHの臨床試験で新型コロナウイルスの重症患者への治療期間を短縮する効果等が確認されています。2020年5月7日に、日本国内初の新型コロナウイルス治療薬として承認されました。人工呼吸、酸素投与を必要とする重症患者に点滴により投与されます。

〇デキサメタゾン

 デキサメタゾンは、国内では重症感染症等に対して承認されているステロイド薬です。米国NIHの治療ガイドラインでは、人工呼吸、酸素投与を必要とする新型コロナウイルス感染症の患者への投与を推奨されています。

〇アビガン

 アビガンは、新型インフルエンザの流行に備えて承認された抗ウイルス薬です。重篤な副反応も確認されているため、現在、有効性や安全性の臨床研究が進められています。研究医療機関で、患者が同意した場合にアビガンを使用することができ、8月26日現在で、5,000例を超える投与が行われており、治療薬としての承認が期待されています。

10) 新型コロナワクチンはいつできるの?打った方がよいの?

 ワクチンは健康な大勢の人に接種するものなので、数千万人~1億人単位での大量生産・多数への接種が安全に行うことができるか、品質の担保・安全性の担保が求められます。通常は年単位での開発期間が必要ですが、短期間で開発しているため、より慎重な運用が必要でしょう。
「新型コロナウイルスワクチンの早期実用化に向けた厚生労働省の取り組み」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000668569.pdf
 国内でも塩野義、第一三共、アンジェス、KMバイオロジクス、IDファーマ等複数のメーカーにより開発が進められています。
 海外メーカーとの協議も行っており、各社の開発が成功した場合、ワクチン供給を受ける基本合意を進めています。
 米国ファイザー社:2021年6月末までに1億2千万回分(基本合意済)
 英国アストラゼネカ社:2021年初頭~1億2千万回分(基本合意済)
 米国モデルナ社(武田薬品工業が国内での販売・流通):2021年上半期~4千万回分以上(交渉中)
 上記は、国が公表しているワクチン開発に対する現状です。が、実際には、副反応等が発生するたびにいったん止まって検証することになり、予定が遅延する可能性もあります。
また、医療従事者や高齢者、基礎疾患がある方など、リスクが高い方への接種が優先されることを考えると、一般の健康な成人への接種は、あと1.5年~2年は難しいのではないかと個人的には考えています。健康な方はワクチンに過大な期待をせずに、感染予防策を取りつつ免疫力を付け、感染した時の症状を軽くするよう心掛けることが重要ではないでしょうか。

(2020年9月21日時点の情報を基に記載しています)

平川幸子(ひらかわさちこ)
プロフィール:
株式会社三菱総合研究所 ヘルスケア・ウェルネス事業本部 主任研究員
(厚生労働省新型コロナウイルス対策本部参与)
(元・内閣官房新型インフルエンザ等対策室内閣参事官)

参考文献

[1] 国立感染症研究所,「コロナウイルスとは」(2020年1月10日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html

[1] 厚生労働省,「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-1

[1] WHO, Natural Ventilation for Infection Control in Health-Care Settings, 2009,

https://www.who.int/water_sanitation_health/publications/natural_ventilation/en/

[1] WHO, Q&A on coronaviruses (COVID-19),

https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/question-and-answers-hub/q-a-detail/q-a-coronaviruses

[1] 忽那賢志, yahoo news,「マスクが新型コロナの重症化を防ぐ、という仮説」,2020年9月20日

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200920-00197964/?fbclid=IwAR0QgYIMRgeiVy5Y_7tk-Ps8YXZG6yDVePnsnz9xXux2Io11CnLAQMJNjmk

[1] 国立感染症研究所,「新型コロナウイルス SARS-CoV-2 のゲノム分⼦疫学調査 2」(2020/7/16 現在)」、2020年8月5日(https://www.niid.go.jp/niid/images/research_info/genome-2020_SARS-CoV-MolecularEpidemiology_2.pdf

[1] 厚生労働省,「第8回アドバイザリーボード資料3」(2020年9月2日)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000670226.pdf

[1] The time course of the immune response to experimental coronavirus infection of man, Callow KA, et al. Cambridge University Press. 2009; 105(2): 435-446.

[1] 内閣官房,「11月末までの催物の開催制限等について」、2020年9月11日

https://corona.go.jp/news/pdf/jimurenraku_20200911.pdf

 

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