新型コロナ|ワクチン接種までの時間稼ぎ

【専門家に聞いてみました!!】

2021年4月25日に東京・大阪・兵庫・京都に発令された3回目の緊急事態宣言は、残念ながら十分な効果が得られず、延長及び対象地域の拡大が決定しました。

□3回目の緊急事態宣言はなぜ心に響かないのか

3回目の緊急事態宣言が、なぜ十分な効果が得られなかったか、という点について「自粛疲れ」等が言われておりますが、大きな原因は行政への信頼感の欠如ではないでしょうか。信頼感の欠如の背景には、科学的エビデンスに基づくものではない対策が取られること、長期シナリオやビジョンを示さずに、行き当たりばったりに見えていることがあります。信頼感を欠如した行政からの要請に対して協力を得ることが難しい、ということでしょう。
実際、対策の中には科学的なエビデンスに基づく対策と、そうでない対策が混在しています。また、長期シナリオを示していない点として、1年前に「皆さん今年は我慢してください。桜は来年も咲きます。」、というメッセージが出されましたが、今年も同じことを繰り返しています。1年で収束するのであればカンフル剤で持たせられますが、2~3年を見通すと、それなりの構造変革が求められます。
しかし今はワクチンという希望がありますので、今までの対策を振り返るとともに、ワクチン接種によるゴールに向けて、今対応すべきことを述べたいと思います。

□対策は科学的エビデンスに基づいているのか

現在の政府の対策の中には科学的なエビデンスに基づく対策と、そうでない対策が混在しています。この1年で新型コロナに対する知見は蓄積されてきていますが、変異株の出現によって当初の知見と少し変わってきているものもあります。
まず感染経路については、飛沫感染(エアロゾル感染)と接触感染、ということは従来の知見と同様です。対策としては、互いに物理的距離を保つこと、マスクを着用すること、換気を行うこと、混雑した屋内空間に長時間滞在しないということにつきます。2021年5月7日に米国疾病対策センター(CDC)が感染経路に関するガイドラインを改訂していますが大きな変更は示されていません 。(聖路加国際病院の坂本先生が日本語でも紹介しています。 )
ただし、変異株の出現により従来の新型コロナより感染力が強まっており、これらをより厳密に対応することが求められます。また、高齢者の重症化・死亡のリスクが高い、ということが新型コロナの特徴でしたが、変異株では若年層の重症化傾向も指摘されています。変異株に対しては、「マスクをしていれば安心」ではなく、会議室などで長時間(15分以上)、近距離で話すことでクラスターが発生した事例も出てきています。「マスク・距離・時間・換気」のいずれかが欠けている状態を注意することが必要になります。
しかし、感染するかどうかは飛沫の量や時間に依存するので、感染者とすれ違っただけで感染することはほとんどないといっていいでしょう。3回目の緊急事態宣言で対象とされた、百貨店やショッピングモールなどの大型施設の休業要請は、エビデンスに沿ったものではないといえます。政府の発言として、「百貨店に人が集まった帰りに、飲食をすることで感染が広がる」、という説明もありましたが、それであれば徹底的に飲食の場を制限すべきです。また人流を止めるのであれば、1回目の緊急事態宣言並みに経済活動を止める覚悟が必要です。
一方、飲食店を閉鎖することで感染率を低下させるというエビデンスは複数発出されており、国内のクラスターとしても複数報告されています。米国CDCでもまとめられています 。「飲食店のみ悪者にしている」という批判はありますが、こちらは根拠があるものですので、代替として補償を十分するなど、根拠に基づく制限をすべきです。いずれにしても今の対応は中途半端であり、根拠のない制限は人々に共感を得られず、結局は効果が低いものとならざるを得ません。

□長期的な視点を持っているか

政府の対策が場当たり的に見えるのは、新型コロナに対して長期のシナリオを提示できていないからではないか、と思います。例えば、GoToトラベルについては、2020年7月時点で政府は「移動そのものには感染リスクがない」ということで押し切りました。(一方、今は人流を止めると言って、百貨店を閉めています。)
GoTo事業実施の際、感染症の専門家は「旅行先での飲食等で感染拡大」という懸念を示し、経済の専門家(小林慶一郎氏)は「GoToは一時的なカンフル剤にはなるが、この状態が2年以上続くとすると、(GoToに頼らず)長期的に観光産業として大きなビジョンを描くべき(2020年7月16日時点)」と発言しています 。感染症の専門家も経済の専門家も賛成していない施策ですから、後日検証される必要があります。
この小林氏の発言にはもう1つポイントがあります。2020年7月段階で、「この状態が2年以上続くとすると」と条件を提示している点です。私は2020年4~6月に厚労省の対策本部で勤めていましたが、感染症の専門家は当初から、新しい感染症が発生して収束するまでには、だいたい2~3年と、経験則的に述べていました。
1年で終わるのか、2~3年続くのかでは、事業者の対応も異なります。1年未満であれば、カンフル剤で延命できても、2~3年であれば、業態変更を検討する必要もでてきます。しかし、感染症の見通しには、人々の行動変容や政府の政策など、不透明なことが多く長期のシミュレーションが困難であることも確かです。そのため、専門家に対し、エキスパートの意見として、「総合的に考えるとどの程度で収束するのか」、という質問をぶつけたのが、こちらのコラムです 。2021年末にはワクチン等の効果で行動制限が減少し、2022年末には部分的に残る程度になるだろう、という意見です。

□行動制限はワクチン接種が進むまでの時間稼ぎ

先が見えにくいCOVID-19ですが、現在接種が進められているワクチンに大きな効果があるということは、大きな希望です。特にファイザー社製のワクチンは、先行して接種を進められている海外の事例からは、発症予防効果は約95%と報告 されているほか、感染防止にも(発症しない無症状の感染者に対しても)効果があるというイスラエルの研究結果も発表されています 。さらに変異株(B.1.351:南アフリカ型及びB.1.1.7:英国型)に対しても効果がある点も示されています 。
日本ではその他、アストラゼネカ社やモデルナ社のワクチンも含めて、最速で7月末には高齢者の接種を終えるとともに、9月末までに接種対象者全員分を確保できる見通しと言われています。7月末までに高齢者の接種を終えるためには1日100万人接種が必要、という話もあります。
ちなみに、季節性インフルエンザワクチンは、概ね10月後半~1月前半までの3か月間に人口の25%(約3000万人)が接種しています。主に平日に接種していることを想定すると約65日間で3000万人、1日約45万人の接種が行われていることになります。物流等の取扱いに問題はありますが、決して荒唐無稽な計画ではないように思います。
今の計画どおり重症化リスクの高い高齢者の接種を迅速に行うことは、医療体制維持のためにも重要になります。変異株について、若年層において重症化の例が増えつつあるという状況ですが、基本的には高齢者の重症化率・死亡率が圧倒的に高いため、高齢者の入院者を減らし、医療体制を維持することは急務です。
ただしワクチンの効果は100%ではなく、国民の多数が接種して集団免疫を獲得するまでは、少しの気を付けて生活を続けることも必要になるでしょう。(結局何割接種すれば集団免疫を獲得できるのか、いまだに分かっておりませんが、7~8割といわれています。)
またその間、感染拡大が進むと、変異株の発生も懸念されます。変異株というのは、ウイルスの増殖中のコピーミス、なので、感染者数が増えるほど、変異株の可能性が増大します。ワクチン接種が進むまで、もう少しの辛抱が必要になります。

□日本の医療体制はなぜ緊急時対応できないのか

国民に自粛を求めてばかりで、最近は、「日本は患者数が欧米と比べて一桁は少ないのに、なぜ医療崩壊と騒ぐのか」という、医療体制に対する批判もでてきています。
大きな問題の一つは、日本の病院の大多数は民間病院であり、病院数の8割、病床数の7割が民間病院です。国や自治体は、民間病院に対しても、新型コロナ患者を受け入れるよう、働きかけをしています。しかし仮に病院長がコロナ対応すると決断した場合、職員が集団で離職する(又は離職しようとする)等で、病院が機能しなくなる例もあるようです。もともと感染症を診たことのない医療機関・医療従事者が急に感染症患者の治療にあたる、というのは、かなりハードルが高いようです。
コロナ患者を診ない病院であっても、医療関係者は自らが感染源となって病院にクラスターを発生させてはいけない、という緊張感の中で生活しています。会食やイベントなどもこの一年、控えていることでしょう。それでもさらに、全ての医療機関でコロナ患者を診療すべき、という論調には、個人的には違和感があります。日本の医療体制・医療制度の問題は、危機時の今ではなく、本来は事前(または事後に)行う必要がある大きな課題です。

□ワクチン接種が進むまで一人ひとりの接触機会削減が重要

今回は若干、批判的な記載となってしまいましたが、ちょうど読んでいる本に、日本人を称して「『自分ではない誰かがしてくれる』という気持ちが強い」、「自ら考えて動くのが苦手で他責傾向がある」と分析されており、やや反省しております。
一人ひとりにできるのは、やはり行動制限・自粛=「接触機会の削減」になります。
ワクチン接種が進み、免疫が定着するのはこの秋から冬までの約半年間、新たな変異株の発生を防ぐためにも一人ひとりの自粛が求められます。新たな変異株によって、ゴールが先延ばしにならないためにもそれが重要です。

[1] Scientific Brief: SARS-CoV-2 Transmission(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html
[1] 「新型コロナの感染経路 いま分かっていること、いまできること」聖路加国際病院 坂本史衣,
https://news.yahoo.co.jp/byline/sakamotofumie/20210508-00236853/
[1] Association of State-Issued Mask Mandates and Allowing On-Premises Restaurant Dining with County-Level COVID-19 Case and Death Growth Rates — United States, March 1–December 31, 2020 | MMWR (cdc.gov)(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7010e3.htm
[1] 新型コロナウイルス感染症対策分科会(第2回)令和 2 年 7 月 16 日、小林慶一郎氏の発言「観光需要の落ち込みが2年以上続く可能性があるとすると、一時的にはカンフル剤として効くわけだが、一時の効果で終わる可能性があるので、その後3年くらいを見通したときに観光業がどういう姿になるのか。そのとき、生き残れる企業、生き残れない企業がどれくらいの割合で、そこに政府としてどういう対策を打っていくのかという大きなビジョンを描く必要があるのではないか」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona2_gaiyou.pdf
[1] 「新型コロナ(COVID-19)収束シナリオ」三菱総合研究所 平川幸子、他、(https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210322.html
[1] 厚生労働省「ファイザー社の新型コロナワクチンについて」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_pfizer.html
[1] Association between vaccination with Pfizer-BioNTech BNT162b2, incidence of SARS-CoV-2 infections among health care workers(https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-05/jn-abv050521.php
[1] Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants | NEJM(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2104974

 

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