《和文化》摩訶不思議な「能管」

神楽坂女子倶楽部、和文化「かぐや姫チーム」、笛の福原百麗(ふくはら ひゃくれい・藤本博子)です。

先日のニューオータニでのランチ会では生の笛の音をお聴きいただきました。
お食事しながらの落ち着かない場でしたし、短い時間でしたので、お聴きづらかったかもしれません。
ご容赦くださいませ。

それでも、西洋と日本の音楽の違いに興味を持ってくださったり、篠笛の音を初めて聞きました、という感想を何人もの方からいただきました。ありがとうございました。

さて前回は、堅苦しそうな「所作」も、実は深い意味があるんだというお話をしました。
今回はまた楽器についての話に戻りますね~
ちょっと専門的すぎて分かりづらかったら、前半すっ飛ばしてお読みくださってもOKです。

和楽器の「笛」には、横笛と縦笛があって、主に「横笛」について解説してきました。
日本の音楽は幾つかのジャンルがあって、
1、雅楽・・・宮内庁などで行われる宮廷音楽。世界で最も古い形で伝承されている。
2、能 ・・・世阿弥によって確立されて、武士のたしなみとなった。
3、長唄、清元、常磐津など・・・歌舞伎や日本舞踊のバックミュージック。
4、祭り・・・全国各地の神社、お寺などで行われる身近なもの。

この他にも、お座敷音楽の端唄・小唄、津軽三味線や琵琶など幾つかありますが、主なジャンルはこんな感じです。

どのジャンルでも横笛は使われていますが、雅楽は音楽的にも楽器も、他とは全く種類の違う、完全に独立したジャンルになります。
他は同じ楽器を使っていて、能の演奏者が長唄や端唄の舞台に出ることはありませんが、長唄の囃子の方(打楽器、笛)は清元や端唄や他のジャンルに出演することは多々あります。
クラシック音楽でも、ピアニストがたまにジャズを弾いてみたり、ポップスやってみたり他のジャンルにも進出するのと似ています。
そのようなわけで、長唄囃子のプロの方々は本当に何でも屋で、あちこち色々な場で演奏されています。

そんな何でも屋の笛吹きがメインで使う笛は、「篠笛」と「能管」です。
歌舞伎のバックミュージックでもある長唄は、能からきた曲が多いので、能で使われる笛「能管」も使うのですね。

さて、今日の本題「能管」なんですが・・・

かなり変わった、摩訶不思議な「笛」なんです。

まず、
笛の作り、構造次第、相当変わってます。

見かけは雅楽の龍笛などと似ています。雅楽の笛がルーツとも言われていますが、作りは全然違います。
ほとんどの笛は竹を切って、そこに穴を開けた単純な構造なのですが、能管は切った竹をわざわざ薪を割るように切り分けて、それをなんと、表裏逆にして再び筒状にする、というなんとも非効率的な作業を経ているんですね。

さらには、頭部に鉛を埋め込んだり、中間部は喉(ノド)といって、わざと内側を狭くして息が通りづらくしているんです。重いし、バランス悪いし(頭部が極端に重い)、日本の笛の中で最も音が出づらいと言われてます。また音律が調子外れで、当然西洋音楽のドレミファの音階にはまったく対応しませんので、基本西洋の楽器と合わせられない。

参考資料:「和楽器の世界」西川浩平 河出書房新社  笛師は鳳聲晴由師

なぜ、わざと音が出づらくしてるのか?
なぜ、調子外れの音にしてるのか?
なぜ、わざわざ手間がかかる作り方なのか?

疑問は深まるばかりですね。

しかし、これも「能」で使われている楽器だということを考えれば合点がいきます。

実は「能管」は能では・・・打楽器なんです!

「四拍子」という打楽器チームの一つで、リズムをとるのに重要な役を担っています。
また舞のお稽古では、笛の旋律を歌詞にしたもの(唄歌/しょうが)を歌いながらリズムをとって練習します。
(決して、笛を叩きはしません!)
そして、劇的な場面、例えば物語が始まりますよ~という幕開けで甲高く「ピー」と鳴らしたり、お化けが出てくる場面で「ヒュ~、ドロドロ」といった雰囲気を出す時に、この能管の音色がピッタリはまって、より雰囲気を盛り上げてくれる。それは音律を超えた調子外れの能管だからこその表現でしょう。
より甲高く、より通るように、より劇的に、そのように音を追求した結果、摩訶不思議な作りの笛になったと考えられます。

そのような難しい笛ですので、篠笛を習得してから能管を学び、長唄を何曲かできるようになってから、ようやく名取としてステップアップするかどうか師匠にお伺いを立てるという段階になります。

篠笛はドレミファも音階が吹けるので、長唄などの古典曲だけでなく、叙情歌やポップス、アニメソングなど、なんでも吹ける気軽さが魅力です。
それでも、より日本的な雰囲気、懐かしさを出すには、伝統的な奏法をよく理解しないと洋楽器的に聞こえてしまうのが落とし穴です。
気軽な篠笛であっても、実に奥が深くて、年配で始められても、一生の楽しみとして長年習い続ける方が多いのが分かる気がします。

相変わらずの暑さにゲリラ豪雨、さらに台風も次々やってくるという、なんとも困った夏が続きますが、
ぜひご近所の夏祭りで生のお囃子、笛を聴いてみてくださいね。
木沢さんの食のアドバイスも参考に、この夏を乗り切っていきましょう!

8月の篠笛体験講座は8月26日に予定してます。
神楽坂女子倶楽部メルマガのイベント案内、また下記ストアカにて詳細ご案内しております。

https://www.street-academy.com/myclass/38288?

木沢いずみ

梅酒と青森ごはん tuakjam オーナー。

2007年より三軒茶屋にて、「梅酒と青森ごはん」の店、『tuakjam』をオープン。今年で10周年を迎えます。

以前働いていた焼酎バーでの知識を生かして、“酔いしれる「梅酒・焼酎・泡盛・果実酒」を中心に取り揃え、「お酒に合うごはん」を提供しております。一人飲みを楽しく、日々の生活に寄り添う、まさに“大人の学校”のような、お店です。『楽しみながら学ぶ』というのを、テーマに、和ごはん料理教室も定期的に開催。

また、『武士の食卓』では、プロ講師を取得。和文化をみなさんと一緒に「おいしく、楽しく」日本の文化を継承していきたいと思います。

 

 

藤本博子(福原百麗)

伊藤忠商事を皮切りに、転職8回、事務職から営業、大道芸人まで20の職種を経験。16年間、人材派遣・紹介会社にて営業、転職コンサルタントとして勤務後、独立。

これまでのべ1万人以上の就業・転職サポートを行い、2013年には人材大手転職サイト主催のスカウトコンテストにて1位(部門別)獲得。

現在、民間委託の求職者支援訓練指定校(セラピスト養成)にて就職支援講座(自己分析、就活実技、顧客サービス等)及びキャリアカウンセリングを担当。現在、京都造形芸術大学で芸術学を学びながら、アートを取り入れた「じぶん分解ワークショップ」を開発。訓練校やセミナー等で広く活用している。

一方、長唄囃子福原流笛方として演奏活動の他、洋楽(フルート)との比較やビジネスの視点から見た指導は非常にユニーク。

 

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