《健康》エゴレジと涙の効用

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。

エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。

🔴涙すること、泣くこと  

3月という今のシーズンは、卒業や異動、引っ越しなど、様々なかたちでの「お別れシーン」もあり、思わず涙するシーンも多いのでは?昔から「泣く子は育つ」といいますが、実は大人にとっても泣くことは心身によいことなのです。

涙は、まぶたの裏側の涙腺から分泌されていて、大部分(98%)は水分です。残りの2%がタンパク質やナトリウム、リン酸塩などです。東京メンタルヘルス所長の武藤清栄先生のお話では、悔しさや怒りなどを感じて心身が緊張したとき、交感神経が刺激されて流れる涙はナトリウムを多く含んでいます。悔しいときによく「しょっぱい!」などといいますが、悔し涙はゴミが目に入って流れる涙よりも塩分が多いので、実際にしょっぱく感じるのです。一方、悲しいときの涙やうれし涙は、水っぽく甘い感じがするということです。
涙には、

  1. 角膜を保護するために常に分泌される「基礎分泌の涙」
  2. ゴミが入ったなどの刺激で反射的に出る「反応の涙」
  3. 喜び、悲しみ、悔しさなどの感情を伴う「情動の涙」の3つの種類があります。ストレス解消に結びつくのは、3つ目の涙です。

東邦大学医学部の有田秀穂教授によれば、映画やドラマ、音楽などで感動したり、強い悔しさ、悲しみなど感情が揺り動かされると、脳の内側前頭前野(共感脳)の働きが活性化して興奮状態になります。この状態を緩和しようと、脳内で「自律神経」をつかさどっている視床下部が働きます。「自律神経」というのは、寒いときに鳥肌が立ったり、緊張すると鼓動が早くなったりするなど、無意識のカラダの動きをコントロールする神経です。自律神経は、カラダを活発に動かす「交感神経」とカラダをゆったり休ませる「副交感神経」がシーソーのようにバランスをとっています。大脳から感動による刺激が視床下部に伝わると、自律神経のスイッチが切り替わり、その信号が「上唾液核」を通して、涙腺に涙を分泌する指令を出す、と考えられているということです。

↙3/8付読売新聞「探る」から引用

“情動の涙”とは心が動く涙。そのベースとなるのは他人に対する“共感”です。自分の過去の体験などから、相手の思いや境遇に共鳴すると、心の琴線に触れて目頭が熱くなるのです。“歳を経るごとに涙もろくなる”というのは、人生経験が増えることで、他人に対する“共感”も増えるからではないでしょうか。こいう人ほど、涙のカタルシス効果が高く、泣くことがストレス解消になります。

🔴涙とストレス緩和

有田教授の脳科学の実験では、感動的なビデオを見た成人の被験者は号泣の直前、脳の内側前頭前野(共感脳)血流量が急増し、心拍数や血圧が上昇したのです。でも、被験者が涙を流し始めると、血流量などは下がり、同時に行った心理テストでも、混乱や緊張、不安の得点が改善したそうです。有田教授は、「涙を流すことで、コルチゾールなどのストレス物質が体外に排出され、リラックス効果を生むセロトニンが多く分泌されるので、ストレスを緩和・解消でき、気分がスッキリする」と指摘されています。

また、涙にはストレスによって生じる苦痛をやわらげる脳内モルヒネ「エンドルフィン」に似た物質も含まれているといわれています。感動の涙を流せば、カラダをストレス状態に持っていくホルモンは減り、幸せを感じたり、ストレスを感じなくなる物質が体内に増えていくのです。

🔴泣いてスッキリする活動「涙活」

日々のダメージを受け流していくには、ストレスをため込まずに上手に解消することが必須です。そして今、ストレス解消の方法として注目されているのが「泣く」こと。涙活(るいかつ)という、視覚や聴覚を刺激して涙を誘発する「泣いてスッキリする活動」をしているグループもあるほどです。(https://www.ruikatsu.com

「涙活」のイベントでは、感動的な動画の上映会、詩や絵本の朗読会ほか、泣ける人情話を聞く「泣語会(なくごかい)」などもあるそうです。

また、『号泣力』 (明日香出版社)という東京メンタルヘルス所長の著書もあります。

「泣く」とは意外なストレス解消法ですが、効果は抜群。実際に、「泣いたらなぜかスッキリした」というように、悲しかったり悔しかったり、ツライ気分を泣いて吹き飛ばしたという経験をした人も多いのではないでしょうか。それは「何となく」や「気分」ではなく、れっきとしたカラダと心の反応だったのです。

🔴泣くことはエゴレジ力をアップする!

現代人は、常に時間に追われ、ノルマを気にして生きているもの。するとアクセル役の交感神経が優位の状態が常に続き、カラダがリラックスしにくい状態になっているのです。交感神経優位の状態が続くと——寝つけない/眠りが浅い/肩や首がこる/イライラする——といった不調が出てきます。現代人がかかえている多くの不調は、交感神経優位の状態が続いていることも、要因のひとつです。そうなると、些細なことでもメゲたり落ち込んだりしやすくなります。ストレスに真っ向勝負を挑むのではなく、うまく逃がす術を身につけることで、自分をラクにして生きやすくすることが可能です。

涙活はエゴレジのスイッチを入れる気分転換法の1つとしてもおすすめです!

自分のメンタルをコントロールするために活用するのが、大人の“涙の作法”です。涙活は一人でもできます。週末に号泣すれば、数日間はストレス緩和が持続しますから、脳科学的にみても“涙活”は、大いにやるべきです。動画や本を選ぶ際は、自分の記憶や体験と重なるテーマが共感しやすいと言われています。物語の主人公に自分自身を重ね合わせて「感動の涙」を流すことが、劣化した心の修復に繋がることが多々あるのです。自分の好きなアロマの香りやBGM 、間接照明などでリラックスできる演出をして、一人「涙活」してみませんか?

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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。

小野寺敦子

エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。

畑 潮

エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー

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