<極論>薬剤師である筆者が思う不眠治療の現場からメッセージ

はじめに

今回のコラムは、極論で語る薬剤師からのメッセージということで、筆者の最近の医療現場での実際の経験と、そこから考える持論を綴ってみよう!という回です。
快眠ノウハウの提供回ではありませんのでご了承くださいませ。
今の時代、極論を発言するのは中々難しいかもしれません。が、あえて取り上げてみました。それだけ睡眠活用の専門家として、薬剤師として、疑問や睡眠治療の難しさを感じているのです。賛否両論あると思います。あくまでも一つの参考意見としてお読みいただけたら幸いです。ご意見・誹謗中傷は受付いたしませんのであしからず。

極論です。が、眠れないを真面目に考えて欲しいこと

先ずは、筆者の薬剤師的立ち位置について。
『そもそも、悪眠・不眠の原因である思考・生活を変える気が無い限り睡眠は変わらない!』
『睡眠薬は、<飲めば治る>ものではない。』
『睡眠薬による眠りは、自然な眠りでは無い。』
『睡眠薬は、緊急避難的役割・睡眠障害回復の手助けとして使用・病気じゃないのに飲む必要はないものである。』
※一部疾患を除きます。
という考えです。

睡眠を知っている知り合いの医師達は言います。「夜眠れなくても死なないから気にしなくていい!」私もそう思いますし、この言葉が必要な患者さんにそう言うこともあります。極論に聞こえますが。

実際、ある一部の遺伝病を除き、不眠が死因になることはありません。無理やり断眠させると脳機能や精神に異常をきたし、自殺企図から自ら命を経つ可能性は否定できませんが、それでも死因は不眠ではありません。断眠の結果、体調を崩し持病が悪化して死亡することもあるかもしれません。が、これも不眠が死因ではない。いずれも間接的に関係しているかもしれませんが、すぐに死につながるわけではない。

更に、そもそもヒトは基本的にどうしても眠くなったら寝ます。本人に熟眠の感覚があろうとなかろうと、必要となれば脳は睡眠に落ちています。
不眠症と言われる人たちも、生きていく必要最低限は寝ています。本人が希望するような睡眠がとれていないだけで。
もちろん、最初のセリフで全て片付けるわけではありません。何故ならがもちろんありますし、治療が必要な人には治療するわけです。究極の奥義というか、実は先ずはそこから思考を変える必要があるよ!というメッセージでもあります。
『気にしすぎ』又は『気にし方が間違っている』パターンが殆ど。

確かに、大昔から『眠れない』は多くの人にとって辛い現象で、悩みのタネで、何とかしたい欲求があった。睡眠が改善されると、その人の人生そのものが向上する。だからこそ治療方法が開発されてきました。
今までは、「とりあえず寝かせる」ことで何とかする方法が主流。
「不安や緊張を取り除く」ことで寝かせようとするものもあります。
そして、睡眠リズムに関わる薬の登場で「治療」っぽくもなってきました。
でも、不眠だけでなく、睡眠障害は奥が深い。原因も様々。分類も様々。今だ解明されないこともある。それを分かった上で、ベストは無理でもベターな選択をしようと試行錯誤をするのが知識のある医師。

現場アルアルです。

<医療側の問題>

「何?眠れないで困る?じゃあ睡眠薬だしとこか~。」
で、とりあえず最も市場でメジャーな眠剤を出す。専門医以外が。
8割ぐらいの患者さんは、最初一発で満足する。だってぐっすり眠れるから。先生ありがとうと喜ばれるのだ。
それでとりあえず、「無いと困るんです!」患者が欲しいという言葉のまま、漫然と処方し続ける。止め時を指導できずに。
まあ、別に眠れるんなら続けてても良いでしょ。副作用ないし。依存性ないし。と思っている。

<患者側に起こる怖いこと>

◇最初効いてしまう=眠れてしまう ⇒薬で眠れればいい≒悪眠の原因改善は棚上げ!

◇不眠・熟眠感なしの原因が、睡眠時無呼吸症候群(睡眠障害の一つ)にもかかわらず、それに気づかないまま薬で寝続けても、結局昼間の眠気や怠さは思うように改善しない結果になる。生活習慣病リスク増加も改善されないまま、眠剤だけ飲み続けている。

◇薬による効果はだんだん衰える ⇒増量・追加 ⇒それがおかしいことだともはや思わない。

◇夜寝て朝起きるものだという思い込み。早い時刻に寝ているから夜中に起きる。9時、10時に寝たら夜中3時、明け方4時に起きて当たり前だということに思い至らない。

特に高齢者に多い。そもそも加齢とともに8時間なんて眠れなくなるのも生き物としてある意味自然。(※もちろん幾つになっても爆睡できる人もいる。)一般的に、睡眠は年齢と共に必要な時間は短くなるし、深睡眠は減少し浅くなる。加齢とともに、朝まで寝たい思考は邪魔になる。年齢に合った、自分に合った睡眠で満足できない。思い込み不眠が多い。怠いを眠いと勘違い。頭が働かないのは全てが寝不足のせいではない。

◇うたた寝もしているから、夜の本睡眠が短い。中々寝付けない。にもかかわらず薬で寝付こうとする。

◇泌尿器科領域の問題。一回目起きるまではぐっすりと眠れているし、一回起きて再び眠れるならば睡眠的には問題が無いのにもかかわらず、トイレに起きるのが困るという。夜中のトイレは別問題として解決する必要があると思っていない。また、睡眠に対する工夫が出来ておらず、トイレで起きた時の灯り環境が明るすぎて刺激になり覚醒してしまう。

◇そもそも運動量が少なく体が適度に疲れていないから眠れない。又は疲れの原因が寝不足だと思い込んでいる。

◇精神的な悩み・不安・思い込みを夜にやるから眠れない。止めた方が良い興奮する事柄を止められない。自分の行動に問題があるにもかかわらず、サプリや薬で何とかできる方法を探す。

◇A「飲まないと無いと眠れないの。」
私「飲むとグッスリ眠れます?」
A「飲んでも夜中に起きちゃうの。」
私「飲んでも飲まなくてもよく眠れないのだったらお薬要らないかもしれませんね。」
A「でも無いとダメなの!」
薬が無くなることに対して不安を感じる人が沢山いる。精神的依存の兆候。

◇B「4,5時間ぐらいしか眠れないし、夜中に起きちゃう。」
私「それって毎日?昼間起きている時、何かお困りごとありますか?眠くて何も出来ないとか?」
B「・・・。別に困るって程じゃぁ・・・。」
私「誰だって、たまには眠れないことがあります。忙しい時は睡眠時間削ります。特に困っていなければ、睡眠時間は短くても心配ないですよ。昼間がそれなりに元気なら問題なし!」
長さなど、数字で他人や過去の自分と比較して一喜一憂。基準が昼間の自分にない。

◇循環器系など命に係わる確率が高い他の薬は飲み忘れるのに、眠剤だけは皆さん決して飲み忘れることはありません!もはや依存。
添付文章的には依存は無いと言われている薬でも、現場にいると完全に精神的に依存になているよなぁと思わざるを得ない患者さんがなんと多いことか!

◇意外と少なくない異常行動。一過性前向性健忘、もうろう状態の事例を患者さんからたまに耳にします。添付文章上では0.1~5%未満となっています。4%って100人中4人です!現場の肌感覚では0.1%寄りではない。どちらかと言えば5%寄りかと。寝る前の事を覚えていないレベルではない人も。夜中に起きだして何かした自分がいる。でも全く覚えがない。「朝起きたら、どうやら夜中に起きて鍋を火にかけ調理して食べたらしいの。覚えてなくて怖くなっちゃった。」万が一、火にかけたまま放置して再び眠ってしまったら。。。

そんな怖いことも現実に起こります。ㅤ

ここでは書ききれないぐらい、本当に薬が必要なのか?と思う患者さんに出会います。

確かに、先ずは、今眠れない状態に対して、とりあえず一旦寝かせて負債をリセットする&精神の安定を図るためには有効だと思っています。睡眠リズムをつけるために用いる最近の薬もまた、睡眠改善の導入には有効だと思います。また、一部の疾患の治療のために睡眠薬が必要な場合も理解できます。

でもやっぱり、環境・行動改善無くして睡眠改善無し!だと私は思うのです。

睡眠の悩みで医療機関を受診する場合は、

◇何のために改善したいのか?どうなりたいのか?の目的を持って
◇ゴールを決めて
◇医師とそれを共有して(=つまり話をちゃんと聞いてくれる医療機関で)

望んで欲しいと思っています。血圧手帳を付けるように、出来ればビフォー&アフターの睡眠の記録もしながら。

もちろん、ザックリとは薬の事分かった上で、時差ぼけ様に使うとか、お守りとして頓服的に使うとか、そんなのは大きな問題とは考えていません。

本来は必要ないはずの人が漫然と使い続けることに疑問を呈しているのです。
別に眠れればずっと使ってもいいんじゃない?という意見も勿論間違いではない。問題が無ければそれもまた正解かもしれない。医療行為はあくまでも本人・家族の意思に基づくものですから。

まとめ

長々と綴ってまいりました。多くの患者様に接していると、薬局のカウンター越しの短い時間ではどうしても何とかしたいが何とか出来ないジレンマが沢山あります。少しでも多くの人が睡眠に対する興味を持ち、そしてもしそれに悩んだとき、自分に出来る改善策を取り入れ、いざ薬物治療に対してはメリット・デメリットにも興味を持った上で、様々な工夫や選択が出来る人が増えるといいなと願わずにはいられません。

それでは、今夜も良い眠りを・・・☆

プロフィール

Sleep Performance Company (スリープ パフォーマンス カンパニー)
代表:小林 瑞穂 (こばやし みずほ)
薬剤師/睡眠改善インストラクター(H29年現在)薬科大学卒業後、営業職に従事。その後メンタル専門の薬剤師となり、延べ5万人以上の「眠りの悩み」に関わる。2011年独立。睡眠活用の専門家として、社会人が今よりもっと輝くための『ハイパフォーマンス睡眠法』や『生産性向上のためのセルフリーダーシップ睡眠研修』など、セミナーや講演、企業研修を実施。体感型ワークを多く取り入れた講座は、「すぐに実践できる」「スッキリ起きられるようになった」「仕事の効率化が計れた」「働き方改革に繋がった」など、好評を博している。
スリープ・パフォーマンス カンパニー https://sleep-perform.com/
快眠サロン水月~mizuki~   https://mizuki-kaimin.com/
新聞コラム連載・各種メディアでのコラム執筆や、TV出演等も行っている。
*著書:『できる大人の9割がやっている 得する睡眠法』(宝島社)

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