気候不安ありますか?

スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。

「気候不安」とは、気候変動による生活や環境への影響や未来への不安から、不安感や無力感、怒りなどの感情を慢性的に抱いている状態のことをいいます。欧米の医学・科学雑誌や主要メディアにおいても多く取り上げられていますが、日本ではあまり認識されていないようです。そこで今回は、気候不安についてのお話です。

メンタルヘルスの主要な問題「気候不安」

気候変動が人々の精神的健康に与える悪影響に関心が向けられるようになってきていますが、一気に注目が集まるきっかけになったのは、アメリカ心理学会(APA)が17年に公表した「気候変動のメンタルヘルスへの影響」と題する報告書であると考えられます。報告書は「気候が徐々に長期にわたって変化すると、恐怖、怒り、無力感、徒労感などさまざまな感情が表面化する可能性がある」と指摘。こうした感情を指す用語としては「気候不安症」(未来への不安や地球の将来についてどうすることもできないという感情を慢性的に抱いている状態)、「ソラスタルジア」(「ノスタルジア」と違い、いまも同じ場所にいながら変化に嘆き、悲しむ状態)、「クライメート・グリーフ(気候悲嘆)」(気候変動の影響を目の当たりにしたときに喪失感、絶望、不安などを抱く状態)など様々なものがあるようです。

海外のメディアでの Climate Anxiety や Eco Anxietyという言葉は、日本語では「気候不安症」「エコ不安症」などと翻訳されます。

世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2024年の最重要パラダイムを網羅した「THE WORLD IN 2024」でも、「気候不安」がとりあげられています。(以下、『WIRED』から)

2024年には、気候不安がメンタルヘルス問題の主な要因のひとつになるだろう。その理由は明らかだ。世界各国は、産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えようとしてきたが、科学者たちは27年までにこれを超えてしまうとの見通しを示している。近年、わたしたちはカナダやギリシャの山火事、そして約3,300万人が住むパキスタンの地域を壊滅させた夏の洪水を目の当たりにしてきた。大気汚染や気温上昇の影響を受けた人々が精神的苦悩を経験する可能性が高いことは、複数の研究で示されている。
さらに悪いことに、気候変動という大災害に直面しているにもかかわらず、政治家たちは強いリーダーシップを発揮していない。ドバイで開催されたCOP28の議長を務めたのは石油・ガス会社の幹部だ。英国では、政府がグリーン・コミットメントを後退させている。

しかし幸いなことに、気候不安を感じる人が増えた結果、気候危機に真剣に取り組む道が開ける可能性もある。バース大学で気候不安について研究するキャロライン・ヒックマンは、気候不安に関連する心配や悲嘆、絶望、落胆の感情を病的なものと見なすべきではないと警告する。そもそも、この精神的苦痛の原因が外部的なものであることは明らかだからだ。
ヒックマンに言わせれば、これらの感情を経験している人々は、気候危機に対して非常に自然で合理的な反応を示している。そして彼女は、気候不安をよい方向に生かすことを提案する。つまり気候不安を、地球を守るための行動に人々を駆り立てる動機として活用するのだ。

気候不安に関する意識調査(日本国内版)

電通総研の定量調査『電通総研コンパス』の第9回は「気候不安」をテーマとし、気候変動が人びとの意識と行動にどのような影響を与えているかを考察しています。

調査は2022年10月に、日本在住の16~65歳、計5,000人を対象に実施され、2021年にバース大学のチームが中心となって10か国で実施された国際調査と同じ質問票を使用し、10か国との比較を行っていますが、ここでは日本国内版の一部をご紹介します。
気候不安に関する意識調査(日本国内版) | 電通総研 (dentsusoken.com)

私は気候変動が人びとや地球を脅かすことを心配している」かどうかを尋ねる質問に対し、「極度に心配している」もしくは「とても心配している」を選択した日本の回答者の割合は全体で22.8%。「ほどほどに」「少し」まで含めると、「心配している」人は全体で87.3%という結果です。男女別では、「心配している」人は男性83.9%、女性90.8%と、女性の方が約7ポイント高くなりました。年代別では、「心配している」割合は年代が上がるほど増える結果となりました。

気候変動に対する感情は、私の日常生活(食事、集中力、仕事、学業、睡眠、自然の中で過ごすこと、遊ぶこと、楽しむこと、恋愛のうち少なくとも一つ)にネガティブな影響を与えている」かどうか尋ねる質問に対し、「はい」と答えた割合は、男性が41.4%、女性が47.8%と、女性の方が高くなりました。
年代別で見ると、どの世代も4割以上が気候変動に対する感情からネガティブな影響を受けており、特に16-25歳は、46-55歳、56-65歳の年代と比べ有意に多く日常で影響を受けていることがわかります。

気候不安を引き起こす要因

地球の未来を考え危機感を持つことは大切な感情である一方で、気候不安は過度にメンタルヘルスに影響し、ウェルビーイングや健康を脅かす可能性があます。気候不安を引き起こす要因は次のようなことです。

気候変動の絶望的なニュース記事や視覚的映像
近年、山火事やハリケーン、災害の様子、絶滅する動植物などの自然災害や自然被害をメディアで頻繁に目にするようになっています。こういった気候変動に関する記事やニュースは時に、将来を悲観してしまう絶望的なストーリーで語られることが多く、そこから精神的なストレスにつながってしまうようです。

災害経験のトラウマ
実際に自然災害を経験した人は気候不安に陥りやすいとされています。
例えば、2005年に米国南東部を襲った「ハリケーン・カトリーナ」のあとで生存者に対して行われたサンプル調査では、6人に1人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の基準を満たしており、自殺及び自殺願望を持つ人の割合が倍増したことが判明しています。
米ウースター大学の心理学者のスーザン・クレイトンは報告書の中で「うつ病や不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物乱用、家庭内暴力などのすべてが、自然災害のあとで増加する傾向がある。自然災害が増えるにつれて、このような精神衛生への影響も増えると予想される」と指摘しています。

失われていく生活様式
世界中にはすでに気候変動の影響を直接的に受けている人々もいます。カナダのラブラドル地方に暮らすイヌイットの人々もその一例。彼らの土地では世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいると言われており、町に留まり遠出ができない時期が長期化しており、こうした期間には町での自殺や自殺未遂、自殺願望が増える傾向にあるという。

政府の対応への不安視
上記のように世界中で気候変動が地球を脅かしているにもかかわらず、政府の無行動に不信感を覚え、精神的ストレスを抱える若者も多いということです。
バース大学等の調査結果によると、各国政府の危機対応に関しては、「自分たちや将来の世代を裏切っている」と回答した人が58%、「対応策の影響についてうそをついている」と回答している人は64%と、批判的に捉えている若者が半数以上を占めているそうです。

人々が気候変動に対して何らかのアクションを起こすためには、人が気候変動について心配することが動機であり、必要です。しかし、人がそれに圧倒されて衰弱するとき、心配によって自分の人生を生きることができなくなると感じるときに大きな問題が生じる可能性があります。

以上、エゴレジ研究所から気候不安についてご紹介しました。東京大学大学院医学系研究科の橋爪真弘教授は、地球温暖化は健康の危機であるとの認識を持ち、「子どもや孫の世代のためにも、健康を中心にした気候変動対策を本気で考えなければなりません」と強調されています。気候変動への不安や危機感と向き合いながら、自身のメンタルヘルスを保つための方策を考えていかねばなりません。

エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。

あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/

<プロフィール>

代表 小野寺敦子/ 心理学博士

目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授
・・・・同校 心理学研究科大学院修士課程教授
・・・・同校 心理学研究科博士後期課程教授
臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問
NPO法人フレンズスクエア 代表理事

GM 畑 潮/心理学博士
GCDFキャリアカウンセラー
健康リズムカウンセラー

 

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