スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。 エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。 |
いま自分が何歳くらいだと感じていますか。あなたが感じている年齢は、バースデーケーキに立てられるろうそくの本数とは一致しない可能性が高いでしょう。中高年は自分の実年齢より若く感じる傾向があることや、女性は同年代の男性よりも自分を若く感じることが研究でわかっています。そこで今回は、そういう主観年齢の健康効果についてのお話です。
老化を決めるのは意識
モンペリエ大学のヤニック・ステファン博士は、合計1万7000人以上の中年・高齢者を追跡調査した3件の長期研究データを検証しています。
それによると、調査に参加した多くは、自分は実年齢より8歳若いと感じていました。一方、実年齢より年を取ったと感じている人の結果は深刻なものだったと。教育や人種、結婚歴といった要素を排除しても、主観年齢が実年齢より8~13歳上の人は、対象期間中の死亡リスクや病気による負荷が、通常の18~35%高かったと報告されています。
またイェール大学の心理学者ベッカ・レヴィらの研究グループは、人々が「年齢を重ねることをどう認識しているか」が、寿命の長さに非常に大きな影響を与えると結論づけました。自分の老化をより前向きに認識していた実験参加者は、年齢に肯定的な信念を持たなかった人より、平均で7年半も長く生きしたというのです。「性別」「社会的地位」「経済状況」「孤独感」「機能的健康」よりも大きな影響を与えたというのですから、驚くべき結果です。
また、この論文によれば、年齢の考え方が影響を与えるのは、寿命だけではありません。老化を前向きにとらえている人の方が「身体的および認知的なパフォーマンス」がよく、記憶力や歩行のスピードも良かったのです。さらには「重度の障害から回復する可能性」も高かったとのこと。つまり考え方を変えれば、老化が訪れにくくなるというわけです。
主観年齢と「主観的若返り」効果
自分が感じる年齢である「主観年齢」の若さは、健康状態が良好であることと相関しており、実年齢を超越した健康的な加齢を予測する「生物心理社会的マーカー」としての役割を果たすことが、研究で明らかになっています。
ベルリンのフンボルト大学の心理学者マルクス・ヴェットシュタインは「自分が若いと感じる人ほど健康であることがわかっています」と話し「そういう人は長期的にも健康でいられます」と。
心が若いと感じる高齢者は、長生きするだけでなく、生活満足度が高く、認知症リスクが低く、うつ症状が軽減され、将来的に健康でいられる可能性があるようです。
興味深いことに、人々が自分の年齢をどう感じるかは時代とともに変化しているのです。新たな研究によれば、現在の中高年は昔の中高年よりも若く感じているようです。
2023年4月に米心理学専門誌「サイコロジカル・サイエンス」で発表された研究では、慢性疾患や孤独、教育水準など、主観年齢に影響を与えうる他の要因を考慮しても、いまの成人は過去の同じ年代よりも若いと感じていることがわかりました。
ヴェットシュタインらはこの研究で、1996年から24年間にわたって40~85歳の国民1万4928人をサンプル調査した「ドイツ高齢化調査」のデータを分析しています。
参加者は平均して、実年齢よりも11.5%若く感じていました。
たとえば、60歳の人であれば50代前半ぐらいと感じているということです。さらに、生まれ年が遅いほど若く感じる傾向もあり、10年経つごとに主観年齢は2%程度若くなっていいたということです。
たとえば、1936年生まれの60歳は53歳、つまり約12%しか若く感じていませんが、20年後の1956年に生まれた60歳は50歳、つまり約17%若く感じていました。
それは年を重ねていっても、主観年齢は過去に生まれた同じ年代ほどには上がらなかったのです。
日本でも、大阪大学の佐藤眞一名誉教授を代表とする研究によると、30代の主観年齢は男性では実年齢より2、3歳下、女性では3、4歳下でした。その後の年代では性差はあまりなく、男女ともに40代は4、5歳下、50~60代は6歳下、70代は6、7歳下。上の世代になるほど、主観年齢と実年齢の差が開いていました。
一般的に人は実年齢より若いと感じているという研究結果は、幸福度の向上や健康増進、死亡率の低下に関連しているため、前向きにとらえることができます。
主観年齢と脳年齢
また2018年、チェ・ジンヨン教授をはじめとするソウル大学校と延世大学校の合同研究チームによって、主観年齢と脳年齢とが関連している可能性があるということが学術誌において発表されました。
この実験では59〜84歳の被験者68名の脳の内部をMRIで撮影し、脳内の「灰白質」の密度を計測。灰白質とは、脳の神経細胞が集中する神経組織のことです。加えて、主観年齢や健康に関する質問と記憶力のテストも行いました。
その結果、主観年齢が「実年齢よりも若い」と答えた人は、「同じくらい」「老けている」と答えた人よりも灰白質の密度が高かったそう。とくに主観年齢が若い、つまり気持ちが若い人たちの脳に特徴的だったのは、「下前頭回」と「上側頭回」の灰白質の質量が大きいということ。これらの部位は、認知機能や抑制機能、言語、発話、聴覚に関係があると考えられています。また、気持ちが若い人は健康状態も良好だったほか、記憶力テストでも高得点を獲得したそうです。
ネガティブな認識を防止するために
老化に対するネガティブな認識を防止するためにできることは?
さまざまな記事・論文から実行しやすそうなものをピックアップしてみました。
- ネガティブな年齢差別を書き出す
イェール大学の心理学者ベッカ・レヴィが勧める方法の一つは、年齢に対するネガティブな思いを作り出す原因をしっかり認識すること。
そのために1週間、老化に関するあらゆる描写を書き留めてみることを提案されています。友人同士の会話で「年取ったよな」と笑い合うのはもちろん、テレビなどで老化を茶化したり、心配したりする言動もチェックします。
こうした何気ない会話などから、私たちは自分なりの「年相応」を、年齢に対するマイナスイメージとともに作りだしてしまいます。過度にこうした風潮に感化されないためにも、何が自分に悪影響を与えているのかを可視化する必要があるそうです。 - 喪失だけではなく成長にも目を向ける
加齢とともに起きる喪失だけに目を向けがちです。老眼で見えにくくなったり、皺ができたり、寝不足に弱くなったり、どんどん能力を失っているような気になります。でも加齢は喪失だけではありません。物事に冷静に対処できるようになっているかもしれませんし、さまざまな経験からアドバイスの引き出しが増えているかもしれません。自分の成長、ポジティブな変化にも目を向けてみましょう。 - 好奇心を持ってチャレンジする
米バージニア大学のブライアン・ノセク氏は、「中高年の主観年齢が実年齢と比べてどれだけ若いかは、次に何をするかという、日常や人生に関わる重要な決定を左右するかもしれない」と話しています。「年だからできない」という思いが、自分を老けさせ、チャレンジ精神を奪っていきます。年齢の壁を超えていけるように挑戦してみましょう。「できない」というい込みが崩れることで、より若々しく動けるようになるでしょう。 - 体の管理をしっかりする
しっかりと睡眠を取り、健康的な食事をするといった身体管理をしっかりとしてみましょう。体への負荷が強いときほど、年齢を感じてしまうケースが多くなりがちです。若々しく生きるために、しっかりと自分を管理する大切さは、ベテランのアスリートの多くが口にすることです。自分もトップアスリートになったつもりで、しっかりと日々の生活を管理してみましょう。
以上、エゴレジ研究所から主観年齢の健康効果についてご紹介しました。どうやら、健康で幸せに生きるカギは“主観年齢”ということです。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 GCDFキャリアカウンセラー 健康リズムカウンセラー |
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