スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。 エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。 |
年の瀬も迫り、公私ともに気ぜわしくなる時期です。とはいえ、年末年始およびそれに伴う休暇は、日常のストレスを解消する絶好に機会になることは間違いありません。日本人は「忘年」「年忘れ」を「その年の苦労を忘れる」という意味に解釈しました。一年の嫌なことや苦しかったことを忘れて、新しい気持ちで新年を迎えようという趣旨です。そこで今回は、「忘れること」のメリットについてのお話です。
忘却力
嫌なことが記憶に残るとメンタルが不安定になりやすいものです。落ち込んでしまった気持ちを、いつまでも切り替えることが出来ないと、心身の不調を招きかねません。
嫌なことを忘れる力、すなわち忘却力と言うのも、脳にとってはなくてはならない切な能力なのです。そもそも、次から次に新しい事を記憶していく脳が、「容量オーバー」にならないのは、この忘却と言う大切な機能が適切に働いているからです。
ある記憶が忘れられ、消去されると言う事は、同時に脳内にそれだけの「空き」のスペースができたことを意味しています。つまり、不必要な記憶を消すことによって、新しい記憶を受け入れる余地が生まれるのです。
忘却は、思考の整理になるというのは、ベストセラー『思考の整理学』(ちくま文庫)で知られる外山滋比古氏です。忘却と記憶は、吸って吐く呼吸のように一対で、忘れるからこそ、新たな記憶ができるとされています。この考え方はとても納得できるもので、中高年になると、若いころに得た知識をずっと覚えていて、それが古くなっていることに気が付かないこともあります。でも、忘れることができるからこそ、新しいことを記憶することができる、知識の新陳代謝がなされるというのです。
「意図的に忘れる」ことがコツ
ミスや失敗などの嫌な事が起きてしまった場合、そのムードを長引かせないためにも「意図的に忘れる」こと事は大切です。
意図的に忘れることで、ネガティブな考え方に頭を支配させず、その後のパフォーマンスの低下を防ぐことができます。気持ちの切り替えがメンタルに大切なのはこのためです。
メンタルが強い人は自分に起きた出来事をすべて受け止めるのではなく、受け止めた上で忘れるものと忘れてはいけないものの取捨選択が上手な人です。
何でもかんでも受け入れては体の毒になりストレスが溜まってしまう。そうならないためにも、毒になるようなことは忘れる、益になるものは忘れないように意識していくことが大事です。
最初は意図的に何を忘れればいいのかよくわからないでしょうが、そのときはまずノートでもメモ帳でもなんでもいいので書き出すこと。文字にして書き出すことで、嫌な思い出そのものを客観的に見ることができ、思いと距離を置くことでより忘れやすくなります。書き付けたノートやメモをクチャクチャと丸めたり、ビリビリ破いて「捨て去る」のです。
嫌なことを意図的に忘れる力が身につくと、挫折や失敗があってもやる気や集中力が途中でガクンと落ちてしまう場面が減ります。嫌な事が起きてしまっても、そこで挫折して諦めてしまう人と、挫折を乗り越え進んでいき結果を出す人の違いはそこにあります。
「意図的に忘れる」力を発揮して、ネガティブな考えに支配されないようにメンタルをコントロールすることが大切になります。
忘れられる人=悩みの種を手放せる人
心理学では、「記憶」は『覚える・維持する・思い出す』の3ステップによって構成されています。この3つのステップのうちどれかにエラーが出ると「忘れる(思い出せない)」ということになります。
嫌な思い出というのはなかなか忘れられないもの、これは思い出自体が「一連の出来事」に「その時の感情」が結びついたまま記憶されてしまっているためです。「感情」に関する記憶は維持する能力との結びつきが強く忘れづらいため、「思い出すたび嫌な気持ちになる」ループに陥ってしまうのです。
これまで人類が厳しい環境で生き抜いてくるために、「避けなければならないこと」として恐怖や危機を感じた経験をより忘れにくくする能力を持ったからだという説もあります。
嫌な思い出を何度も反復するたびにストレスを重ね、逆にしっかりと覚えてしまう……
「忘れる能力が強い人」はこの「嫌な思い出を手放せる人」=【理不尽なストレスに対して耐性が強い】側面を持っていることにもつながります。
心の中にたまってしまったストレスから、励みになるものを抜き出して嫌なものを「忘れる」ことでまたストレスを受け止める余裕を確保する。いつもポジティブな方は、この【心の棚卸】がうまいのかもしれません。
「忘れる」ことのメリット
忘れることは「嫌な思い出を手放せること」と前述しましたが、これは「思い出(経験)」と「感情(苦手意識)」を切り離すことにも関連します。
意識的に「忘れる」という選択ができれば、以下のような「忘れる」ことのメリットを生かすことができるでしょう。
■苦手・嫌なものを忘れることで“ 克服力 ”を向上
仕事上 発表やプレゼンなど緊張するイベントは避けられないもの、以前に一度失敗したという記憶があればその緊張や恐怖感もひとしおです。
何度も緊張と失敗を繰り返すことで苦手意識が生まれ、実力を発揮できなくなってしまう。「忘れる」というのはこの【苦手意識】にも有効です。
「忘れる」ことで恐怖感や意識を分散させ、必要以上の緊張や前回の記憶を薄めることができれば普段通りの実力も発揮しやすくなるのです。
成功体験・無事に乗り換えた経験を積み重ねることによって、失敗体験を「自分はできる」という自信と「できた」という達成感を伴う経験で上書きすることができます。
■モヤモヤを切り離して「シフトチェンジ」
「忘れる(思い出せない)」といってもその状態は様々、完全に「思いだせない」だけでなく「この時間・期間だけ忘れる、置いておく」という機能もあります。
一時自分の感情やモヤモヤを切り離して集中する、仕事の間は辛い状況から離れて業務に集中するという時間を設けることは「ショックからの回復」や「つらいと感じる時間から離れて、心を休める」という役割もあります。
先の外山滋比古氏は『忘却の整理学』(筑摩書房)のなかで、こんなことも書いています。
「コンピューターは記憶の巨人である。(中略)完全に大量の情報を記憶し、それを操作、処理する能力をもっている。完全記憶を実現しているが、個性がない。忘却ということを知らないからである。記憶力だけなら人間はコンピューターにかなわないが、忘却と記憶のセットで考えれば、人間はコンピューターのできないことをなしとげる」
ということは、忘却という情報の選択は、その人らしさ、個性につながるということなのでしょう。忘却は、新しい記憶、新しい人生のため第一歩になりうるのです。
以上、エゴレジ研究所から「忘れること」のメリットついてご紹介しました。過去を振り返り自分を見つめなおすことも重要ですが、苦労や嫌な記憶に関しては翌年に引きずらない方がより自分のためになるでしょう。年忘れには、そのような効果が期待できるのです。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 GCDFキャリアカウンセラー 健康リズムカウンセラー |
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