スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。
🔴ストレス無害説
アメリカで成人30,000人を対象とした8年間にわたる追跡調査の結果、重度のストレスを感じていてもストレスが健康に良くないと信じていない人の死亡率は、非常に低かったのです。サイエンス・ヘルプで知られる健康心理学者ケリー・マクゴニガル氏は、ストレスが多いと死亡するリスクは確かに43%増加するけれども、それは「ストレスは健康に害があると思っている」人の場合で、そう思っていない人の死亡率はもっとも低いことを指摘しています。つまり、ストレスとは関係なく、ストレスが健康の害になると信じている人たちが、病気になるということです。これらの結果から、ケリー・マクゴニガル氏は、「科学的には。ストレスの捉え方次第でストレスに対する体の反応が変わる」と主張したのです。
日常的に緊張する場面では、
心臓がバクバクいう/嫌な汗をかく/◦呼吸が浅く速くなる
などがストレスを感じている状態です。ケリー・マクゴニガル氏は、「これは、体がピンチになっているから、新鮮な血液を早く、たくさん送りだそうと心臓が働いている」と捉えるそうです。
ストレス反応=身体が新しいことへ挑戦するための準備 という考えです。
ケリー・マクゴニガル氏の主張されているもう一つのストレスの良い点があります。それは、オキシトシンです。
🔴オキシトシン
オキシトシンとは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、このホルモンが分泌された時の体の効果は、
子宮の収縮/乳腺の収縮/体重の増加/傷の治療/栄養の蓄積
などです。ここ10年の研究の結果、
男女間の愛情/人間同士の信頼/スキンシップ/心の安らぎ
などに関連しているホルモンだと注目を浴びようになりました。
その効果は、
幸せな気分になる/癒される/社交的になる/人を信頼する/人間同士の交流を深めたくなる/安らぎを高める
なので、オキシトシンは、別名、幸せホルモン、抱擁(ハグ)ホルモンと呼ばれています。
ケリー・マクゴニガル氏の説明によれば、
ストレスを感じると、ストレスホルモンと言われるコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは適度な量であれば、体に緊張感を与えることで体外の危険から身を守ってくれたり、炎症を抑えたりする働きもあります。しかし、その量が多いと、免疫機能や自律神経の働きを低下させ、多くの病気にかかりやすくなってしまいます。なので、体の中でコルチゾールが出ているのを敏感に察知したら、コルチゾールの分泌を抑える働きを持つオキシトシンを分泌するような指示が出るのです。オキシトシンが出ることによって、癒されたり、他人を気遣うような心になったり、人を信頼するなどして、マイナスの気分を何とかプラスにしようと、体が勝手に動いてくれるわけです。
なかでも一番素晴らしいオキシトシンの役割は、心臓に対する作用です。心臓にもオキシトシンの受容体があり、オキシトシンがストレスでダメージを受けた心臓の細胞を再生します。オキシトシンというホルモンが、実は心臓強化の働きをするのです。
さらに、親しい人とのコミュニケーション、助け合いによってこのオキシトシンの分泌量が更に増え、身体の健康が促進される。つまり、ストレスを感じたときに他者に助けを求める、または困っている人を助けると、オキシトシンは分泌される。そして分泌されたオキシトシンが私達の身体の健康促進に繋がり、更にストレスから早く立ち直ることができる、とこういう仕組みです。
このシステムがあるので、「ストレスは、体にとって悪いものではない」とケリー・マクゴニガル氏は説明されています。「ストレスとは良いものだ」と信じれば、身体全体の作用が「ワクワク」状態になります。困難な状況に陥ったときは他者に助けを求めれば、そして困っている人には手を差し伸べることで、あなたの身体は反応し自然治癒反応が起こるのです。
🔴ストレス・パラドックス
2005年から2006年にかけて、調査会社ギャラップが実施した世論調査で、世界121カ国、12万5000人に対して、「昨日、多くのストレスを感じましたか?」という問いかけをしました。「はい」と答えた人のパーセンテージから、国別に「ストレス指標」を算出したところ、驚くべき結果が出ました。
ストレス指標が高ければ高いほど、国も豊かだという結果だったのです。「昨日、多くのストレスを感じた」と答えた人が多い国ほど、平均寿命やGDP(国内総生産)が高かった。「ストレス指標が高いほど、国民の幸福感や満足度も比例して高い」ということも、この調査結果は示していました。ストレスを感じる人が多いことは、「健康や仕事、生活水準やコミュニティーに満足している」人が多いことを意味していたのです。
調査は、さらに個人のレベルでの幸福とストレスの関係について調べていました。その結果、興味深いパターンが見られました。ストレスを多く感じた日には、怒りや憂鬱(気分の落ち込み)、悲しみ、不安を感じやすくなっていました。しかし同時に、ストレスを多く感じることは、喜びや愛、笑いを多く感じることとも、関係していたのです。
「ストレス・パラドックス」とは、「ストレスの多さは悩みと幸福感の両方に関わっている」ということです。
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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。
小野寺敦子
エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。
畑 潮
エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー
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