ストレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。
新型コロナウィルス問題により、在宅勤務やテレワークなど今までとは異なる仕事の形態が導入され、生活全般も変化しました。ここへきて、通常勤務に戻している企業もあるようです。そんな在宅勤務、テレワーク開けには睡眠のリズムが狂う「時差ボケ」リスクが潜んでいます。
今回は、仕事のスタイルが変化したことで気を付けたい「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」についてご紹介します。
🔴社会的時差ボケとは?
「ソーシャル・ジェットラグ:社会的時差ボケ」は、2006年にティル・ローネベルグ博士が提唱した概念です。人には睡眠をはじめ生理状態の1日のリズムをつかさどる「体内時計」が備わっていますが、これと社会生活上の時間のミスマッチが起きることや、それに伴う心身の不調のことを「社会的時差ボケ」「社会的ジェットラグ」と呼びます。
体内時計には個人差がありますが、これに対して社会のタイムスケジュールは画一的で、多くの人は仕事や学校など社会に合わせて生活しています。そのため平日には睡眠時間が短縮しがちで、平日の睡眠負債を解消しようとして、週末の朝に朝寝坊(いわゆる寝だめ)をします。社会的時差ボケは、言い換えれば“平日と休日の就寝・起床リズムのズレ”なのです。「社会的時差ボケ」は、睡眠時間帯の中央値を出し、その差を指標にします。
※Curr Biol. 2012 May 22;22(10): 939-43.supple Figure S1から改変
社会的時差ボケはまさに、現代型の睡眠の問題を引き起こす典型的な要因といえるでしょう。朝寝坊した休日には、太陽の光の刺激を受けるタイミングが遅れてしまい、私たちの体内時計は勘違いしてしまいます。このような“時差”によってメラトニンをはじめとした体内リズムも乱れ、日中眠くなったり、眠りたい時間に眠れなくなってしまうのです。休日の2日間朝寝坊しただけで、体内時計が30~45分遅れてしまうことが、複数の試験で確認されています。しかも、1度ずれてしまったリズムをもとに戻すのは容易なことではありません。週明けの前半まで眠気や日中の疲労感を引きずってしまうという報告もあります。
【大塚製薬の調査結果】
※目覚め方改革プロジェクト〜睡眠や体内リズム研究の専門家による情報サイト〜から引用
大塚製薬の調査では、ソーシャル・ジェットラグの時間が長い人ほど、平日・休日を問わず、「起床時に体の疲れが取れない」「起床時の目覚めが悪い」など、睡眠に起因するさまざまな不調・課題感を抱えていることも明らかにされました。健康な男女16人を対象に、金曜・土曜日に寝られるだけ寝た場合と、いつも通りに寝た場合を比較すると、わずか2日の休日朝寝坊が体内時計を遅らせてしまうことがわかりました(Taylor, Wright, & Lack, 2008)。また、翌週の眠気度と疲労度においても、寝られるだけ寝た場合の方が高くなる(=悪化する)ことが明らかになっています。
【大塚製薬の調査結果】
※目覚め方改革プロジェクト〜睡眠や体内リズム研究の専門家による情報サイト〜から引用
睡眠に問題がない男女16人(平均25.7歳)が、金曜日の夜と土曜日の夜に寝ていられるだけ寝て「休日朝寝坊」の状態にした場合といつも通り寝た場合とで、翌週の眠気度と疲労度を比較した結果、どちらの指標も「休日朝寝坊」した場合の方が強く、特に月曜日と火曜日の数値が高い上、水〜木曜日まで影響してしまうことがわかりました(Sleep and Biological Rhythms 2008;6:172–9.)。
社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)は、生活習慣病や精神状態への影響も指摘されています。ニュージーランドでの約1000人を対象にした2015年の調査では、肥満やメタボリックシンドロームの数値が社会的ジェットラグが大きい人ほど有意に高い結果になっています。またブラジルでの4000人を対象にした調査では、社会的時差が2時間を超えると、抑うつ症状が有意に強くなることも判明しています。
(イラスト 三島由美子)
🔴社会的時差ボケになりやすい夜型の人
午前中に能率が上がる人を「朝型人間」、夜に調子が上がる人を「夜型人間」と呼びますが、これはその人の体内時計のタイプの違いによるものです。国立精神・神経医療研究センターなどの調査によると、日本の成人の10%が強い夜型、20%が夜型で、30%が朝型、40%が中間型という結果が示されています。この中で社会的時差ボケの影響を特に受けやすいのが「夜型の人」です。遅くまで起きていることが多い半面、現実生活では出勤や登校、家事などのため早朝に起きる必要があるため、朝型や中間型に比べて睡眠が十分にとれず、いわゆる「睡眠負債」をため込みやすくなるようです。
睡眠を研究している明治薬科大学の駒田陽子准教授らが行った社会的時差ボケの実態調査では、約3700人の回答者の社会的時差ボケは、平均55分、1時間以上の人が40%でした。年齢が若いほど社会的ジェットラグは大きく、20代では61%、30代では53%が1時間以上でした。
🔴社会的時差ボケの改善策
先の調査を行った駒田准教授は3つの改善策を提唱され、「つらく、苦しくならない範囲で、社会生活のリズムに合わせていくことが大切です」とアドバイスされています。
1.まず「平日の睡眠不足を週末に取り戻すのではなく、平日に数十分ずつ早寝をすること」。例えば、週末に2~3時間遅く起床する人は、平日の5日間は毎日20~30分ずつ早寝をするという方法です。
※時事メディカル 駒田准教授の説明資料を引用
2.それが難しい場合には、休日の朝も平日と同じ時間に起きて、日中に昼寝をすることを提案。「夜の睡眠に影響を与えない範囲で、例えば午後3時までに1~2時間程度が目安」です。
3.また、日中の屋外活動がお勧め。「太陽光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜に眠気をもたらすメラトニンというホルモンの分泌が促されます」。
🔴睡眠リズムを整える
駒田陽子准教授らが勧める睡眠リズムを整えるのに役立つこと
✔平日も休日も起床時間を変えない
✔睡眠時間を確保するため、起床時間から逆算して就寝時時刻を決める
✔起きたら朝日を浴びて体内時計をリセットする
✔バランスの良い食事をし、朝食を食べる(朝食も体内時計のリセットになります)
✔適度な運動をする
✔寝酒や深酒はしない(カフェインもNG)
✔仕事や人間関係のストレスをためない
✔昼食後に10~20分昼寝をする
✔夜はゆったり湯船につかり、リラックス・リフレッシュする
ほかには、寝る前の1時間はテレビやパソコン、スマートフォンを観ないこと!使用されている「ブルーライトが覚醒作用を持つ」ので、寝つきが悪くなります。寝る前は映像ではなく、音楽を聴くことが良いでしょう。また、肌の手入れをする、アロマをたくなど、好みのリラックス法で心身をお休みモードに導くことも大切です。
いかがでしたか?人によって対応は違うかもしれませんが、今できることを肯定的に受けとめ、柔軟な発想で実践する良い機会にしてみませんか?「睡眠と生活リズムのコツ」をうまく採り入れたセルフケアで、この不安定な状況を乗り切っていきましょう。エゴレジ力の高い人は、ストレスからの回復が早く、前向きな行動をとることが出来ることが明らかにされています。このコロナ禍の状況下にあっても、いえ、こんな状況の今だからこそ、エゴレジ力を発揮して不安定な状況を乗り切っていきましょう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。
小野寺敦子
エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。
畑 潮
エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー
この記事へのコメントはありません。