スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりします。その理由もメカニズムもさまざまです。 「エゴ・レジリエンス」とは、日々のストレスをうまく調整して元気な自分を維持する力、誰もが持っているパーソナリティの弾力的な力です。「エゴ・レジリエンス」を高めることで自我のバランスをとる力が強化され、メゲても凹んでも、すぐに立ち直ることができるのです。 エゴレジ研究所の小野寺と畑が、「エゴ・レジリエンス」関連のお役立ち情報を提供し、あなたの元気をサポートします。 |
オックスフォード大学出版局が選ぶ毎年恒例の「今年の言葉」。いわば日本の「流行語大賞」の英語版ですが、2024年は「brain rot」に決定したと発表されました。「brain rot」は2007年頃からオンラインで使用され始め、2023年以降急速に普及したインターネットスラングなのだそうです。そこで今回は、その「brain rot」についてのお話です。
「brain rot」とは?
「brain rot(ブレイン・ロット)」は、”brain”(脳)と”rot”(腐敗)を組み合わせた表現で、直訳すると「脳腐れ」「脳の腐敗」という意味。過度のインターネット使用による認知機能への悪影響を表現しており、
「とりわけ取るに足らないオンラインコンテンツの過剰消費の結果として生じるとされる精神的または知的状態の悪化」と定義されています。
デジタルな世界にハマりすぎているがゆえに、リアルな世界に適応できなくなった人を揶揄するネットスラングです。転じて、インターネットを使っている時間が極端に長く、そのせいで心身の状態が弱っている人を指す言葉としても使われています。
「今年の言葉」は、6つの言葉を最終候補として提示し、そのなかから3万7000人以上の投票によって受賞語「brain rot」が選ばれました。オックスフォード大学出版局のキャスパー・グラスウォール代表は、次のように述べています。
『brain rotという言葉は、バーチャルライフの危険性と、私たちが自由時間をどのように使っているかという問題を提起しています。人間とテクノロジーの関係をめぐる文化的議論が進むべき次の章に入ったように感じます。多くの投票者がこの言葉を受け入れ、今年の言葉として支持したことは驚きではありません』
「brain rot」は医学的な症状ではありません。もちろん、脳が腐っているわけでもありません。しかしながら、Newport Instituteによれば、インターネットの過剰な使用は、人によっては苛立ち、不安、焦燥感などにとらわれやすくすることがあると指摘しています。逆に、無気力になったり、思考力の低下が認められることもあるようです。
脳腐れとは何ですか?それはあなたにどのような影響を与えますか? |ニューポート研究所のリソース
brain rotの特徴
特徴的な症状として、日常会話でもTikTokの音声やミーム、インターネットスラングを頻繁に引用してしまう傾向が挙げられます。WikiHowによれば、brain rotが疑われる人の特徴としては、以下のような要素が挙げられるそうです。
✓SNSなどを通したインターネット上での交流が主な社会活動になっている。あるいはそのせいで実社会への適応が不十分となっている
✓語彙が主にSNS上で多用されるネットミーム(インターネットを通じて拡散される模倣的な言動)やネットスラングによって構成されている
✓集中力が散漫
✓批判的思考が苦手
✓フェイクニュースや陰謀論を信じやすい
上記の特徴をもつ人は、SNSをあまり使わない人との意思疎通が難しいだけでなく、世代間コミュニケーションにも疎い傾向があります。また、他者への共感力が欠如している場合もあります。このような傾向があるため、職場で問題になるケースもあるとRedbrickでは指摘しています。
TikTokの「脳の腐敗」:TikTokがZ世代の話し方をどのように変えているか |レッドブリックライフ&スタイル
さらに、「場の空気を読み、言語的に適応する能力がZ世代の若者から失われつつある」とも憂慮されており、正にいま社会問題になりつつあるのです。
brain rotはなぜ起こる?
インターネットを使っている時間が極端に長いと、なぜbrain rotという言葉に象徴されるような心身の変化が起こるのでしょうか。
これに関しては、スマホなどのデジタル端末が脳に与える影響を説いた名著『スマホ脳』(新潮新書、2020)からヒントを得ることができます。
著述家で精神科医でもあるアンデシュ・ハンセン氏によれば、人間の脳はそもそもデジタル社会に適応できていないのだそうです。
ここ数十年ほどで私たちのライフスタイルは急速に変化し、これまで人類が体験したことのない類のストレスにさらされるようになりました。絶えず怒涛のような情報の波に飲み込まれている私たちは、常にストレスにさらされています。そして、このような状況下では、脳は過覚醒状態になりがちです。
脳が過覚醒な状態にいる私たちは、「闘争か、逃走か」の選択肢しか見えなくなり、周囲に敵意を抱いたり、イライラしたり、不安に駆られたりすることが多くなります。しかし、長らくこのような臨戦体制に入っていると、やがてエネルギーが尽きてバーンアウトしてしまい、今度は逆に落ちこんだり、引きこもったりしてしまうのです。
さらに、スマホアプリ・ゲーム・SNSなどは、満足感や快楽を与えてくれるドーパミンを放出させるように巧妙に設計されており、脳の報酬システムを刺激し続けます。そのために、ストレスを感じていたり、疲れていたりするのにも関わらず、私たちはデジタルデバイスを使い続けてしまうのです。
オンライン脳
同様に、東北大学の川島隆太教授は、オンラインは「脳の発達不全」「集中力低下」「学力低下」など脳へのダメージを招くと警鐘を鳴らしています。
※『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)。
川島教授は、「スマホ・タブレット・パソコンなどのデジタル機器を、オンラインで長時間使いすぎることによって、脳にダメージが蓄積され、脳本来のパフォーマンスを発揮できなくなった状態」を「オンライン脳」と呼んでいます。(以下、川島教授)
オンラインコミュニケーションでは、「脳がほとんど使われない」「ボーッとしているのと同じ」「脳の活動を抑制する」「心と心がつながらない」「共感を生んで協調関係を築くことができない」……、「対面」と「オンライン」のコミュニケーションを比較する私の研究では、こんな研究結果が次々と出ているのです。オンライン、スマホなどのデジタル機器の使いすぎは、脳の活動を抑制し、自身の能力を下げてしまいます。
また、私の研究では他に「相手の気持ちを思いやりながら行動する」側面にも注目しています。対面でお互い顔を見ながらよいコミュニケーションがとれた場合には、お互いの脳活動が「同期する」という現象が起きます。
ところが、オンラインでは脳が「同期しない」という実験結果が出たのです。
これは、重要なことを示しています。脳活動が同期しないことは、脳にとっては、「オンラインでは、コミュニケーションになっていない」のです。オンラインコミュニケーションでは最低限の情報伝達はできても、「感情を共感する」までには至っていない、ということです。私は、オンラインが拡大すればするほど孤立化が進んでしまう状況が、企業でも教育現場でも目立ってくることを恐れているのです。
対処法は「運動・睡眠・デジタルデトックス」
では、brain rotの症状に陥らないためには、どうすればいいのでしょうか。
まずは自分のスマホ依存度を再確認してみましょう。自分がどれぐらいデジタルの世界に依存しているかを意識するだけで、自分が無意識のうちにとっていた行動を制限するという新たな選択肢が見えてくるはずです。先の『スマホ脳』のハンセン医師によれば、ストレスと上手く付き合う方法として「身体を動かすこと」を挙げています。また、睡眠の量のみならず質を上げることも、脳を回復へと導きます。もちろん、スマホを思い切って遠くに置いて、物理的な距離を取ってみるのもいいでしょう。
以上、エゴレジ研究所から「brain rot」についてご紹介しました。brain rotは決して一部のTikTokユーザーに限った話ではありません。大人は平均して1日のうちおよそ4時間をスマホに費やしているそうです。さらにそれ以上の時間を会社や自宅のPCの前で過ごしている方も多いのではないでしょうか。あなたのスクリーンタイムは、1日何時間でしょうか。もし仕事日の大半をパソコンやスマホと睨めっこしながら過ごしているのなら、brain rotは決して対岸の火事ではありません。
エゴレジ研究所は,生涯発達心理学,パーソナリティ心理学,ポジティブ心理学の領域からの調査研究の成果を活かし,「エゴ・レジリエンス」をキー・コンセプトとして,いきいきと人生を楽しむことができる社会の実現に貢献することを目指しています。
あなたの元気のアドバイザー「エゴレジ研究所」
https://egoresilabo.com/
<プロフィール>
代表 小野寺敦子/ 心理学博士
目白大学 人間学部心理カウンセリング学科教授 |
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GM 畑 潮/心理学博士 GCDFキャリアカウンセラー 健康リズムカウンセラー |
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