ストレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。
「ため息をつくと幸せが逃げる」って言ったり、耳にしたりすることはありませんか?確かに、一般的には、ため息にマイナスのイメージを抱いている人が多いかもしれません。しかし、最近の研究では心理的にも体の機能の面からも、ため息はとても役に立つものだということが解っています。「幸せが逃げる」どころか、むしろ「体にいいもの」なのだそうです。今回は「ため息」のお話です。
🔴ため息でモチベーション向上?!
オセロ大学心理学科のカール・ハルヴァー・テイゲン教授は,ため息の場面を観察し,ため息が新たな行動へ転じるための「区切り」となると指摘しています。これを受けて、関西大学の研究グループはそれを実験的に裏付け,ため息によってモチベーションが向上することを明らかにしました。
意識的にため息をつくように指示された人々は、通常呼吸の人々より積極的に、難しいパズルの問題や単調な課題を続けることができたそうです。この結果から、ため息には仕事に対するモチベーションを上げ、意識的に行うことでリフレッシュ効果があると推測されています。
🔴ため息の前と後
一方で医学的な面から「ため息は、バランスが崩れた自律神経の働きを回復させようとする、体の作用。いわば、機能回復のためのリカバリーショットといえます」と指摘されているのは順天堂大学医学部教授で、自律神経の働きを研究する小林弘幸先生です。
小林先生によると、ため息がふと出るのは、心配事や悩みを抱えているとき。そんなときの体は、胸やお腹の筋肉が緊張して硬くなり、呼吸が浅くなっています。すると、血液の中の酸素が不足気味になります。それを補うため、体は交感神経を働かせて血管を収縮させるのです。血圧を上げ、全身への酸素供給を維持しようとするわけです。
「交感神経」は自律神経の一種。血圧や心拍数を高めて体を活性化する作用を持ち、一方で体をリラックスさせるのは「副交感神経」で両者はいわば、アクセルとブレーキの関係です。自律神経のバランスを保つのは、健康の基本。でも、心配事を抱えた人の自律神経は、どうしても交感神経優位に偏りがちです。「ため息は、この偏りを解消します。息を『ふーっ』と長く吐くことで、浅くなった呼吸が深くなり、副交感神経がしっかりと働くのです。
ため息が出る前と後の体の状態
通常の生活サイクルの中で、交感神経と副交感神経は、一方が強まると他方が収まるといった具合に、シーソーのようにバランスをとりながら働いています。体はストレスを感じると、交感神経を強く働かせます。いったん優位になった交感神経は、放っておくと2時間は元に戻らないそうです。「夜遅くまで残業すると、横になってもなかなか寝付けないのは、交感神経の優位が尾を引くから」と小林先生はおっしゃっています。
大事なのは、緊張と弛緩(しかん)の切り替え。ため息は、交感神経の優位が長期化する前にリセットをしてくれるわけです。
緊張の緩和・ストレス発散・血行促進・自律神経のバランス調整など、ため息をつくことによって呼吸が深くなった結果、体の精神面・機能面においてメリットが多くあります。ストレスや緊張をほぐすために、ため息をつくことは、体の不調に対する防衛反応ということでしょう。
🔴本当に疲れきったらため息も出ない!
自律神経のトラブルには交感神経が優位になる「アンバランス型」のほかに「トータルパワー不足型」というタイプがあると言われています。「トータルパワー不足型」は交感神経・副交感神経、両方の数値が落ち込んでいるタイプです。体が疲れ切って自律神経の働きが全体的に低下している状態で、交感神経優位の状態からリカバリーする調節も機能しない状態になっている場合です。
これは、言ってみればアクセルもブレーキも動かない状態。体が疲れきって、自律神経の働きが全体的に低下しているのです。交感神経優位の状態からのリカバリー的な調節も、まともに機能しないのでアンバランス型よりさらに深刻といえます。そんな状況になると、ため息をつきたいことに、自分で気づかないかもしれません。だから「ため息が出ているうちはまだいいと思って、バランスの改善に取り組んでください」と小林先生はアドバイスされています。
🔴ため息にも、コツがある!
ため息をつくときは、長く吐ききるのが効果的だそうです。ゆっくり深く吐き出すと、緊張が解消され血液の循環がよくなります。意識しすぎるとストレスになるので、1日に2~3分行う程度から始めてみましょう。目安としては、吐く時間を吸う時間の2倍にすること。3秒吸ったら6秒かけて吐くといった具合です。プレッシャーを強く感じたり、不安になったりしたらすぐに実行してみましょう。
いかがですか?ため息には、①副交感神経を優位にし、リラックス効果があり、②ネガティブな感情を低下させ、前向きに気持ちを切り替える手助けをするようです。自己治癒力のひとつとして備わっているため息を無理に抑える必要はありません。ネガティブな思い込みを捨てて、自律神経のコントロールや身体の免疫力を保つために、ため息を有効活用してみませんか。きっと、エゴレジ力もアップします。
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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。
小野寺敦子
エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。
畑 潮
エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー
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