小野寺敦子
エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。
畑 潮
エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー
エゴレジと幸せの習慣
スレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。
🔴健康診断の面白い結果
幸福研究の第一人者で、「幸せ博士」との異名をとる、イリノイ大学心理学部名誉教授でギャラップ社シニア・サイエンティストのエド・ディーナー博士は、健康診断の問診に「あなたはどのくらい幸せですか?」という新しい質問項目を加えたらどうかと提唱しています。
その根拠は、下の各質問に「はい」と答えたとき、どのくらい寿命に差が出るかを調べた結果に示されています。
■1日に(20)本タバコを吸いますか。 | -3年 |
■ちゃんと運動はしていますか。 | +3年 |
■お酒はたしなむ程度にしていますか。 | +2年 |
■あなた、お酒の飲みすぎですね。 | -7年 |
■あなたは幸せですか。 | +9.4年 |
Ed Diener, Micaela Y. Chan “Happy People Live Longer: Subjective Well-Being Contributes to Health and Longevity” Applied Psychology: Health and Wellbeing (2011)
ディーナー博士は、「幸福感が強いと9.4年も長生きにつながる」という数字を、人間や動物を対象とした160本以上の調査研究の分析から導き出したのです。
個々の研究では、人生に対する幸福感や満足感、ポジティブ感情(喜びや感謝など)とネガティブ感情(悲しみやイライラなど)の有無、楽観的な考え方の有無などが質問項目となっています。そして、どの研究からも、人間の健康と寿命は、日々どのような気分で過ごすかで決定されることが判明したのです。同時に、抑うつや不安感を抱えていたり、日々の活動に楽しみがなかったり、悲観的だったりすると、病気にかかる危険性や短命となる可能性も高いことが証明されています。
🔴習慣化が幸福感を高める
『幸福優位 7つの法則』の著者ショーン・エイカー氏は、企業コンサルタントとして世界各国を講演や研修をして回る中で得た興味深い体験談を交えながら、ポジティブ心理学の7つの発見について分かりやすく紹介しています。
例えば、「法則1:ハピネス・アドバンテージ=幸福優位性」(幸福感は人間の脳と組織に競争優位をもたらすという原則)では、幸福感を高めることの利点と重要性について、「幸せが先か、成功が先か」として、先のディーナー博士による研究結果などに言及しながら、収入面でも健康面でもまずは幸福感ありきで状況が好転する、と説いています。つまり、「成功するから幸福」なのではなく「幸福だから成功する」というわけです。
幸せになることは、適度な食事や運動を心がけることと同様、大切な日々の健康管理の一環です。職場でも家庭でも、適度にポジティブな状態を保つことは、そのまま自分をいたわることにも繋がります。そのためには幸福感が高まる取り組みを日常生活の中で習慣化してしまえば最も効率がよい、と説いています。
🔴20秒ルール
そこで、参考になるのが「法則6:20秒ルール」(変化へのバリアを最小化して悪い習慣をよい習慣に変える方法)です。エイカー氏は「人間は単なる習慣のかたまり」という故ウィリアム・ジェームズ博士の言葉を引用しながら、20秒程度のちょっとした手間をかけることで生活習慣を大きく改善することの有効性を説明しています。
このルールは、望ましい行動を習慣にするための障壁を取り払う工夫で、元の悪い習慣に戻ることを防ぎながら、自分のためになることを行うことです。誰もみな、自分が何をすべきか知ってはいるが、それを行動に移さない。誰もがみな、テレビばかり見るべきではないし、もっと運動すべきだとわかっている。しかし、そうわかっていても、仕事から疲れて帰ってきたとき、行動につなげるのは難しい。
エイカー氏は、人生を変えるためには「身につけたいと思う習慣をするために必要なエネルギーの量」を減らし(ステップを減らす)、「辞めたいと思う習慣をするために必要なエネルギーの量」を増やす(ステップを増やす)ことを提案しています。
🔴増やしたい習慣⇒その習慣を身につけるのにかかる手間を20秒だけ減らす
🔴減らしたい習慣⇒その習慣を身につけるのにかかる手間を20秒だけ増やす
例えば、ギターの練習をしやすくしようと思った彼は、ギターをケースに入れて玄関のクローゼットにしまっておく代わりに、スタンドに立て、リビングの自分のソファの近くに置くことにした。テレビを見る習慣をやめるためには、リモコンの電池を抜き、取りに行くのに20秒かそれ以上かかる場所にしまった。その結果、夜に家に帰ってテレビのリモコンを使おうとしたときには、電池を取りに行くのが面倒くさいと思うようになり。ギターは手の届く場所にあるので、ギターの練習をするようになったということです。
行動経済学のダン・アリエリーの「人間の意思力なんて当てにならない。だから、自動的に目標を達成できるシステムを作ろう!」という主張に近いものです。なにか続けたいことがあったら、まずは「20秒だけ手間を減らせないか?」と考えてみる「20秒ルール」は、オススメです。
ポジティブ心理学の目的は、最先端の学術的知識を追求し、その知識を現実の世界へと応用することですが、知識(knowノウ)をどのように実行に移す(howハウ)ことができるのか。ポジティブ心理学は、多岐にわたる「ノウハウ」について、最新の科学的知見に基づき実に多くのことを教えてくれる学問分野なのです。
「自分にとってよいことだという知識があることと、実行することは別物」なのです。まずは、「とにかく実行してみる」ことではないでしょうか?
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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。
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