《健康》エゴレジと変化

ストレスフルな社会生活に果敢に立ち向かっている現代人は誰もがメゲたり、凹んだりするものです。その理由もメカニズムもさまざまです。でも、誰もが持っている力「エゴレジ力」を高めることで、それぞれの状況に応じて自我のバランスをとる力を強化し、メゲたり凹んだりしても、すぐに立ち直る力を養うことが可能なのです。
エゴレジ研究所の小野寺と畑が、お手伝いします。

🔴外的変化と内的変化

現代社会は、情報化、グローバル化が進み、常に変化しています。企業においても、それに伴って事業の多様化、組織統合など、多くの変化が起こっています。望むと望まざるにかかわらず、誰もが新しい環境を経験することになります。変化を受け入れ、適応していくことが、今の私たちには求められていると言えます。

変化には、外的変化と内的変化があります。外的変化とは、現実の出来事が変わることを指し、一方、内的変化とは、自分自身の内面(こころ)が変化することを指します。

米国の心理学者ウィリアム・ブリッジズの「トランジション理論」では、トランジション(変化)には、

①何かが終わる段階
②ニュートラルゾーンの段階
③何かが始まる段階

があるとしています。

🔴変化の3段階

①の「何かが終わる段階」では、それまでの環境での関係や場所を失います。新しいことを始めるためには古いことを終わらせなければならず、喪失の時期と言えます。

本人が望んだことそうでないこと、能動的受動的なことに関わらず、喪失するということは心理的な痛みを伴います。現実が受け入れられないために現実を見ようとしない・抵抗する、無感覚、過去にしがみつく、怒り・罪悪感・恐怖心などが生じ、ショック状態に陥ります。そのため物事をうまく終わらせることがより容易でなくなります。前の環境を懐かしみ、前の良いところばかり話したり、新しい環境になかなか馴染めなかったり、周囲にイライラ感をぶつけたりという行動に表れたりもします。これらの困難に直面しながらも、しっかり終わらせることが大切です。

①の段階を過ぎると、②の「ニュートラルゾーン(中立)の段階」へと進み、変わりたくないのに変わっていくとか、変わりたいのか変わりたくないのかという両極端な不安定な状態を行ったり来たりする時期となります。変化を受け入れる準備段階である混乱(モラトリアム)状態とも言え、不安感や無力感の増大、自分を見失う、自身の存在価値の否定、あきらめ、やる気を失うといった状態となります。

憂うつな気分になったり、身体症状に表れたり、周囲の意見を聞かない、孤立するといったこともあります。つらい時期ではありますが、この時期を経ることで③の開始期へと進み、変化を受け入れることができるようになるのです。

ニュートラルゾーンを十分に体験することが、「何かが始まる時」への準備につながります。この時期を乗り越えるためには、一人の時間、静かな場所、言語(記録)化、休息などを意識的に確保し、あらためて自分と向き合うことが大切です。

③の「何かが始まる段階」は、エネルギーが満ち、新しいことへチャレンジしたり、新しい人間関係を構築したりするなど、積極的な行動が見られるようになります。一方で、安全で慣れ親しんだ現状が壊れてしまう不安から、内的な抵抗も生じやすい時期でもあります。抵抗を前提に適切に対応することと、焦らないことが大切です。

このように、外的変化が起きる(外的変化を起こす)と、私たちの心では内的変化が起こります。そして、この内的変化のプロセスを踏むことで外的変化を受け入れることができるようになるのです。
②の段階ここさえ乗り越えれば、新しい可能性への扉が開いて、あなたの潜在的なパフォーマンスは向上していくわけです。
今まで経験のないことへチャレンジするのは、エネルギーを使いますが、その状況の中でこそ、バランスを調整して適応する力=エゴレジが働いてくれます。

🔴現状維持バイアスを知る

変化のとき、多少のメリットがあることがわかったとしても、多くの場合で現状のままでいようとする“現状維持バイアス(status quo bias)”の心理が働きます。

私たちは無意識のうちに何もしなくて良い理由を探しているのだといいます。これまでの社会生活の中においても、変化を起こすより、無難にしていることの方が安全だったという経験もあるはずです。しかし、私たちは時にこの心理によって非合理的な選択をしてしまうことがあります。これを「現状維持バイアス」と言います。

私たちは誰もが現状維持バイアスというプログラムを持っていて、無意識的に発動しているということを認識しておくことが必要です。

🔴感度というスキル

たいていの場合、変化は徐々にやってきて、気がつけば大きく変化しているものです。かつては普通ではなかったのに、もはや普通になっていることは、いくつでも見つかります。たとえば手のひらサイズの検索機能を持つスマートフォンのような存在は、固定電話主流の時代には想像の世界でしたでしょう。技術革新による利便性、簡便性で変化した機器は、身の回りに数多く見つかります。以前は普通ではなかったことが、今や普通になっている。そうした変化を、あたりまえ度の変化と呼ぶ人もいます。

いわゆる「茹でガエル」の理論のように、変化に対応できない人は徐々に変化する周りの状況に気づけず茹で上がってしまう、つまり手を打つには遅すぎる状況に陥ってしまうわけです。ですから、起こりうる変化を複数想定しながら、変化に対応する力を蓄えていくことも大切です。自然学者のダーウィンが「強いものが生き残るのではない。また優秀な種が生き残るわけでもない。生き残るのは、変化に対応するものだけだ」と述べたことは、現代社会にも当てはまるでしょう。

変化に対応するために必要なスキル感度です。難しく特別なことを考える必要はありません。仕事直結の情報だけでなく、読書、映画鑑賞などプライベートでの気づきも「感度」に影響を与えます。四六時中そのことを考えるということではなく、何か小さなことに目を向けたり、好奇心や興味をもって掘り下げてみたりするることが一歩目になるでしょう。先入観で物事を見ないことが重要になります。今日は昨日と同じ状況が続いている、という前提を持たずに、常に初見であるかのように物事を見ることができる人は、小さな差異にも気づくことができ、それに対応していくことができるのです。

新年度が始まるこの時季は、桜の開花前線が北上し、温かな気候となり、なんとなく心機一転して頑張っていこうと思える時期です。
エゴレジを発揮して、変化に対応できる感度を磨きましょう。

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次回はまたエゴレジ関連の話題をご紹介します。

小野寺敦子

エゴレジ研究所代表。心理学博士。目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。同校心理学研究科大学院修士課程教授。同校心理学研究科博士後期課程教授。臨床発達心理士・三越伊勢丹アポセカリー顧問。
NPO法人こどものくに代表理事。

畑 潮

エゴレジ研究所GM。GCDFキャリアカウンセラー

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