え!?親が認知症だと自宅やアパートを売れない??その2

堀内貴敬

司法書士リーガル・パートナー代表司法書士 22歳で司法書士の資格を取得し、15年に渡り不動産や相続問題、相続対策のコンサルティングを行ってきた。相続対策について、法律だけでなく税務や不動産、保険などの視点も含めた総合的なアドバイスが専門分野。

「財産凍結」の典型パターン

前回のコラムで、民法という法律のルール上、「判断能力のない人」は、その人が持っている不動産や証券などの資産を処分することが出来なくなる事をご紹介しました。今回はそのような状況に対してどうやって備えていけばいいのかをご紹介しますね。

そのためにまず、財産が凍結される場面をイメージしてみましょう。たとえば、こんな状況です。

今年83歳になった敏子さん。同い年だった夫を昨年亡くし、現在は新宿区の一戸建てに一人で暮らしています。一人娘である長女は結婚して横浜市西区のマンションに暮らしています。新宿と横浜なのですが、娘はコロナの影響もあり新宿の実家にはもう一年近く帰っていません。その代わりに週に一度以上は電話するようにしていましたが、どうも最近母の様子がおかしいと感じています。

娘「お母さん、変わりはない?こないだ通帳を無くしたって言っていた件、ちゃんと銀行に再発行してもらったの?」

母「え、私そんなこと言ってたかしら?でも通帳は確かに手元にないわ。困っちゃうね。そんなことより、●●ちゃん(孫)は元気?もうこの春で中学生でしょう?」

娘「え?何言ってるの?●●は今年の春から大学生よ?下の子は高校生だし、お母さん、最近少し心配よ。お買い物とか、お金の管理とか出来てる?」

母「あら、あたしは大丈夫よ。でもそろそろ階段の上り下りもつらくなってきたから、一人ぐらしが不安よ。古い一軒家で夜は怖いしねぇ。あなたのところにお世話になるつもりもないから、あなたのマンション近くの老人ホームにでも入ろうかしら。横浜市西区よね?」

娘「そうねぇ。私もお母さんの状況は心配よ。うちのマンションはちょっと狭いからお母さんに来てもらうことは出来そうにないし…。でも、もし施設に入るとしたらお金は大丈夫なの?」

母「お父さんが残してくれたお金はあと1000万円くらいあるわよ。これと年金で何とかなるんじゃないかしら?」

娘「そうね、ちょっと老人ホームの相場は解らないけど、入る施設によるとおもうのね。お母さんにはちゃんとしたところに入ってほしいから、場合によっては新宿の家を売ることも考えなきゃいけないかもしれないけど、それはどうなの?」

母「わたしはこの家に執着はないから、売ることはかまわないわ。少し寂しい気持ちもあるけど、やっぱり一人は不安だもの。ところで、●●ちゃん(孫)は元気?そろそろ中学生になったんじゃない?」

娘「お母さん、今度の週末に新宿に行くから、ゆっくり話しましょうね。また電話するね。」

一人暮らしになったお母さん、通帳をなくしたり、同じことを何回も質問したり、孫の年齢を大きく間違えたりと娘さんが非常に不安になるような状態になってしまいました。これから新宿のご自宅を売却し、横浜の介護施設に入るそうなのですが、本当に大丈夫でしょうか…。

これが、財産凍結の典型的なパターンです。つまり、高齢の方が不動産や大きな有価証券などの資産を売却等をする際に、厳格な「本人確認・意思確認」を求められ、それに対応が出来ないために思った通りの取引が出来ない状態に陥ってしまうのです。

このケースでお母さんに起こりうる事態としては、

  • 新宿の不動産の売却の契約をすることができない
  • 介護施設への入居金の振込をすることができない

といった事が考えられます。
このような状況になってしまうと、お母さんの希望である
娘さんのマンションの近くの介護施設に入居することが出来ないかもしれません。

これでは非常に困ってしまいますよね。

「家族」で「信託」って??

実は、上記の凍結問題を解消する手法の一つとして、「家族信託」というやり方があります。この「家族信託」、ここ5年くらいで使われ始めたまだまだ新しいアプローチです。しかし、これからの「大認知症時代」には必須の知識ですから、是非覚えておいてくださいね。

そもそも、「信託」とは何でしょうか?「信託」とは、「誰かが誰かの財産を代わりに管理処分する仕組み」のことです。基本的に、「財産の管理や処分を任せたい人(委託者)」と、「財産の管理や処分を任される人(受託者)」の契約によって成立をします。特徴的なのは、「信託をすると委託者から受託者へ財産の名義が移る」という点です。財産の名義が移るから、受託者が契約できめられた事を判断してよく、委託者が契約後にどのような状態になっても対象とした財産の管理や処分には一切影響がないということになるのです。この「信託」の仕組みは、「投資信託」に代表されるような金融商品でおなじみですよね。あれも、皆さんのお金を誰かに預けて、管理処分してもらっているわけなんです。これを家族同士で行うのが、「家族信託」というわけなんです。

この「家族信託」上記のとおり委託者から受託者へ財産の名義を移します。それによって、財産の管理や処分の権限が受託者に発生するので、これまでお話ししたような「財産凍結」を回避できることになるのです。

上記のお母さんと娘さんの事例で考えると、お母さん(委託者)から娘さん(受託者)へ新宿の不動産を信託すれば、娘さんに名義が移るので、娘さんの判断で、お母さんの為に不動産を売却し、得た代金をお母さんの介護施設費の為に引き続き管理することが出来ます。これによってお母さんの満ち足りた生活を実現することが出来ますね。

備えあれば憂いなし

以上、非常に簡単にですが、「家族信託」についてご説明をさせていただきました。皆様のご家族にも当てはまることはありましたか?こういった法律系の対策はついつい、後回しにしがちですよね。でも、後回しにしていたら、凍結されてしまって後悔してしまう方も非常に多いです。そんなことにならないように、良い情報を集めておいて、ご自身のご家庭で使うべきかそれとも他の方法をとるべきか是非検討してみて下さい!私は15年以上このような提案業務をさせていただいておりますが、相続対策を行って、後悔をしている方は見たことがありません。備えあれば憂いなし、安心した生活を送るために、是非一度考えてみてくださいね。

プロフィール

司法書士リーガル・パートナー代表司法書士。22歳で司法書士試験に合格し、都内司法書士事務所で経験を積んだのちに独立。法律、税金だけでなく不動産活用や保険など専門知識を横断的に活用した相続対策の提案が専門分野。企業からのご依頼や自主開催のセミナー講師も多数登壇。

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